1 2020/1/4 『韋駄天街道』 (監督:萩原遼。長谷川一夫、榎本健一、岸井明、山根壽子。1944、東宝) 終盤まで、正義漢の風来坊が集落の諍いや困難を解決しつつ、拾われっ子がほんとうの親に帰されるといういい人情話なのだが、終幕で唐突に幕府崩壊、明治維新、新政府樹立となり、駕篭かきや飛脚が郵便局員になるという、戦意高揚映画としてもよくわからない終わり方をしたのが可笑しかった
2 2020/1/4 『カビリア』 (原題『Cabiria』、原案:ギュスターヴ・フローベール、エミリオ・サルガーリ、脚本:ガブリエーレ・ダンヌンツィオ、ジョヴァンニ・パストローネ、監督:ジョヴァンニ・パストローネ。リトル・カテナ、ジーナ・マランゴーニ、ウンベルト・モッツァート、バルトロメオ・パガーノ、ラファエル・ディ・ナポリ、ダンテ・テッツァ、エミリオ・ヴァルダネス、イタリア・マンツィーニ、エドアルド・アヴェンスネス、エンリコ・ジェメッリ、レティツィア・クァランテ。1914、伊イタラ・フィルム) とにかく金と時間をふんだんに使った作品らしい。その辺はエトナ山の噴火の特殊効果やカルタゴの神殿やアルキメデスによる大反射鏡などやたらに豪華なセット、そしてその屋台崩しなどから自然に感じられるが、各種データを見ると実際にそうだったようだ。脚本にダンヌンツィオが名を連ねている辺りなども、そんな金にあかしたという側面が感じられるが、一方で当時のイタリアのナショナリズムのにおいも強い。当時としては斬新な映像演出も多いのだろうが、今となっては映画そのものの面白さよりも、そうした周辺情報を見ていくのが楽しい映画のようだ
3 2020/1/5 『カルメン』 (原題『Carmen』、原作:プロスペル・メリメ、監督:セシル・B・デミル。ホレス・B・カーペンター、ウォーレス・リード、ジェラルディン・ファーラー、ペドロ・デ・コルドバ。1915、米Paramount Pictures) モノクロフィルムにシークエンスごとに色を着けるという手法・発想が面白かった。オペラと比べてどうかという点は私には言えないが、工場でのキャットファイトを含む立ち回りの面白さは感じたな。ジェラルディン・ファーラーの野卑な魅力もなかなかだった。絵としては、ひとつ前に観た『カビリア』が豪奢だった所為もあるが、こじんまりした印象であった
4 2020/1/5 『エマク・バキア』 (原題『Emak Bakia』、監督:マン・レイ。ジャック・リゴー、キキ・ド・モンパルナス、マン・レイ。1927、仏) 何度か観たあとにまた観て面白くない訳ではないし、当時どれくらい斬新だったんだろうかは想像できるが、しかし今となっては芸術的価値はよくわからない。PCの普及期にスクリーン・セイヴァーとして売り出したら儲かったのではないかなとは思った
5 2020/1/5 『チャールストン』 (原題『Sur Un Air De Charleston』、監督:ジャン・ルノワール。カトリーヌ・エスラン、ジョニー・ハギンズ、ピエール・ブラウンベルジェ。1927、仏Ne´o-Film) ほぼ子供騙しの映画だが、その子供騙しがいまでも通用するような不思議な作品。ジャン・ルノワールの持ち味なのだろうか
6 2020/1/5 『リング』 (原題『The Ring』、監督:アルフレッド・ヒッチコック。リリアン・ハル=デイヴィス、カール・ブリッソン、イアン・ハンター、フォレスター・ハーヴェイ。1927、英) ヒッチコックと聞くと、ちょいと期待はずれだったかな。しかしこの頃の作品は『下宿人』くらいしか観ていないのでなんとの言えない
7 2020/1/6 『ボルベール 帰郷』 (原題『Volver』、監督:ペドロ・アルモドバル。ヨアンナ・コバ、ペネロペ・クルス、ロラ・ドゥエニャス、ブランカ・ポルティージョ、チェス・ランプレアヴェ、マリア・イザベル・ディアス・ラゴ、アントニオ・デ・ラ・トッレ、カルロス・ビアンコ、レアンドロ・リヴェラ、ノイサ・サンス、カルメン・マウラ。2006、西Warner Bros.) 死んだ人間と生きている人間と死に行く人間の妙なる絡まり合いを描いた物語もさることながら、地べたで生きる人間の生命力や情の細やかさの描き方に感動した。ものすごいというような映画ではないが、こういう映画が撮られていることは救いというもののひとつだと思う
8 2020/1/6 『東京さのさ娘』 (監督:酒井欣也。有島一郎、楳崎博規、小瀬朗、江利チエミ、菅原文太、大泉滉、坪内美詠子、森川信、須賀不二男、青山宏、清川虹子、山路義人、姫ゆり子、吉田輝雄、牧紀子、渥美清、E・H・エリック、柳家金語楼、トニー谷、進藤英太郎。1962、松竹) これまたどうという話でもないし軽さが過ぎるような気もするが、藝達者な面々の芝居に引き込まれてしまう、ものすごいというような映画ではないが、こういう映画が撮られていることは救いというもののひとつだと思わせられる一本。でもさのさはあんまり関係なかったのではないかな。ドドンパのブームが去りつつあったので、正面からドドンパと言えなかったのかなと邪推した
9 2020/1/7 『こわれゆく女』 (原題『A Woman Under the Influence』、監督:ジョン・カサヴェテス。ピーター・フォーク、アンジェロ・グリサンティ、ジョン・フィネガン、ジェイムス・ジョイス、チャールズ・ホーヴァス、ヴィンセント・バルビ、レオン・ワグナー、ジョン・ホウカー、シルベスター・ワーズ、マシュー・カッセル、マシュー・ラビオルトー、クリスティーナ・グリサンティ、レイディ・ローランズ、ジーナ・ローランズ、ジョージ・ダン、マリオ・ガロ、キャスリン・カサヴェテス、エディー・ショウ、N・J・カサヴェテス、エレン・ダヴァロス、フレッド・ドレイパー、ジャッキー・ピーターズ、エリザベス・ディアリング。1974、米Faces International) ひとりの主婦が精神的に追いつめられていく様は、今と比べて周囲の理解がなかった分とても残酷な描き方に思えるが、当時の時代背景をそれほど厳密に受け止めずに全体を観ていると、なんだかとても温かいものが伝わってくる。みなその時々の状況での自分の意見を強烈に主張するが、強烈に主張しながらもその場で最も大事なことは何かを常に察知しようとして最終的にはそういう方向にみなが落ち着いていく、その様の描き方が見事というか。ピーター・フォークやジーナ・ローランズは言うまでもなく、脇を固める役者たちや子供たちに至るまでに厳密な演出を施すことでそういうじわじわとした温かみが伝わってくるのかなと思ったが、この見方が当っていれば、カサヴェテスの手腕には舌を巻かざるを得ない
10 2020/1/7 『ラヴ・ストリームス』 (原題『Love Streams』、監督:ジョン・カサヴェテス。ジョン・カサヴェテス、レネ・ル・フローレ、ジュリー・アラン、ヴィクトリア・モーガン、ジョアン・ダイクマン、レスリー・ホープ、バーバラ・ディフレンツァ、シンディ・デイヴィッドソン、ディアンヌ・アボット、ジーナ・ローランズ、リサ・ビューウィット、ジョアン・フォリー、アル・ルーバン、シーモア・カッセル、マーガレット・アボット、エディ・ドンノ、ジェイコブ・ショウ、ヒューゴ・ナプトン、ジョン・ロゼリウス、ジェシカ・セント・ジョン、トニー・ブルベイカー、レニー・ル・フロア、ロバート・フィールドスティール。1984、米Cannon Film Distributors) シンプルな愛と喪失の物語のように見えて、細かい要素が多彩。ダメな人間たちの悲惨な話のようでいて、温かい笑いも多い。飛躍がすっとひとまとまりになる部分も見事。これぞ映画、という名作と思った
11 2020/1/8 『岸辺の旅』 (原作:湯本香樹実、監督:黒沢清。深津絵里、浅野忠信、小松政夫、千葉哲也、村岡希美、石井そら、蒼井優、柄本明、奥貫薫、藤野大輝、首藤康之、赤堀雅秋。2015、ショウゲート) とても切ない映画だが、人が人を想う気持ちの妙味を十二分に味わわせてくれて、大切な人を大切にしたいと想わせてくれる。浅野忠信がいつでも消え失せてしまいそうな撮り方が秀逸。役者全員の芝居がしみじみと素晴しい。音楽も素晴しいと思ったら、大友良英・江藤直子コンビだった。概ね飲み込んだが、柱や白いスチールパイプ製のベッドの多用の意味を理解したい
12 2020/1/10 『キス&キル』 (原題『Killers』、原案:ボブ・デローサ、監督:ロバート・ルケティック。キャサリン・ハイグル、トム・セレック、ナザレス・アゴピアン、アシュトン・カッチャー、マーティン・マル、リン・マッカーサー、コディ・ロウレット、キャサリン・ウィニック、ロブ・リグル、リサ・アン・ウォルター、ケイシー・ウィルソン、メアリー・バードソング、アッシャー・レイモンド、ギスレイン・カロシオ。2010、米Lionsgate) CIAエージェントのすったもんだに普通の家庭に育った娘の日常が入り込んでいく(あるいはその逆と言ったほうが正確か)様の描き方が面白い。緊張と緩和の塩梅が絶妙だし、パーティの出席者の中に主人公を狙う殺し屋たちが揃ってるのも可笑しい。どんでん返しはさほどでもなかったが、あれくらいのほうが“普通に落ち着く”可笑しさが際立つのかもしれない
13 2020/1/10 『ドノバン珊瑚礁』 (原題『Donovan's Reef』、原作:ジェームズ・A・ミッチェナー、監督:ジョン・フォード。リー・マービン、ジャクリーヌ・マルーフ、ジェフリー・バイロン、シェリリン・リー、ジャック・ワーデン、ジョン・ウェイン、シーザー・ロメロ、ジョン・フォン、マルセル・ダリオ、マイク・マザーキ、ドロシー・ラムーア、エリザベス・アレン。1962、米Paramount Pictures) 全体に物語の運びや笑いどころがちぐはぐな感じだが、不思議と観ていていやにならない、珍しい類いの映画だった。ジャクリーヌ・マルーフの高貴な佇まいは見物
14 2020/1/11 『一日の行楽』 (原題『A Day's Pleasur』、監督:チャールズ・チャップリン。エドナ・パーヴァイアンス、チャールズ・チャップリン、ヘンリー・バーグマン。1919、米First National Exhibitors' Circuit) 折り畳み椅子を広げるところなどの笑いどころは今の目で見たら頭で考えたんだなあという印象も多かったが、船酔いを利用したり、往来でコールタールがぶち巻かれてからの展開やチャップリンの身体能力を使った笑いなど、目を見張るものがあった
15 2020/1/12 『犬の生活』 (監督:チャールズ・チャップリン。チャールズ・チャップリン、ジェイムズ・T・ケリー、トム・ウィルソン、ヘンリー・バーグマン、シドニー・チャップリン、グランヴィル・レッドモンド、ミニー・チャップリン、エドナ・パーヴァイアンス、デイヴ・アンダーソン、アルバート・オースティン、バド・ジェイミソン。1918、米First National Exhibitors' Circuit) 繰り返しのギャグ(冒頭の警官との追いかけっこ、職安での順番取り、屋台でのタダ食いなど)が少ししつこいが、喜劇としては完璧と言ってよいのだろう。しかし完璧過ぎる点で驚きが少なく、喜劇映画を観た喜びは意外に少ないと思った。とんでもない飛躍が感じられないというか。犬が活きるような笑いもほとんどなかった(というか、わからなかった)
16 2020/1/14 『スローなブギにしてくれ』 (原作:片岡義男、監督:藤田敏八。浅野温子、山崎努、古尾谷雅人、原田芳雄、浅野裕子、竹田かほり、春川ますみ、鶴田忍、浜村純、滝奈保栄、室田日出男、宇野靖世、岸部一徳、宮井えりな、小林綾子、伊丹十三、赤座美代子、奥田瑛二、鈴木ヒロミツ、晴乃ピーチク、きくち英一、高橋三千綱、和泉聖治、石橋蓮司。1981、東映) 今となっては。恐らく物語の中身よりも語り口が重要な作品だと思うが、そう考えると映画化については、いかに名優がいたところで(特に山崎努と室田日出男)それが語り口という域に達してはおらず、中身がないだけのように見えてしまった。映画としてどう評価していいのか迷う一本。まあそんなのは多いか。しかしやはり、片岡義夫の小説をほぼ普通の外見や佇まいの日本人とせいぜい基地の町程度の日本の風景だけで演ろうとしたら失敗するよなとも思う
17 2020/1/14 『哀しみの街かど』 (原題『The Panic in Needle Park』、原作:ジェームズ・ミルズ、監督:ジェリー・シャッツバーグ。キティ・ウィン、ラウル・ジュリア、アル・パチーノ、キール・マーティン、マイケル・マクラナサン、ウォレン・フィナーティ、リチャード・ブライト、ラリー・マーシャル、ナンシー・マッケイ、アラン・ヴィント。1971、米Twentieth Century Fox) 紛れもない地獄の中にも人間は希望を見出すものだな、という感想。いや地獄だから故、ということを描いたのかな
18 2020/1/14 『モンキーボーン』 (原題『Monkeybone』、監督:ヘンリー・セリック。デイヴィッド・フォーリー、ブレンダン・フレイザー、ブリジット・フォンダ、ローズ・マクゴーワン、ジョン・ターターロ、ミーガン・マラリー、アラン・ゲルファント、ジャンカルロ・エスポジト、ウーピー・ゴールドバーグ、クリス・カタン。2001、米Twentieth Century Fox) 小学生の想像をそのまま映画にしたようなバカ映画の傑作。敢えて底の浅いドタバタを本気でやっているように意図的に細かく演出したものと思う。こういうバカ映画にとんでもない美女がひとり入るとバカさがより際立つと思うが、その役割をブリジット・フォンダが見事に果たしていた
19 2020/1/15 『折鶴さんど笠』 (原作:陣出達朗、監督:福田晴一。高田浩吉、伊吹友木子、高屋朗、北上弥太朗、野沢英一、中島淑恵、三橋美智也、大邦一公、須賀不二夫、市川小太夫、瑳峨三智子、磯野秋雄、宮崎照美。1957、松竹) 歌う高田浩吉と寝る瑳峨三智子、歌う三橋美智也としゃがむ伊吹友木子のカットバックが妙に印象的だった。全編通じて高田浩吉の顔が立派だったのも印象的だが(立ち回りも素晴しい)、大した役ではないかなと思っていた北上弥太朗の終盤での爆発具合も素晴しかったな(「裏切ったんじゃねえ、表返ったんだよ」という台詞にもしびれた)。娯楽映画としては一流と思う
20 2020/1/16 『喧嘩鴉』 (堀内真直。高田浩吉、高橋貞二、千秋みつる、山根寿子、山路義人、松井晴志、田浦正巳、野添ひとみ、澤村國太郎、桜むつ子、永田光男、近衛十四郎。1954、松竹) 立ち回りから粋な計らいから踊りまで、高田浩吉の魅力を堪能できる一本であり、高橋貞二のこの頃はまだ二枚目ながらすでにとぼけた味わいも楽しめる一本。人情の機微の描き方がなんとも心地よい
21 2020/1/16 『兵六夢物語』 (原作:獅子文六、監督:青柳信雄。黒川弥太郎、横尾泥海男、森健二、如月寛太、大江将夫、榎本健一、広町トキ子、相川路子、柳田貞一、中村是好、高峰秀子、霧立のぼる、東宝舞踏隊、宏川光子、伊藤智子、尾上栄二郎、永井柳筰。1943、東宝) 戦中作だけあって最初は終身の教科書のような映画だと思ったが、後半の化け物の場面がサイケでドラッグな感じで笑った(お寺の場面のお経のいい加減さなど大笑いだった9。まだ呑気さが残っている時代だったのだろうか。そしてその世界観の転換には、高峰秀子の役造りと芝居が大きく影響していたと思う
22 2020/1/17 『ゼロの焦点』 (原作:松本清張、監督:犬童一心。広末涼子、西島秀俊、杉本哲太、市毛良枝、長野里美、野間口徹、本田博太郎、黒田福美、木村多江、鹿賀丈史、中谷美紀、崎本大海、モロ師岡、左時枝。2009、東宝) 野村芳太郎版と比べるとほぼ零点。中谷美紀と木村多江の芝居に心動かされた(特に中谷美紀の人物造形の腕前はすごいと思った)以外は特になし。絵造りから、戦後を引きずっている時代のにおいが臭ってこないところが零点と思った所以だが、しかし2009年にこれを撮るならそこは仕方がないのかもしれない。でもそれなら何故撮った、という疑問は残った
23 2020/1/17 『愛すべき女・女たち』 (原題『Lu Plus Vieux Metier du Monde』。第一話 監督:フランコ・インドヴィナ。ミシェル・メルシェ、ガブリエレ・ティンティ、エンリコ・マリア・サレルノ/第二話 監督:マウロ・ボロニーニ。エルザ・マルティネッリ、ガストン・モッシャン/第三話 監督:フィリップ・ド・ブロカ。ジャンヌ・モロー、ジャン・クロード・ブリアリ、ジャン・リシャール/第四話 監督:マイケル・プフグハー。ラクウェル・ウェルチ、マルタン・ヘロ/第五話 監督:クロード・オータン・ララ。ナディア・グレイ、フランス・アングラード、フランシス・ブランシュ・ダリオ/第六話 監督:ジャン・リュック・ゴダール。マリル・トロ、ジャック・シャリエ、アンナ・カリーナ。1967、仏Athos Films独Nora-Filmverleih伊Cineriz) 第五話までは普通の愛すべき艶笑喜劇なのに、トリのゴダールだけあまりに異色なのが可笑しい。しかしすっかり忘れていたが、最近だと二年半前に一度観ていた
24 2020/1/18 『レディ・ガイ』 (原題『The Assignment』、監督:ウォルター・ヒル。シガニー・ウィーバー、トニー・シャルーブ、エイドリアン・ハウ、ミッシェル・ロドリゲス、キャロライン・チャン、アンソニー・ラパリア、ケイトリン・ジェラード、ブレント・ラングトン、ジョン・カレンダー、ビル・クロフト、デイヴィッド・ジャコックス、アレックス・ザハラ、ダルク・クオン、テリー・チェン、ポール・マグリオン、ケン・カーシェンガー。2016、米Saban Films) ポーやシェイクスピアの中途半端な引用には失笑させられたが(シガニー・ウィーバーの人物造形以外にあまり意味がなかったし、その人物造形もそれほど印象的ではなかったので)、ミッシェル・ロドリゲスの根性ありそうな芝居はなんだか印象に残った。つまらないようで不思議な印象が残った
25 2020/1/18 『パーフェクト』 (原題『Perfect』、監督:ジェームズ・ブリッジス。ジョン・トラヴォルタ、アン・デ・サルヴォ、ヤン・ウエナー、ジェイミー・リー・カーティス、ケネス・ウェルシュ、ラレイン・ニューマン、マリル・ヘナー、ラレイン・ニューマン、マシュー・リード。1985、米Columbia Pictures) 当時の流行ものをおざなりに採り上げただけの駄作! という感想はなかなか覆せないが、途中でジョン・トラヴォルタがエアロビを踊るところなどはまあ面白かった。でもそれならエンドロールでも踊って欲しかったなあ
26 2020/1/18 『マギー』 (原題『Maggie』、監督:ヘンリー・ホブソン。アーノルド・シュワルツェネッガー、アビゲイル・ブレスリン、ジョエリー・リチャードソン、カースン・フラワーズ、アイデン・フラワーズ、ダグラス・M・グリフィン、J・D・エヴァーモア、レイチェル・ホイットマン・グローヴス、ジョディー・ムーア、ラーデン・グリア、マッティ・リプタク、ブライス・ロメロ。2015、米Lionsgate) ゾンビ映画ではあるがバカ映画の要素はまったくなく(なきゃならない理由もないが)、その点では正体不明の感染症がモチーフでもよくて、ゾンビ映画である必要はなかったように思う。父娘の愛情の深さはよく描かれていて、アーノルド・シュワルツェネッガーがごく普通の不器用な父親をずっしり好演している点は高く評価できると思うが、しかしそう考えると義理の母(ジョエリー・リチャードソン)が途中で家族を支え切れなくなって去って行ったり、マギー(アビゲイル・ブレスリン)が終幕で実の母サラ(クリスティーヌ・トンリー)のことを思い出したりというところは、現実的なのだろうが家族の描き方としては些か冷酷で浅い印象が残った
27 2020/1/18 『女浮世風呂』 (監督:井田探。二本柳敏恵、林美樹、美矢かほる、辰巳典子、清水世津、大月麗子、谷ナオミ、乱孝寿、火鳥こずえ、内田高子、名和宏、葉山良二、冬木京三、大原譲二、泉田洋志、S・クリケット、大塚弘二、国創典、美舟洋子、里見浩二、新井麗子、谷村昌彦、福田トヨ、鶴岡八郎、二本柳寛。1968、日活) いきなりの尼レズからいい間で名和宏が登場したり、その名和宏がいつになく変態丸出しの役だったり、湯屋にマジックミラーの仕掛けがあったり、それでいて政治的なメッセージがあったり探偵ものとして意外にきちんとしてて面白かったりなど、見どころの多い映画だった。ポルノとしてどうかだけの興味で観たので、思わぬ収穫
28 2020/1/20 『島育ち』 (監督:八木美津雄。岩下志麻、川津祐介、寺島達夫、青山宏、殿山泰司、水木涼子、末永功、稲川善一、千之赫子、藤原釜足、北龍二、榊ひろみ、田端義夫、高宮敬二、須賀不二男。1963、松竹) 寺島達夫の純朴さに泣かされる。それを受ける岩下志麻と川津祐介も見事。特に川津祐介のいやな都会のエリートっぷりがたまらない。ヒット歌謡(縞育ち)を題材に作った歌謡映画のようだが、物語としても映画としてもかなり練られた作品と思った。よくよく考えると喜界島も東京も描写の仕方は物足りないが、しかし観ている最中はそうは思わなかった
29 2020/1/20 『唄祭けんか道中』 (監督:倉谷勇。環三千代、沖諒太郎、三浦洸一、浦路洋子、森川金太郎、川上健太郎、仁礼功太郎。1956、東宝) 主要登場人物四人環三千代、沖諒太郎、三浦洸一、浦路洋子の佇まいや気風がただただ気持ちのよい映画。45分と短く、話もすっきりしていて、楽しませてもらいながらあとに何も残らないのが素晴しい
30 2020/1/20 『スティーブン・キング 痩せゆく男』 (原題『Stephen King's Thinner』、原作:スティーブン・キング、監督:トム・ホランド。ロバート・ジョン・バーク、ルシンダ・ジェニー、ベサニー・ジョイ・レンズ、ジェフ・ウェア、ジョー・モントーニャ、カリ・ウーラー、ウォルター・ボビー、ジョン・ホートン、マイケル・コンスタンティン、スティーブン・キング、ダニエル・フォン・バーゲン、サム・フリード、エリザベス・フランツ、ピーター・マロニー、ロバート・フィッチ。1996、米Paramount Pictures) 原作をなぞっただけの、本を読まない人向けの映画という印象。マジョリティからマイノリティへの差別意識やマイノリティが醸し出す(とマジョリティが勝手に受け取る)不気味さなどの映像表現が物足りなく、これなら翻訳でも原作を読んだほうがよほど心打たれると思う。二度は観ないな
31 2020/1/21 『破れ太鼓』 (監督:木下恵介。賀原夏子、村上記代、青山宏、小林トシ子、永田光男、木下忠司、村瀬幸子、桂木洋子、大泉滉、森雅之、大塚正義、阪東妻三郎、宇野重吉、桑原澄江、滝沢修、東山千栄子、小沢栄、沢村貞子、玉島愛造。1949、松竹) 冒頭のアングルや展開が斬新というか表現意欲が強く現れているように思った。木下忠司の音楽の素晴しさも堪能できたし、木下忠司本人が出ているのにも驚いた。戦後の大金持ちを描きつつ基本はホームドラマで、しかし家族が崩壊していく様を冷静に捉えたある意味残酷な映画ではあるが、根底に深い愛情が流れていて、雷親爺がどんなに威張ろうともその本人も周囲もなんだか可愛らしい点が面白い。阪東妻三郎の成り上がり者ならではの変な貫禄の出し方も見事。出番は少ないが、滝沢修と東山千栄子の、狂っているとまではいかないがどこか現実離れしている芸術家夫婦の描き方も面白かった
32 2020/1/21 『ベニスに死す』 (原題『Morte a Venezia』、原作;トーマス・マン、監督:ルキノ・ヴィスコンティ。ダーク・ボガード、マーク・バーンズ、ビヨルン・アンデルセン、シルヴァーナ・マンガーノ、キャロル・アンドレ、マリサ・ベレンソン。1971、仏伊Warner Bros.) これはこの歳になってアッシェンバッハの気持ちになって観るととても面白い。「そうだよ、自分を笑え」という台詞に頷いた。ビヨルン・アンデルセンは1時間10分くらいからの赤い水着にもグッときたが、今となってはもう少し尻が横に櫓勝手いたらもっとグッときたのではないかと思う
33 2020/1/23 『タクシー運転手 約束は海を越えて』 (原題『택시운전사』(A Taxi Driver)、監督:チャン・フン。ソン・ガンホ、イ・ボンリョン、ホ・ジョンド、ユ・ウンミ、クォン・スンジュン、チョン・ヘジン、トーマス・クレッチマン、チョン・ジニョン、コ・チャンソク、リュ・ジュニョル、イ・ホチョル、ユ・ヘジン、イ・ヨンイ、パク・ヒョックォン、チェ・グィファ、イ・ジョンウン、リュ・テホ、オム・テグ。2017、韓Showbox/Mediaplex) 実話を基にしていながら、料理の仕方がとてもうまい。韓国の市井の人々の朗らかさや優しさと、歴史的な軍政による弾圧行為の重さとの明暗の描き方に舌を巻いた。物語そのものよりも、登場人物ひとりひとりの心意気にグッときた、というのが正直なところかもしれない
34 2020/1/23 『三人の女性への招待状』 (原題『The Honey Pot』、原作:トマス・スターリング、監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ。ヒュー・マニング、デイヴィッド・ドディメッド、レックス・ハリソン、クリフ・ロバートソン、イーディー・アダムス、キャプシーヌ、スーザン・ヘイワード、マギー・スミス、アドルフォ・チェリ。1967、米United Artists) 全体的にテンポがのんびりしているのが気になったが、渋い味わいのよい喜劇だった。一見地味な脇役と思われたマギー・スミスが最終的には実に魅力的。でも伏線の張り方とか受け手に対する裏切り方とか、もうちょっと話をうまく組み立てられるんじゃないかなあとも思ったが、そうしなかったところが味わいなのだろうか
35 2020/1/24 『カンサス・シティの爆弾娘』 (原題『Kansas City Bomber』、原作:バリー・サンドラー、監督:ジェロルド・フリードマン。ラクウェル・ウェルチ、パティ‘ムー・ムー’ケイヴィン、ケヴィン・マッカーシー、ジョディ・フォスター、マルチネ・バーティエット、ジーン・クーパー、ジャンヌ・クーパー、キャサリン・パス、ヘレナ・カリアニオテス、ノーマン・アルデン、ウィリアム・グレイ・エスパイ。1972、米MGM) 女同士の私闘は面白かったし、ラクウェル・ウェルチはじめ選手たちの困窮しながらやさぐれている塩梅もよかったが、見終わって数日経つと印象がすーっと薄れてしまった。ケヴィン・マッカーシー扮するプロモーターに翻弄される様やそこから脱する様にもうひと捻りほしかったかな。それがあればグッと印象に残る映画になったような気もする
36 2020/1/27 『赤垣源蔵』 (原作:長谷部武臣、監督:池田富保。河部五郎、葛木香一、小松みどり、沢村春子、辻峰子、磯川元春、澤田清。1929、日活) 『忠臣蔵』の中の有名な挿話だが、この映画を観てだけの感想としては、兄貴(塩山伊左衛門)の考え方は間違ってるし、さらにそれを周囲の人間に伝えておかなければわかってもらえるはずなんかないじゃないか、であった。そして映画の内容や出来よりも、解説の大林宣彦の様態のほうが気になってしまった(解説的なことはほぼなにも語らなかった)
37 2020/1/27 『砂の器』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。丹波哲郎、森田健作、山谷初男、森三平太、今橋恒、稲葉義男、猪俣光世、別所立木、高瀬ゆり、加藤剛、島田陽子、穂積隆信、夏純子、山口果林、松山省二、信欣三、松本克平、花沢徳衛、加藤健一、笠智衆、佐分利信、春川ますみ、瀬良明、渥美清、菅井きん、村山記代、櫻片達雄、久保晶、吉田純子、松田明、殿山泰司、内藤武敏、野村昭子、加藤嘉、春日和秀、浜村純、緒形拳、今井和子、戸川美子。1974、松竹) 優れた原作を優れた演出で優れた役者に芝居してもらえば、素直にいい映画ができるという見本のような作品と思う。もちろん、終盤の容疑者の過酷な子供時代の回想と容疑者自身の作になる(という設定の)音楽と組み合わせるという演出の妙味もものすごく効いているわけだが。それも含めて長く記憶されていくべき名作と思う。ほとんど喋らない加藤嘉と緒形拳に終幕で観客の心をぐっと持っていかせるという組み立て方も憎い
38 2020/1/28 『母なる証明』 (原題『마더』(Mother)、原案・監督:ポン・ジュノ。キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、チョン・ミソン、クゥオン・ビョンギル、クゥオン・ビョムタク、ハ・デクソン、リン・ドンフン、ユン・ジェムン、チョ・キュンスク、チョン・ウヒ、31ヘーラ、パク・ミョンシン、ソン・セビョク、キム・ジングー、ヨ・ムーヨン、イ・ヨンスク、キム・ホンジブ。2009、韓CJ Entertainment) 冒頭のダンス、本編の狂ったような母親の愛情の表現、すべてを悟ったあとのバスの中での再びのダンスと、キム・ヘジャという役者の凄まじさを思い知った。強烈ではないがあとから効いてくるようなどんでん返しの組み立て方にも感心
39 2020/1/28 『求婚専科』 (原題『Sex and the Single Girl』、原作:ヘレン・ガーリー・ブラウン、監督:リチャード・クワイン。トニー・カーティス、ウィリアム・ラントー、マックス・ショウエイター、エドワード・エヴァレット・ホートン、ナタリー・ウッド、メル・ファーラー、レスリー・パリッシュ、フラン・ジェフリーズ、ヘンリー・フォンダ、ローレン・バコール、カウント・ベイシー、スタッビー・ケイ、ラリー・ストーチ、カーリー・クライン。1964、米Warner Bros.) 整合性の破綻のさせ方も含めて、すべて完璧。夫婦の離婚問題も折り込み、その深刻さも匂わせながら、いい塩梅で喜劇的要素を混ぜてくる。そして終盤は唐突な、そしてこれまた破綻しながらただただ可笑しいカーチェイス。ただただ最高
40 2020/1/30 『雨のなかの女』 (原題『The Rain People』、監督:フランシス・フォード・コッポラ。シャーリー・ナイト、ロバート・モーディカ、ジェームズ・カーン、アンドリュー・ダンカン、ローラ・クリューズ、ロバート・デュヴァル、マーヤ・ジメット、エレノア・コッポラ。1969、米Warner Bros./Seven Arts) フランシス・コッポラの非常に個人的な映画であり、独立後第一作という点だけでも価値ありと感じさせられる。ロードムービーとかアドリブ風ドキュメンタリー風の撮り方というのは、今となってはそれほど驚くことではないが、主人公(シャーリー・ナイト)の物語よりも脳に損傷を負ってしまったフットボール選手(ジェームズ・カーン)の物語のほうに強く惹かれたのは、作品の背景をほぼ知らないで観た場合の収穫であった
41 2020/1/30 『ドッグ・ソルジャー』 (原題『Dog Soldiers』、原作:ロバート・ストーン、監督:カレル・ライス。マイケル・モリアーティ、ゲイル・ストリックランド、ニック・ノルティ、チューズデイ・ウェルド、シェルビー・バリク、ジョン・デュレン、リチャード・メイサー、レイ・シャーキー、アンソニー・ザーブ、チャールズ・ハイド、ジェイムズ・クランナ、ティモシー・ブレイク、ボビー・コッサー。1978、米United Artists) ビート族、ベトナム戦争、ヒッピー運動といったアメリカの一時代の終焉を描いた作品だそうだが、そう言われればまあそうだと思う。しかしそれを知らなくても、(変な言い方だが)小さい巨悪と一匹狼の死闘の仕方とか、仁義を守り抜いたほうが死んで仕事を持ち込んだほうが生き残るその描き方とか、山の中での逃走と闘争の組み立て方とか、面白い箇所はたくさんあった。紹介者の町山智浩が言うほど、あまり文学臭はしなかったかな
42 2020/1/31 『グエムル 漢江の怪物』 (原題『괴물』(The Host)、監督:ポン・ジュノ。ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、コ・アソン、ペ・ドゥナ、デイヴィッド・アンセルモ、パク・ヘイル、イ・ジェウン、イ・ドンホ、ヨン・ジェムン。2006、韓CJ Entertainment) 怪物が何の比喩なのか(東洋を下に見て支配しようとする西洋−主に米国への批判なのか、韓国の政権が米国の傀儡に過ぎないことの揶揄なのか)、その受け取り方によって大きく見方が変わるとは思うが、窮地に陥った家族を救おうとする物語でもあり、そちらの観点から素直に観ると、小さい人たちを実際に小さい人たちが持つ間抜けさや可愛らしさも含めて描いている点で、好感を持った(導入部などを漫画的にわかりやすく描いている点も嫌味がなく効果的だったと思う)。笑いの感覚や笑いを入れる塩梅もよく考えられていたと感じる
43 2020/1/30 『影の車』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。加藤剛、岩下志麻、小川真由美、岩崎加根子、岡本久人、永井智雄、野村昭子、滝田裕介、小山梓、芦田伸介。1970、松竹) 話の作りはうまいなとは思うが、衝撃度は小さかった。回想の場面のハレーションを起こしたような映像は、そうした話の衝撃の小ささを補う意味があったのだろうか、などと考えた
44 2020/2/1 『監獄アマゾネス/美女の絶叫』 (原題『Reform School Girls』、監督:トム・デ・シモーネ。リンダ・キャロル、シェルリ・ストウナー、ロビン・ワトキンス、ローリー・シュワルツ、シャルロット・マクギニス、パット・アスト、ウェンディ・O・ウィリアムス、アンドレア・ダーネリ、デニス・ゴーディ、シビル・ダニング、ジェイムズ・スタスキール。1986、米New World Pictures) なんでこんな映画を買い付けて放映したのだろうか、と言いたくなるようなどうでもいい映画だった。女子少年院の中でみんな派手な下着姿というのは面白かったし、普段日の目を見ない役者がそれなりに力一杯頑張っているようなのも面白くはあったが(特にウェンディ・O・ウィリアムスとパット・アスト)、女囚ものはやはり日本のほうがいろいろ工夫があってよくできているなと再認識。でもこれはこれであまりにバカ映画で面白かった
45 2020/2/1 『マッド・ダディ』 (原題『Mom and Dad』、監督:ブライアン・テイラー。アン・ウィンターズ、ロバート・T・カニンガム、ザカリー・アーサー、セルマ・ブレア、ニコラス・ケイジ、シャロン・ジー、アディン・ステッキアー、オリヴィア・クロチッチア、ジョセフ・D・ライトマン、ブリオン・デイヴィス、レイチェル・メルヴィン、ボビー・リチャード、リラ・テローネ、ランス・ヘンリクセン。2017、米Momentum Pictures) とつぜん親が子供を殺したくなる、というシンプルな設定ながら、話の組み立て方がうまくて引き込まれる。といっても徒に複雑にするわけではなく、可能な限りシンプルでわかりやすく構成しつつストンストンと巧い落としどころを用意して、ときにはアッと思わせたり笑わせたりする。ニコラス・ケイジの変な可笑しさもそうした味わいに寄与していると思った。思わぬ佳作
46 2020/2/1 『エル ELLE』 (原題『ELLE』、原作:フィリップ・ディジャン、監督:ポール・ヴァーホーヴェン。イザベル・ユペール、ジョナ・ブロケ、アンヌ・コンシニ、ユーゴ・コンツァイマン、アルチュール・マゼ、ルカス・プリゾ、マリエ・ベルト、母、ラファエル・ラングレ、ヴォリジニー・エフィラ、ロラン・ラフィッテ、シャルル・ベルリン、クリスティアン・ベルケル、アリス・イザーズ、ヴィマラ・ポン、ステファン・バク。2016、仏SBS Distribution) いきなり主人公女性が強姦される場面から始まり、観ているうちに主人公を取り巻く人間関係もいろいろな問題があることがわかってきて、それでもまあそんなもんでしょうよとばかりに生活していく主人公の佇まいが印象的だった。そう生きるべきという主張があるわけではなく、観ているほうもそう思うわけでもなく、そうした塩梅が面白かったのかもしれない。そういう意味では主題がぼやけている映画であるような気もしたが、それでいて観る者を惹き付ける映画というのも撮ろうとして撮れるもんどえはないなと思った。という点で結構な傑作と思う
47 2020/2/2 『フリービーとビーン 大乱戦』 (原題『Freebie and Bean』、原作:フロイド・マトラックス、監督:リチャード・ラッシュ。ジャック・クラシェン、ジェームズ・カーン、アラン・アーキン、ポール・コスロ、キャサリン・ウィット、ロレッタ・スウィット、マイク・ケリン、アレックス・ロッコ、ジョン・ガーウッド、ロバート・ハリス、リンダ・マーシュ、ヴァレリー・ハーパー、クリストファー・モーリー、モンティ・スティックルズ、ジョン・パワーズ、テリス・ホール、ビル・シャノン、ホワイティ・ヒュージズ。1974、米Warner Bros. ) 町山智浩の解説を聞けば確かにその通りなのだが、しかしそれを期待して観たらテンポや間の悪さ、話の整合性、ギャグの生温さや切れ味の悪さなどが気になってしまった。この映画の面白さの本質がどこにあるのかわからなくなってしまったというか。映画自体の感想とは関係ないが、冒頭の解説は飛ばして観たほうがいいな。面白さの本質を探しながら観るほうが自分には向いている
48 2020/2/3 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』 (原題『Stranger than Paradise』、監督:ジム・ジャームッシュ。エスター・バリント、ジョン・ルーリー、リチャード・エドソン、ロケッツ・レッドグレア、ハーヴェイ・ペルー、ブライアン・J・バーチル、リチャード・ボース、セシリア・スターク、ダニー・ローゼン、ポール・スローン、ラメルジー、サラ・ドライヴァー、トム・ディチロ。1984、米The Samuel Goldwyn Company) 二十歳やそこらで観たからまだ身に染みているのか、今観てもしみじみよい。そして今観ると、当時までのアメリカの主流の映画をさかしまにしたように、事件も起きず、セックスの匂いもなく、景色もよくなくあるいはよい景色も艶消しに撮り、話は弾まずずっと気まずくて、ロードムービーでもあるはずなのに心躍るような気配もなく、しまいには死人が寝ているベッドを三人が見つめているような構図まで出て来て、しかしそれなのにずっと惹き付けられて、しかも可笑しい。そこらにいる人間の可笑しさを愛情を持ってずっと眺めている人でないとなかなか撮れない映画ではないかなと、改めて思った
49 2020/2/3 『ダウン・バイ・ロー』 (原題『Down by Law』、監督:ジム・ジャームッシュ。ジョン・ルーリー、ビリー・ニール、ティモシア、トム・ウェイツ、エレン・バーキン、ロケッツ・レッドグレア、L・C・ロレーン、キャリー・リンゾー、ロベルト・ベニーニ、ヴァーナル・バグネリス、ニコレッタ・ブラスキ。1986、米Island Pictures) 前作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と比べると、旧来の映画への多少の拒否感を醸し出しつつ、アメリカ映画のおいしい要素をふんだんに取り入れて撮ったという印象。それでいて初見時には前作と印象が大きく違わなかったのは、絵造りの妙味か。あと間の可笑しさもあるか。前作ではそれほど感じなかったが、今作では詩を意識したのではないかという部分が多かったと思った
50 2020/2/3 『ミステリー・トレイン』 (原題『Mystery Train』、監督:ジム・ジャームッシュ。永瀬正敏、工藤夕貴、ルーファス・トーマス、スティーヴ・ブシェーミ、スクリーミン・ジェイ・ホーキンス、サンキ・リー、トム・ウェイツ(声)/ニコレッタ・ブラスキ、サラ・ドライヴァー、サイ・リチャードソン、トム・ヌーナン、エリザベス・ブラッコ、スティーブン・ジョーンズ/ジョー・ストラマー、ヴォンディ・カーティス・ホール、リック・アーヴェイルズ、ロイヤル・ジョンソン、ロケッツ・レッドグレア。1989、米Orion Classics) さすがに前二作で感じた新鮮味はないが、オフビートな世界の中に人間の可愛らしさと可笑しさを描くジャームッシュ節が完成したという趣き。サム&デイヴのデイブのギャグは、『パターソン』でも同じようなパターンを使っていたな
51 2020/2/3 『舞妓三銃士』 (監督:天野信。小町瑠美子、江島みどり、峰幸子、花菱アチャコ、上久保武夫、伊達三郎、千葉登四男、小林加奈枝、越川一、楳崎宏樹、仲上小夜子、前田和子、浪花千栄子。1955、大映) ひたすら可愛らしい映画。絵造りも観ていて心地よい。ただそれだけと言えばそれだけだが、今現在この種の映画は皆無だろうから、残しておく価値はあると思う
52 2020/2/3 『ボーイフレンド』 (原題『The Boy Friend』、原作:サンディ・ウィルソン、監督:ケン・ラッセル。ツイッギー、ブライアン・プリングル、モイラ・フレイザー、クリストファー・ゲイブル、バーバラ・ウインザー、トミー・チューン、マレー・メルヴィン、マックス・エイドリアン、ウラデク・シーバル、グレンダ・ジャクソン。1971、英MGM-EMI) ひさびさにケン・ラッセルを観ると、途中でもういいやと思ってしまうくらい、よく言えば豊穣、悪く言えばしつこい。本作ももっと程よい塩梅で作れるはずだが(せめて女優を美しく撮るとか)、しかし観終えるとぐったりしつつ、またあの悪夢のような世界を耽溺したいと思ってしまう。不思議だ
53 2020/2/4 『カルメン故郷に帰る』 (監督:木下惠介。坂本武、望月美惠子、佐田啓二、磯野秋雄、小池清、城澤勇夫、佐野周二、笠智衆、井川邦子、小沢栄、三井弘次、高峰秀子、小林トシ子、山路義人。1951、松竹) 三十数年前に初めて観たときにはそう思わなかったが、今回改めて観てみると、人間と田舎というものをとても残酷に見て描いた映画だなと思った。田舎者をかなり容赦なく描いていると感じたのだが、それでもなお温かい目線があるところに驚く。それにしても、日本初の総天然色映画の題材としてこれを考えた監督と、それを許した会社や製作陣がほんとうは何を考えていたのかを知りたいと思った
54 2020/2/5 『わるいやつら』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。片岡孝夫、松坂慶子、小沢栄太郎、藤真利子、米倉斉加年、梶芽衣子、宮下順子、藤田まこと、西田珠美、香山くにか、横武義弟、神崎愛、山谷初男、雪江由記、神山寛、稲葉義男、梅野泰靖、小林稔侍、滝田裕介、緒形拳、佐分利信、渡瀬恒彦、森英恵。1980、松竹) とにかく宮下順子にゾクゾクさせられた(後半に入って殺されたと思ったら、終盤で出て来てまたゾクゾク)。松坂慶子、藤真利子、梶芽衣子はもちろん、西田珠美や雪江由記に至るまで魅力的に撮られていたが、とにかく女の人の怖さと儚さを嫌というほど味わえる映画だった。同時に80年代に入ってダサくなっていく日本の記録という一面も味わえた
55 2020/2/6 『鬼畜』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。岩瀬浩規、吉沢美幸、石井旬、小川真由美、緒形拳、岩下志麻、蟹江敬三、穂積隆信、大滝秀治、加藤嘉、田中邦衛、三谷昇、鈴木瑞穂、鈴木誠一、松田史郎、大竹しのぶ、山谷初男、浜村純。1978、松竹) 肺腑をえぐられるような想い、というのはこの映画で初めて味わったような気がする。その印象は、40年経ってから見ても変わらなかった。子役岩瀬浩規の芝居(と彼への演出)の素晴しさも再確認。忘れていたのは小川真由美のものすごさかな
56 2020/2/6 『喜劇 各駅停車』 (原作:清水寥人、監督:井上和男。森繁久彌、山茶花究、石井伊吉、三木のり平、千草恵子、名古屋章、岡田茉莉子、左卜全、南利明、森光子、守田比呂也、佐原健二、若水ヤエ子、森繁建。1965、東宝) あちゃらか喜劇かなと思っていたら(三木のり平がおでんんの蛸を食べ過ぎてお腹を壊したり、憧れの看護婦にあっさり振られたりなどの軽い笑いもあるが)、意外にもどっしりとした男の友情(機関士=森繁と助手=のり平)を感動的に描いた映画だった。ふたりを支えるような機関士の妻(森光子)と、ふたりが集うおでん屋の女将(岡田茉莉子)のやさぐれっぷりの塩梅もよい。わからず屋のようでいて最後にしっかりと物語を〆る山茶花究がまた素晴しい。いい映画だった
57 2020/2/6 『楢山節考』 (原作:深沢七郎、監督:木下恵介。東野英治郎、田中絹代、市川団子、高橋貞二、望月優子、宮口精二、伊藤雄之助、小笠原慶子、鬼笑介、三津田健、織田政雄、小林十九二、西村晃、末永功、本橋和子。1958、松竹) 芝居仕立ての演出も見事だったが、田中絹代と望月優子の芝居も圧巻だった。高橋貞二と伊藤雄之助もすごかったが、この映画で特筆すべき効果をもたらしていたかどうかはわからない。今さらながら、この映画と鈴木清順のフィルム歌舞伎との比較などをきちんと書いた批評は存在するのだろうか。あるなら読んでみたい
58 2020/2/7 『無鉄砲大将』 (原作:一条明、監督:鈴木清順。和田浩治、清水まゆみ、糸賀靖雄、木下雅弘、高品格、富田仲次郎、荻志郎、葉山良二、芦川いづみ、佐川ミツオ、菅井一郎、山岡久乃、小沢昭一、野呂圭介、クリスタル・シスターズ、江幡高志、松下達夫。1961、日活) 画面の中で会話しているふたりの微妙な距離感、話者をなかなか映さないのにふとそっちにパンする間合いなどなど、清順節が細かいところで多数まあまあ炸裂していて楽しい。進行ヤクザの親分(富田仲次郎)が放つ「勝手なことを言うのが私たちの商売ですよ」という台詞には笑った。あと佐川ミツオ(当時)の『ゴンドラの唄』が軽くてよかったな
59 2020/2/7 『地下街の弾痕』 (監督:森一生。上田寛、阿部九洲男、志村喬、二本柳寛、大伴千春、二本柳寛、伊達三郎、高田稔、近衛敏明、京マチ子、菅井一郎、小林叶江、玉置一恵。1949、大映) キャバレーでの京マチ子の踊りは素晴しかったが、あとは可もなく不可もなくの印象。警察内部に犯罪一味の人間がいたのは虚を突かれたが、被害者の身内の京マチ子か、あるいは主人公の旧友の新聞記者(近衛敏明)くらいが犯罪に絡んでないと、今となっては意外性に乏しいように思えてしまった
60 2020/2/7 『北上夜曲』 (監督:中島義次。松原智恵子、小高雄二、川地民夫、田中筆子、久松洪介、近藤宏、南寿美子、相馬幸子、武藤章生。1961、日活) 新人の頃の松原智恵子がまだ丸顔で可愛らしい。東京に出て行った川地民夫の学帽をかぶる松原智恵子、北上川の映像を背景に啄木石碑の周りをくるくる回る松原智恵子、もう可愛いくてたまらん。『北上夜曲』がモチーフの歌謡映画なので、暗く重い映画かなと勝手に思ったが、故郷での淡い初恋(および恋の鞘当て)と東京のムンムンとしたお色気を塩梅よく配置した、心地よい軽みのある映画だった
61 2020/2/8 『てんやわんや次郎長道中』 (監督:森一生。市川雷蔵、藤原礼子、喜味こいし、平参平、坪内ミキ子、島田竜三、夢路いとし、柳谷寛、南都雄二、天王寺虎之助、藤田まこと、名和宏、寺島雄作、姿美千子、芦屋雁之助、芦屋小雁、ミヤコ蝶々、茶川一郎、伊達三郎、白木みのる。1963、大映) 基本的には市川雷蔵と藤原礼子を魅力的に見せる、というだけの映画と思う。それと、見るときどきの心持ちによっては大阪の笑いが鬱陶しくもあるが、それでも市川雷蔵と藤原礼子の魅力で観させられてしまう
62 2020/2/8 『大笑い江戸っ子祭』 (監督:斎藤寅次郎。雪村いづみ、佐々十郎、小原新二、翼ひろみ、坊屋三郎、三木のり平、環三千世、西川鯉次郎、益田キートン、内海突破、平原小夜美、富松千代志、夏目俊二、朝雲照代、有島一郎、若水ヤエ子、富松千代志、山茶花究、立原博、トニー谷、柳家金語楼、汐風亭子、古川緑波、宮坊太郎、丘寵児、坪内美詠子、森川信、榎本健一、西岡タツオ、八波むと志、南都雄二、ミヤコ蝶々、藤間紫、西川ヒノデ、堺駿二。1959、東宝) 『富久』『道具屋』『芝浜』『たらちね』『だくだく』『夏泥』などをちりばめた喜劇だが、落語のネタをそのまま映像にしているだけに見えて東京の喜劇だけにさすがに落語の呼吸が全体に息づいていて、観ていてとても心地よい。三木のり平に有島一郎はじめ、役者たちも活き活きしている。いきなり雪村いづみが歌い始める冒頭も素晴しい(途中と終幕も)。しかし一番可笑しかったのが、藤間紫の『たらちね』だった。泣きたくなるほど嬉しい気持ちになる映画
63 2020/2/8 『翔んで埼玉』 (原作:魔夜峰央、監督:武内英樹。魔夜峰央、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、GACKT、二階堂ふみ、加藤諒、中尾彬、武田久美子、伊勢谷友介、麿赤兒、益若つばさ、小沢真珠、京本政樹、JAGUAR、竹中直人、ふなっしー、成田凌。2019、東映) まったくなにも期待していなかったが、役者がみなこういう映画だからこその楽しそうな点がとてもよかった(芝居の力のない島崎遥香と加藤諒以外)。こうしたらもっと…… という感慨はもちろんあるが、意外に楽しめてしまったことは明確に記しておきたい
64 2020/2/9 『カタクリ家の幸福』 (原案:映画『クワイエットファミリー』、監督:三池崇史。丹波哲郎、宮崎瑶希、西田尚美、武田真治、沢田研二、松坂慶子、竹中直人、塩田時敏、忌野清志郎、遠藤憲一。2002、松竹) 面白くなりそうな(というか個人的に好みな)要素が、役者の揃え方もバカバカしいミュージカル仕立てもクレイアニメーション?を使った演出もいろいろ揃っているのだが、なんだか「こういう風にしたら面白いでしょ?」と頭で考えたような感じが強くて、まったく入り込めなかった。同じようなバカバカしさを目指した(と思われる)『翔んで埼玉』みたいな振り切れ方とどういう…が違うのだろうな、ということに興味を持った
65 2020/2/10 『ビリディアナ』 (原題『Viridiana』、監督:ルイス・ブニュエル。シルヴィア・ピナル、ロジータ・ヤルツ、テレシータ・ラバル、フェルナンド・レイ、マルガリータ・ロサーノ、ホセ・カルヴォ、ホアキン・ロア、ロラ・ガオス、フランシスコ・ラバル、ヴィクトリア・ジニー。1961、西CCB) ブニュアエルが故国スペインを決定的に去ることになった作品、ということでよいのかな? 今観てもそれほど衝撃的な印象はないのだが(キリスト教徒でなくても衝撃的な作品はたくさんある)、当時の信者の気持ちになって観ると宗教的な救いがなく、ダ・ヴィンチの描いた「最後の晩餐」の光景をおちょくり、しまいには敬虔な信者が世俗に降りる心を決めるという話はやはり許容できないものだったのだろうということは理解した
66 2020/2/10 『白い家の少女』 (原題『The Little Girl who Lives Down the Lane』、原作:レアード・コーニグ、監督:ニコラス・ジェスネル。ジョディ・フォスター、マーティン・シーン、クレッソン・グッドヒュー、ヒュバート・ノエル、ジャック・ファメリー、アレクシス・スミス、ドロシー・デイヴィス、モルト・シューマン、スコット・ジャコビー。1976、加仏Astral Films/CIC) シンプルな話ながら、不思議な雰囲気があってそこが印象に残ったが、その雰囲気の大部分はジョディ・フォスターが醸し出しているのではないかとは思った
67 2020/2/14 『路上の霊魂』 (原作:マクシム・ゴーリキー『どん底』、ヴィルヘルム・シュミットボン『街の子』、監督:村田実。村田實、小山内薫、英百合子、茂原熊彦、東栄子、小松武雄、東郷是也、伊達龍子、澤村春子、久松三岐子、南光明、蔦村繁、岡田宗太郎。1921、松竹キネマ) 何も知らないで見ると、物語の筋も演出も登場人物の感情の機微も役造りも西洋かぶれという印象で、それはそれで間違ってないようなのだが、歌舞伎や新派の影響を受けていない初めての映画、という見方もあるようだ。それはそれで正解だろうが、一見したところでは日本映画史の貴重な史料、なのだなとだけ思った。原作のひとつのヴィルヘルム・シュミットボン『街の子』は小山内薫訳を使用とのこと。その小山内薫が製作総指揮(今で言うプロデュース的なことをしたのかな)に就き出演も。脚本は牛原虚彦
68 2020/2/14 『far Western 極西』 (監督:ジェイムス・ペイン。チャーリー永谷、笹部益生、TheBlueside of Lonesome、三井徹、尾崎泰、尾崎恒、永谷誓哉、永谷稔子、早川流吉、吉本圭一、ミッシェル、坂本孝昭、ジュディ・シール、井上三郎、原さとし。2016、米This Land Films) 先日熊本で出会ったチャーリー永谷と、日本人のカントリー/ブルーグラスの音楽家を追ったドキュメンタリー。制作しようと思った動機の中には物珍しさもあったと思うが、極東でのカントリー/ブルーグラス音楽とそのシーンがどんなものか、淡々と好意的に追っているのがよい。人々を魅了する音楽を演っているのは特別な人たちでありまた普通の人たちでもある、という当たり前のことがきちんと伝えられていてよいなと思った
69 2020/2/15 『魚からダイオキシン!!』 (原作:荒井晴彦/高田純/高橋伴明/小水一男、監督:宇崎竜童。内田裕也、宇崎竜童、安岡力也、高田文夫、影山民夫、ビートたけし、鹿内孝、高沢順子、横山やすし、本木雅弘、佐藤慶、溝渕美保、佐藤蛾次郎。1992、松竹) 冒頭の高田文夫の言い立てやビートたけしの「加害者の会だ」は面白かったし、本木雅弘の熱演は意外だったが、全体的には、現実の都知事選挙の様子と芸能界の陰謀を架空の中途半端な近未来的映像と組み合わせるところなどは、まあ正直なところダサい。ラッツアンドスターが内田裕也の悪口を言ってるところなどは面白かったが、残しておかなくてもいいかな。そういえばアイドル四人組はC.C.Girlsだったか
70 2020/2/15 『野獣暁に死す』 (原題『Oggi a Me, Domani a Te!』、監督:トニーノ・チェルヴィ。モンゴメリー・フォード、バド・スペンサー、ウェイド・プレストン、フランコ・ボレイリ、ウィリアム・バーガー、仲代達矢、ジェフ・キャメロン、ダナ・ギア。1968、伊P.A.C) 仲代達矢が準主役のマカロニ・ウエスタン、というのがすべてのような映画。話がどうのというよりも、なんだか日本の新劇のすごさを改めて味わったという感じ
71 2020/2/17 『皆殺しの天使』 (原題『El a´ngel exterminador』、原案:ルイス・アルコリサ/ルイス・ブニュエル 、監督:ルイス・ブニュエル。アンジェル・メリーノ、クラウディオ・ブルック、ギレルモ・アルヴァレズ・ビアンキ、エンリケ・ランバル、セサル・デル・カンポ、パトリシア・デ・モレロス、ロサ・エレナ・ドゥルヘル、シルヴィア・ピナル、ルシー・ガジャルド、アントニオ・ブラヴォ、オフェリア・モンテスコ、ハビエル・マッセ、ルイス・ベイリスタイン、ホセ・バヴィエラ、ベルタ・モス、アウグスト・ベネディコ、エンリケ・ガルシア・アルバレス、ジャクリーヌ・アンデレ、パトリシア・モラン、ナディア・ハロ・オリヴァ、ティト・フンコ。1962、墨) 人々がなぜ出られなくなるのか(外からも助けられないのか)、という最も知りたい部分が語られないので、人としての在り方、宗教、格差、人間のバカバカしさなどいろんな結論を勝手に考えさせてくれるのが面白い。そしてその状況に登場する羊や熊がまた謎を呼ぶ。それでもまた観たくなる魅力があるのが不思議
72 2020/2/17 『太陽を盗んだ男』 (原案:レナード・シュレイダー、監督:長谷川和彦。沢田研二、水谷豊、伊藤雄之助、菅原文太、池上季実子、風間杜夫、小松方正、北村和夫、佐藤慶、神山繁、江角英明、高山千草、西田敏行。1979、東宝) やはり名作。考証や設定に不十分な点はあるとも思うが、それを超えて名作と思う。孤独な高校教師が原子爆弾を作る、というのが肝でなくきっかけに過ぎず、そこから様々な物語が展開していくのが素晴しいし、原子爆弾を作る目的が空虚であるという点には却って心を動かされる。また沢田研二、菅原文太、池上季実子も三者三様に素晴しい。これをどんな手を使ってでもヒットさせなかったというのは、日本映画史に残る汚点だろうなあ。子役の中に戸川京子と香山リカがいたというのは今日初めて知ったが、どの生徒だが特定はしなかった
73 2020/2/17 『アメリカの友人』 (原題『Der Amerikanische Freund』、原作:パトリシア・ハイスミス、監督:ヴィム・ヴェンダース。デニス・ホッパー、ニコラス・レイ、ブルーノ・ガンツ、デイヴィッド・ブルー、リザ・クロイツァー、ジェラール・ブラン、ルドルフ・シュンドラー、ルー・カステル、サンディ・ホワイトロウ、ダニエル・シュミット、サミュエル・フラー。1977、西独仏Filmverlag der Autoren) これはパトリシア・ハイスミスの何が原作になるのかな? ダーワットは名前だけ出てくるが、『贋作』とはまったく異なる話である。初見の際に調べたのだったかな。記憶がまったくないが、しかしそれは調べればよい話で、トム・リプリーがいい奴過ぎる気もするがこの一本の世界はとても楽しめるし大事にしたいと思う
74 2020/2/18 『砂漠のシモン』 (原題『Simo´n del desierto』、監督:ルイス・ブニュエル。エンリケ・ガルシア・アルヴァレス、アンジェル・メリーノ、クラウディオ・ブルック、オルテンシア・サントヴェーニャ、シルビア・ピナル、エンリケ・アルバレス・フェリックス、ジェスス・フェルナンデス。1965、墨) これまたキリスト教を杜撰に愚弄するようなところが可笑しい映画(実際にはいろいろ深い考えがあるのだろうが)。シルビア・ピナル扮する悪魔の誘惑の仕方が魅力的。舞台となったのはシリアだと思うが、シリアの人々(司祭など宗教者も含む)が敬虔な信者のようでいて奇跡を見ることだけに興味を覚えていたり奇跡で元通りになった手でいきなり悪行をしたり、あるいはシモンに嫉妬を覚えて復讐しようとしたり妙な執着に囚われたり、人間的と言えば人間的、俗に過ぎると言えば俗に過ぎ、そんなに敬虔でもないところも面白い
75 2020/2/18 『幼な子われらに生まれ』 (原作:重松清、監督:三島有紀子。浅野忠信、鎌田らい樹、新井美羽、田中麗奈、南沙良、池田成志、水澤紳吾、寺島しのぶ、宮藤官九郎。2017、ファントム・フィルム) 血のつながりといった“条件”を超えて家族を作っていくということをしっかりと描いた佳作と思った。田中麗奈が最初の段階ではエロい若妻過ぎて違う話になってしまうのではないかと思ったり、宮藤官九郎の芝居がコントっぽく見えたりなどはあったが、気になったのは登場時だけで、概ねよい芝居、よい演出に心動かされた。思春期の女の子の難しさや気の遣い方を南沙良と鎌田らい樹がとてもよく表現していたのが印象に残った
76 2020/2/18 『清水次郎長』 (原作:小島政二郎、監督:萩原遼。山岸美代子、大河内伝次郎、永井柳太郎、鳥羽陽之助、木村千吉、横山運平、千葉早智子、清川荘司、一ノ宮敦子、河村弘二、音羽久米子、三條利喜江、加藤欣子、伊村利江子、小杉義男、山口佐喜雄、鬼頭善一郎、島田敬一。1938、東宝) 子供時代の石松が可愛い以外はどうということもない清水次郎長の物語が続いて、それなのにまた観たくなるなあという絵がどんどん出て来て、と思ってたら、終盤ども安や津向の文吉、大岩村の大助という大親分が出来てからの展開や立ち回りがたまらない。ということで、観終わるとまた観たくなった
77 2020/2/19 『ダークタワー』 (原題『The Dark Tower』、原作:スティーブン・キング、監督:ニコライ・アーセル。マシュー・マコノヒー、トム・テイラー、キャサリン・ウィニック、ニコラス・ポーリング、マイケル・バルビエリ、カール・サニング、イドリス・エルバ、デニス・ヘイスバート、エヴァ・カミンスキー、ロビー・マクリーン、フラン・クランツ、アビー・リー、クローディア・キム。2017、米Columbia Pictures) 全七部構成の長大な小説の映画化としてはよくまとめたのかもしれないが、原作を読んでいない者にとっては、子供向けSF映画という印象しか残らなかった。かといってこれを観てしまうと長大な原作を読もうという気も起こらない。困った
78 2020/2/20 『ミスター・ノーボディ』 (原題『Il mio nome e` Nessuno』、原案:セルジオ・レオーネ、監督:トニーノ・ヴァレリー。ヘンリー・フォンダ、テレンス・ヒル、レオ・ゴードン、ジャン・マルタン、マーク・マッツァ、リック・レスター。1973、伊Titanus) 西部劇、マカロニ・ウエスタンが好きかどうかとは関係なく、映画好きなら感心するであろう一作と思う。物語の面白さや男と男の友情の描き方に始まり、話の筋とは一見関係なさそうな細部の演出(移動遊園地など)、テレンス・ヒルとヘンリー・フォンダの芝居、ダイナマイトを効果的に用いた1対150の銃撃戦の迫力、もうすべてが完璧に思えた。エンニオ・モリコーネの、少し調子っ外れな音を効果的に使った音楽もよい
79 2020/2/21 『ボウリング・フォー・コロンバイン』 (原題『Bowling for Columbine』、監督:マイケル・ムーア。チャールトン・ヘストン、マイケル・ムーア。2002、加Alliance Atlantis Communications/米MGM/その他GEM Entertainment) 強い怒りと深い悲しみを感じた事件について、その“事件の側”の人たちを直接強く非難するのではなく、疑問を投げかけるという形で事件の根っこを明らかにしていくという手法に驚かされた。ドキュメンタリーとしては当たり前かもしれないが、その根気や覚悟の著さという点に於いて。チャールトン・ヘストンを静かに追いつめながら、間違った神輿に乗せられたまま人生を終えていく老人の哀しさを浮き彫りにしたところなど圧巻だった
80 2020/2/21 『二十日鼠と人間』 (原題『Of Mice and Men』、原作:ジョン・スタインベック、監督:ゲイリー・シニーズ。モイラ・ハリス、ゲイリー・シニーズ、ジョン・マルコヴィッチ、マーク・ブーン・ジュニア、レイ・ウォルストン、ジョン・モートン、ノーブル・ウィリンガム、ケーシー・シマスコー、シェリリン・フェン、ジョン・テリー、リチャード・リール。1992、米MGM) 家内に見せようと思い観始めたものなので、自分は軽く流し観という感じだったが、それでも感想は昨年初めて観たときと同じ。話の組み立て方も個々の役者の演技上の工夫も、表面には見えてこないものすごいエネルギーを感じた
81 2020/2/22 『半処女』 (監督:内川清一郎。南風洋子、左幸子、城実穂、南寿美子、相馬千恵子、やす、和田孝、酒場店主、片山明彦、江見禄哉、清水将夫、沼田曜一、安西郷子、石黒達也、靖子母、宣伝屋おじさん、坪内美子。1953、新東宝) 女学校の仲良し四人組が、それぞれ生活水準も保護者の職業も違うという点が意外に新鮮に感じられた。その中で優しさあり、厳しさあり、現実はそんなに巧くいかないだろうと思いつつも、最後にはこの映画の世界観に引き込まれ感動させられてしまった。エンコのやすやリリーと同業(病院で同室)の女の役者などが誰だかわからなかったのが心残り(名前のわからない役者もそれぞれいい味わい深い芝居をしていた)
82 2020/2/22 『拝啓天皇陛下様』 (原作:棟田博、監督:野村芳太郎。長門裕之、渥美清、桂小金治、加藤嘉、西村晃、北竹章浩、高橋とよ、若水ヤエ子、藤山寛美、浜口庫之助、左幸子、山下清、多々良純、葵京子、小田切みき、穂積隆信、春川ますみ?、玉川伊佐男、上田吉二郎、高千穂ひづる、中村メイコ、清川虹子。1963、松竹) 昭和天皇を一途に崇拝する男が主人公なので、そこからいろいろ考えさせられる映画ではあるが、私としては戦争の渦中にいる人間は意外に緊迫感がなかったりする(というのは、自分の生きている時代や世界を俯瞰するのはなかなか難しいので)、という発想を勇気を持って描いた作品なのではないかなと思った。それ故、戦争の過酷さをこれでもかと描いた映画とはまたひと味違った戦争に翻弄される人間の悲劇を強く感じさせてくれたのではないかと思う。なお本作では左幸子がとりわけ金、と思わせられる存在感を放っていた
83 2020/2/22 『続 拝啓天皇陛下様』 (原作:棟田博、監督:野村芳太郎。渥美清、藤山寛美、桑原富久、岩下志麻、南田洋子、小沢昭一、上田吉二郎、勝呂誉、浜村純、久我美子、田中邦衛、西村晃、宮城まり子、ミッキー安川、ロベルト・バルボン、佐田啓二、春川ますみ、加藤嘉、高橋とよ。1964、松竹) 感想は前作と同じ。前作よりもこの主題で描こうとしたことはより鮮やかになっていたように思うが、なぜ「続」として全作の焼き直しのような作品を撮ったのかが不思議(もちろん興行的な理由などもあるのだろうが)。全作とは異なり最後に救いを設けたのも大きな違いだろうか。前作でも本作でも渥美清が憧れの女性に袖にされるあるいは勘違いや早とちりの結果として振られる、という流れだが、これは時期的に(そして本作では山田洋次が脚色に参加しているし)『男はつらいよ』に色濃く影響していると思われる。また本作でも主演級の女優(久我美子と宮城マリ子)の印象が鮮やかだった
84 2020/2/24 『家光と彦左と一心太助』 (沢島忠。北龍二、中村錦之助、中村賀津雄、進藤英太郎、松浦築枝、風見章子、薄田研二、高松錦之助、長島隆一、木暮実千代、吉川博子、中村時之介、赤木春恵、杉狂児、北沢典子、田中春男、坂東簑助、星十郎、平幹二朗、尾上鯉之助、桜町弘子、山形勲、沢村宗之助。1961、東映) 歌舞伎の『江戸っ子繁昌記』を観たので、こちらも観たくなった。家(のせこいTV)で観る分には、やはりこちらのほうが格段に心動かされる。以前も思ったが、太助の男泣きで〆る兄弟愛の描き方はやはりよい
85 2020/2/24 『ツィゴイネルワイゼン』 (原作:内田百?、監督:鈴木清順。藤田敏八、麿赤児、木村有希、玉寄長政、原田芳雄、山谷初男、樹木希林、大谷直子、大楠道代、真喜志きさ子、渡辺忠臣、間崇史、玉川伊佐男、相倉久人、米倉ゆき。1980、シネマ・プラセット/リトル・モア) 『家光と彦左と一心太助』からの連想で後年の中村賀津雄を見ようと思って選んだ次第だが、それは『陽炎座』だった(間違えた)。新発見はなかったが、ひさびさに清順世界を堪能
86 2020/2/25 『陽炎座』 (原作:泉鏡花、監督:鈴木清順。松田優作、大楠道代、中村嘉葎雄、江角英、加賀まりこ、楠田枝里子、佐野浅夫、東恵美子、原田芳雄、玉川伊佐男、麿赤児、大友柳太朗、佐藤B作。1981、シネマ・プラセット/日本ヘラルド) これは鈴木清順の最高傑作というか、日本映画の中でも相当上位に位置すべき作品ではないかと思う。40年前の作品、子供の頃にこんな映画が創られていて、ほんとうによかったと思う
87 2020/2/27 『おもてなし』 (監督:ジェイ・チャン。田中麗奈、ワン・ポーチエ、余貴美子、ヤン・チュエンヤオ、マイケル・タオ、田中孝史、濱口秀二、木村多江、藤井美菜、ヤン・リエ、ルー・シュエホン、青木崇高、酒井高陽、眞島秀和、香川京子。日台、松竹/ニチホランド) 昔からの絆が新しくて浅薄な野心に勝る、という点だけ抜き出せば古い価値観で創られた映画ようでもあるけれども、実際に観るとひとりひとりの心の機微をきめ細やかに描いた、しみじみ感動させられる映画だった。チャールズ役のヤン・リエがびっくりするくらい名優。田中麗奈ら若い役者の、その世代ならではのひりひりした感じも映画的によい塩梅と感じた
88 2020/2/27 『ゴダールの探偵』 (原題『De´tective』、監督:ジャン・リュック・ゴダール。ナタリー・バイ、オーレル・ドアザン、ジャン・ピエール・レオ、ローラン・テルズィエフ、クロード・ブラッスール、ジョニー・アリディ、アラン・キュニー、ステファン・フェラーラ。1085、仏AAA) マフィアのボス(アラン・キュニー)の「世の中には二種類の人間がいるらしい/ものが清潔な奴/小便の前に手を洗う連中だ/ものを汚さないように/それにものの不潔な奴/手で触るので/手も汚れてしまう/それで あとで手を洗う」を確認するために観ただけだが、ひさびさにゴダール節とでも言えるような、どの場面もストライクから微妙にずれてて間が抜けてて可笑しいのに何故かカッコよい味わいを堪能
89 2020/2/28 『人斬り』 (原作:司馬遼太郎、監督:五社英雄。勝新太郎、仲代達矢、辰巳柳太郎、賀原夏子、石原裕次郎、伊吹総太朗、倍賞美津子、新条多久美、仲谷昇、三島由紀夫、下元勉、宮本曠二郎、山内明、萩本欽一、坂上二郎、田中邦衛。1969、大映) 岡田以蔵のことが書かれた小説などを読んだ今では、勝新しか印象に残らなかった。石原裕次郎の坂本龍馬は、あれはないな。ほかのいいところは、それですべて帳消し
90 2020/2/29 『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』 (原題『IT』、原作:スティーヴン・キング、監督:アンディ・ムスキエティ。ジェイデン・リーバハー、ジャクソン・ロバート・スコット、ピップ・ドワイヤー、ビル・スカルスガルド、チョーズン・ジェイコブス、スティーヴン・ウィリアムズ、ワイアット・オレフ、ジャック・ディラン・クレイザー、フィン・ウォルフハード、ニコラス・ハミルトン、ジェイク・シム、オーウェン・ティーグ、ローガン・トンプソン、ソフィア・リリス、ジェレミー・レイ・テイラー、ジェフリー・ポウンセット、モリー・アトキンソン、ジョー・ボスティック、メーガン・シャルパンティエ、ステファン・ボガルト。2017、米Warner Bros. Pictures) 思ったよりも爽やかな青春物語だった。現実の恐怖と超現実の恐怖はそれはそれとしてきちんと描かれていて、その上で子供たちの成長物語としても文句なく成り立っているのに感心した。後編が昨年日本でも公開されているようなので、TV放映が楽しみではある
91 2020/2/29 『骨の袋・前編』 (原題『Bag of Bones Part 1』、原作:スティーヴン・キング、監督:ミック・ギャリス。アナベス・ギッシュ、ピアース・ブロスナン、ジェイソン・プリーストレイ、ジョエル・フレックルトン、ケイトリン・カーマイケル、ピーター・マクネイル、ウィリアム・シャラート、デボラ・アレン、メリッサ・ジョージ、ジェファーソン・マッピン、デボラ・グローヴァー、アニカ・ノニ・ローズ、ジュリアン・リッチングス。2011、米A+E Networks)
92 2020/2/29 『骨の袋・後編』 (原題『Bag of Bones Part 2』、原作:スティーヴン・キング、監督:ミック・ギャリス。ピアース・ブロスナン、デボラ・アレン、チャーリー・リンドレス、メリッサ・ジョージ、マット・フリュワー、ウィリアム・シャラート、デボラ・グローヴァー、アニカ・ノニ・ローズ、ケイトリン・カーマイケル、シエンナ・プレンダーガスト、レスリー・キャリソン、ジェイムス・スワンスバーグ、グレゴリー・ペニー、ジョエル・フレックルトン、デイヴィッド・シェフテル。2011、米A+E Networks) あとでTVシリーズの前後編と知ったが、そう思わずに観たら冗長に思った。二時間くらいでうまくまとめたほうが、主人公と妻の関係、妻と別荘地の関係、別荘地に根付いた事件の影響が鮮やかにすっきりと伝わったんじゃないかな。少なくとも、前半で一度謎を残すほどの謎ではなかったと思った。マッティ役のメリッサ・ジョージの芝居がよくて、もっと重用されるかなと思ったがそうでもなかったのが残念(その意味ではセイラ役のアニカ・ノニ・ローズも同様)
93 2020/3/1 『カポネ大いに泣く』 (原作:梶山季之、監督:鈴木清順。加藤治子、萩原健一、田中裕子、樹木希林、柄本明、梅宮辰夫、牧伸二、苅谷俊介、沢田研二、高倉美貴、峰岸徹、平田満、ローリー・ベリス、ベンガル、ランディ・レイス、常田富士男、たこ八郎、チャック・ウィルソン。1985、松竹=松竹富士) 冒頭に出てくる名優が最後までまったく回収されなかったり、米国が舞台なのでわざと日本だけでおざなりに撮ったり(というのは狙いだろうが)、いろいろ瑕疵と言えるような部分はあるが、そんなことは関係ないくらい面白い場面の連続。というところがこれぞ映画と思わせられた
94 2020/3/2 『顔』 (原作:丹羽文雄、監督:島耕二。池部良、柳永二郎、京マチ子、船越英二、須藤恒子、瀧花久子、中田康子、江波杏子。1960、大映) 原作を読んではいないが、とても嫌な感じで辛い話で、かつ、救いがないまま終わっていった。こんな話をきちんと映画として(繰り返し観たくなるように)成立させた監督、製作陣、役者たちには感心せざるを得ない。終幕の京マチ子の崩れ方には胸を突かれた。人それぞれの事情の中で悪意なく振る舞っているのに結果的に悪意の玉突きみたいになる物語の構成が、いささかうまくこなれていないような気がしたところとか(それは原作にも責任はあるのかな)、ちょい役の江波杏子の京都弁がまるでなってなかったのだけ残念
95 2020/3/2 『幼な子われらに生まれ』 (原作:重松清、監督:三島有紀子。浅野忠信、鎌田らい樹、新井美羽、田中麗奈、南沙良、池田成志、水澤紳吾、寺島しのぶ、宮藤官九郎。2017、ファントム・フィルム)  二回め(O形に見せるため)。二回観ると、何度も観たくなる、という感じはしなくなったかな
96 2020/3/3 『西部に賭ける女』 (原題『Heller in Pink Tights』、原作:ルイス・ラムーア、監督:ジョージ・キューカー。アンソニー・クイン、エドモンド・ロウ、ウォレン・ウェイド、アドワード・ロウ、ソフィア・ローレン、アイリーン・ヘッカート、マーガレット・オブライエン、ジョージ・マシューズ、スティーブ・フォレスト、フランク・シルヴェラ、ラモン・ノヴァロ。1960、米、Paramount Pictures) 西部劇というよりは開拓時代の移動劇団の物語という趣き。物語自体よりも、とにかくソフィア・ローレンとイカした音楽、ということに尽きると思った。ひとまず初見段階に於いては
97 2020/3/4 『マダムと女房』 (原作:北村小松、監督:五所平之助。横尾泥海男、渡辺篤、坂本武、田中絹代、市村美津子、吉谷久雄、月田一郎、日守新一、伊達里子、小林十九二、関時男。1931、松竹キネマ/帝国劇場) 日本初トーキーにして傑作。というかこの水準の映画が現在少ないような気がする
98 2020/3/4 『シネマ歌舞伎 女殺油地獄』 (原作:近松門左衛門、監督:井上昌典、監修:片岡仁左衛門。市川猿之助、松本幸四郎、市川高麗蔵、市川中車、中村鴈治郎、茶屋親爺、中村歌六、中村又五郎、嵐橘三郎、中村壱太郎、坂東竹三郎。2019、松竹) 2018年7月の十代目松本幸四郎襲名披露公演(於大阪松竹座)の舞台の模様を収録。シネマ歌舞伎は初めて観たが、そう銘打った所為か、役者のアップと客席からは絶対に観ることのできないアングルが多いのが気になったが(そのため、歌舞伎の舞台を広くいろんな人に観てもらうのに相応しい企画なのかどうか、私には判断できなかった。最後のところの撮影と編集は見事と思ったが、スローモーションの多用などはどうなのだろう?)、実際に舞台を観たら楽しめただろうなあとは思った。十代幸四郎は、この芝居では弱さの上に弱さ故の乱暴さを重ねたような与兵衛像を作り上げていたのは見事と言ってよいかな。批評眼があるわけではないので、劇評をいくつか読んでみたいところ
99 2020/3/7 『ルージュの手紙』 (原題『Sage Femme』、監督:マルタン・プロヴォ。カトリーヌ・フロ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャック・メシュラニー、オリヴィエ・グルメ、カンタン・ドルメール、ポーリーヌ・パリゴー、ミレーヌ・デモンジェオ、ポリーヌ・エチエンヌ、オードレイ・ダナ。2017、仏Memento Films) カトリーヌ・ドヌーヴの存在感に圧倒されつつ、地べたで生きる小さい人間たちの可愛らしさを描いた、人間臭い(人間臭過ぎる)名作。生と死、旧と新という普遍的と言えば普遍的なテーマの料理の仕方も鮮やかだった
100 2020/3/7 『古都』 (原作:川端康成、監督:中村登。岩下志麻、宮口精二、田中春男、中村芳子、早川保、環三千世、長門裕之、東野英治郎、吉田輝雄、浪花千栄子、千之赫子、柳永二郎。1963、松竹) 原作の素晴しさを少しも壊さなかった、という一点だけで後世に遺すべき作品と言ってよいと思うが、そこに“岩下志麻同士の百合”という展開がほの見えるという点で映画化ならではの成功も感じた。衝撃的な場面があるわけでもなく、しかし演出と芝居からじんわりと人の心というものが伝わって来て、何度でも繰り返し観たくなる作品だった
101 2020/3/7 『疑惑』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。桃井かおり、仲谷昇、森田健作、柄本明、内藤武敏、北林谷栄、名古屋章、鹿賀丈史、松村達雄、丹波哲郎、小林稔侍、岩下志麻、小沢栄太郎、山田五十鈴、三木のり平、真野響子。1983、松竹=富士映画) 桃井かおりの自然に嫌で困った人間を表現するすごさ、岩下志麻のひとりの女としてのあるいは母としての顔も見せながら弁護士(法律家)としての冷徹さに徹しようとする女性を描くすごさだけでもう満足。仲谷昇、丹波哲郎、松村達雄、小沢栄太郎、山田五十鈴、三木のり平らが出演時間的には短いながらそれぞれ至藝を見せてくれるのも印象に残る(そのちょっとだけ至藝を見せる、という演出も心憎い)。岩下志麻はこれ前後から(セルフパロディである)象印夫人のようなキャラクターになったのかな
102 2020/3/8 『東京物語』 (監督:小津安二郎。笠智衆、東山千栄子、香川京子、高橋豊子、三宅邦子、毛利充宏、村瀬禪、山村聡、杉村春子、原節子、中村伸郎、三谷幸子、十朱久雄、長岡輝子、東野英治郎、櫻むつ子、大坂志郎、安部徹、長尾敏之助。1953、松竹) 何度観たかわからないが、今回は移動場面の大胆な省略と、肝になるような場面に入る太い横縞に気付いた(後者の効果についてはよく理解できていないけれども)。それと、自分の年齢が子供たちの側から笠智衆や東山千栄子の側に近づいてきたことで、今まで以上にこの映画の複雑な味わいを味わったような気がしている
103 2020/3/9 『迷走地図』 (原作:松本清張、監督:野村芳太郎。渡瀬恒彦、岩下志麻、勝新太郎、渡瀬恒彦、寺尾聰、早乙女愛、松坂慶子、片桐夕子、加藤武、津川雅彦、朝丘雪路、平田満、大滝秀治、伊丹十三、内田朝雄、中島ゆたか、芦田伸介、宇野重吉、いしだあゆみ、芦田伸介。1983、松竹) 重厚なテーマながら、役者の面々が役創りを楽しんでいる様子が窺い知れ、その点でよい遊びの空気が醸成されていたように思う。終幕近く、政治家たちから利用されていただけのような存在のクラブのママ(松坂慶子)が実は女性同性愛者という描き方も(原作もそうなのかもしれないが映画での描き方としても)いい効き具合だったと思う。ただ伊丹十三の藝の所為で、日本政界のパロディの趣が強くなったのは残念と言うべきなのかな。あと時代的なものかもしれないが、音楽は残念
104 2020/3/9 『暖流』 (原作:岸田国士、監督:吉村公三郎。日守新一、高峰三枝子、徳大寺伸、槇芙佐子、水戸光子、葛城文子、雲井つる子、佐分利信、藤野秀夫、森川まさみ、奈良真養、河原侃二、山内光、高倉彰、伊東光一、武田春郎、久保田勝巳、斎藤達雄、水島亮太郎、岡村文子、小桜昌子。1939、松竹/帝国館) 今の目で観ると、佐分利信から水戸光子への「自分の女房と〜」の場面に至るまでがのんびりし過ぎていて、そこを物語のひとつの頂点とするならば病院内でのゴタゴタはもっとすっきり端折ってしまったほうがよかったのではないかと思うが(啓子の巻とぎんの巻の前後編だったようだし)、岸田国士の原作にできるだけ忠実に撮ろうとした結果だろうか。観終わってみればずっしりと心地よい手応え(そして役者たちの芝居の清潔さ)は確かに残るのだが、増村保造版(1957年)や野村芳太郎版(1964年)ではどう料理されているのか、それらも観てみたい
105 2020/3/10 『わかれ』 (原作:高見順、監督:野崎正郎。笠智衆、佐竹明夫、山田五十鈴、鰐淵晴子、福田公子、菅佐原英一、英百合子、安井昌二、永井達郎、日比野恵子、俵田裕子、鳳八千代、小野良、村瀬幸子。1959、松竹) 幾組かの母子や男女の愛を重層的に描き、登場人物それぞれの心をきれいに描いた作品だが、その中で山田五十鈴と村瀬幸子の丁々発止のやり取りがとても怖くてピリッとした趣きをもたらしているのも見どころ。本筋とは関係ないが、建て替え前の新橋演舞場の佇まいが見られるのは貴重かな
106 2020/3/10 『彼岸花』 (原作:里見?、監督:小津安二郎。田中絹代、佐分利信、北龍二、中村伸郎、高橋とよ、桑野みゆき、有馬稲子、笠智衆、浪花千栄子、山本富士子、十朱久雄、佐田啓二、高橋貞二、久我美子、櫻むつ子、渡辺文雄、菅原通済、江川宇禮雄。1958、松竹) ただただ楽しく観て、新発見はなし。やはり『東京物語』は突出した作品だったんだなあと改めて思った
107 2020/3/11 『ギャング・オブ・ニューヨーク』 (原題『Gangs of New York』、監督:マーティン・スコセッシ。リーアム・ニーソン、カラ・セイムア、ゲイリー・ルイス、ジョン・C・ライリー、ブレンダン・グリーソン、ダニエル・デイ・ルイス、レオナルド・ディカプリオ、ジム・ブロードベント、ヘンリー・トーマス、キャメロン・ディアス。2002、米Miramax) 題材は興味深かったが、物語がゴチャゴチャしていて、登場人物ひとりひとりがあまり人間に見えず(キャメロン・ディアスのみ印象に残ったが、デカプリオはまったく色なし)、映画的な仕掛けや外連味の魅力にも乏しく、私にとっては見るべきところがほとんどない映画だった。東映などのヤクザ映画がいかに面白いかを改めて思い知った
108 2020/3/14 『20世紀少年 第1章終わりの始まり』 (原作:浦沢直樹、監督;堤幸彦。田辺修斗、森山未來、山田清貴、乙黒勇希、唐沢寿明、徳井優、池脇千鶴、石井トミコ、竜雷太、石塚英彦、光石研、宮迫博之、香川照之、布川敏和、小日向文世、藤井フミヤ、安西壱哉、西山潤、小倉史也、澤畠流星、矢野太一、上原陸、松元環季、吉井克斗、佐々木蔵之介、宇梶剛士、生瀬勝久、研ナオコ、藤原薫、洞口依子、ARATA、タカアンドトシ、竹中直人、竹内都子、常盤貴子、中村嘉葎雄、遠藤憲一、黒木瞳、吉行和子、津田寛治、石橋蓮司、豊川悦司、畠山彩菜、佐野史郎、片瀬那奈、オリエンタルラジオ、平愛梨。2008、東宝) 原作漫画をそのままなぞらなくてもいいというのが第一印象。活人漫画としてはとてもよくできているし退屈はしないが、二時間〜二時間半くらいにうまくまとめたほうが後世に残る“映画”になったと思う。制作当時の人気藝人を出し過ぎな点も、後世に残しても仕方のない作品になってしまった要因と思う
109 2020/3/14 『20世紀少年 第2章 最後の希望』 (原作:浦沢直樹、監督;堤幸彦。藤原薫、ARATA、平愛梨、小松政夫、佐藤二朗、前田健、西村雅彦、Samat Sangsangium、チェン・チャオロン、甲本雅裕、木南晴夏、常盤貴子、手塚とおる、田鍋謙一郎、石橋蓮司、田中要次、藤木直人、六平直政、中村嘉葎雄、荒木宏文、光石研、豊川悦司、森山未來、澤畠流星、西山潤、小池栄子、香川照之、古田新太、石塚英彦、研ナオコ、黒羽洸成、吉井克斗、小倉史也、安彦統賀、ユースケ・サンタマリア、小日向文世、佐藤涼太、吉田羊、山崎樹範、山寺宏一、唐沢寿明。2008、東宝)
110 2020/3/14 『20世紀少年 最終章 ぼくらの旗』 (原作:浦沢直樹、監督;堤幸彦。研ナオコ、西山潤、豊川悦司、森山未來、福田麻由子、広田亮平、中村嘉葎雄、六平直政、木南晴夏、常盤貴子、香川照之、古田新太、石塚英彦、高橋幸宏、宮迫博之、平愛梨、Samat Sangsangium、チェン・チャオロン、、山寺宏一、藤木直人、石橋蓮司、竹中直人、津田寛治、遠藤賢司、小池栄子、佐野史郎、北村総一朗、ARATA、黒羽洸成、神木隆之介、研ナオコ、田辺修斗。2009、東宝) 長かった。最後まで観て映画化として印象に残ったのは、常磐貴子の年齢の演じ分け(老けっぷりが潔いしうまい)くらいだったかな。元々原作連載時に長いなあと思ったので、せっかく映画化するのだったら、この機会に焦点をふたつくらいに絞って二時間〜二時間半くらいの普通の大作にまとめればよかったと、やはり思う。また原作を忠実になぞるためにやたらに長かった割には、オッチョのタイ(だったかな)での修行がまったく落とされていたのは惜しい
111 2020/3/18 『恋文』 (原作:連城三紀彦、監督:神代辰巳。萩原健一、倍賞美津子、和田求由、三谷昇、高橋恵子、小林薫、仲谷昇、橋爪功、有馬昌彦、左時枝、工藤栄一。1985、松竹富士) 死んでゆく人に優しくするというだけでなく、死んでゆく人がその優しさを受け入れる、そのために(子供も含めた)みんなが苦しむということをとてもうまく描いた映画と思った。女同士の友情の描き方も含め、とても美しい物語であった役者の芝居にも演出にも絵造りにも、この手の話が陥り勝ちなどうだと言わんばかりの押し付けがましさがないのもよい(終幕に向けて少し激情や重々しさを感じはしたが)。一瞬生き返る高橋恵子とそれを見る倍賞美津子の芝居には泣いた。これは感動せざるを得ない作品
112 2020/3/18 『ザ・テンプターズ 涙のあとに微笑みを』 (監督:内川清一郎。萩原健一、ザ・テンプターズ、大泉滉、新珠三千代、横山道代、聖ミカ、山岡久乃、須賀不二男、堺正章、名古屋章。1969、東宝) いかにもその当時の人気者を使って適当に急ぎ仕事で撮った、という趣きだが、その中で大泉滉、新珠三千代、横山道代、山岡久乃、須賀不二男、堺正章、名古屋章はやはり見事。用はザ・テンプターズと聖ミカ以外ということになってしまうが、ザ・テンプターズの映画なのに、最終的にはちょい役のちょい役のような堺正章の印象が最も強く残るというのが可笑しい
113 2020/3/20 『ミニミニ大作戦(2003)』 (原題『The Italian Job』、監督:F・ゲイリー・グレイ。シャーリーズ・セロン、ドナルド・サザーランド、マーク・ウォルバーグ、モス・デフ、ジェイソン・ステイサム、セス・グリーン、エドワード・ノートン、ボリス・クルトノグ、フランキー・G、オレク・クルパ、ガウディー。2003、米Paramount Pictures) 犯罪映画としては並の面白さはあったが、旧い『ミニミニ大作戦』と同じ原題(The Italian Job)を採りながら、ミニ(新型だが)を採用した意味はまったく感じられなかった(車幅の問題だけなら解決方法は今どきいくらでもある)。最終的には、意外性がまったくなかった上に得た金の使い途にも夢がなく、失敗作の印象。もう一度細かく見たら違うのかな。冒頭のベニスの場面は風景としては楽しい
114 2020/3/20 『ミニミニ大作戦(1969)』 (原題『The Italian Job』、監督:ピーター・コリンソン。ロッサノ・ブラッツィ、ラフ・ヴァローネ、マイケル・ケイン、ノエル・カワード、マーガレット・ブライ、トニー・バックレイ、ベニー・ヒル、ジョージ・イネス、バリー・コックス、リチャード・エッソーム、デイヴィッド・サラモン、ハリー・ベアード、マイケル・スタンディング、ジョン・フォーゲアム、デレク・ウェア、スタンリー・ケイン、ロバート・パウエル、フランク・ジャーヴィス、マーガレット・ブリエ、ロッサノ・ブラッツィ、レナート・ロマーノ、ラフ・ヴァローネ。1969、米Paramount Pictures) 犯罪映画としての面白さからミニの必然性、笑いやお色気も含む単に“映画”としての面白さ。大型作ではないけれども完璧な作品と思う。終幕でミニを崖下の捨てる場面のみ、未だに意味を捉えかねているが(意味はないのかもしれない)、その後の最後でバスのバランスがどっち付かずで終わるのはとても面白い
115 2020/3/21 『風の中の子供』 (原作:坪田譲治、監督:清水宏。アメリカ小僧、爆弾小僧、葉山正雄、吉川満子、河村黎吉、石山隆嗣、西村青児、仲英之助、坂本武、岡村文子、長船タヅコ、末松孝行、突貫小僧、若林広雄、谷麗光、笠智衆、松田光史。1937、帝国館/新宿松竹館) わんぱく小僧の三平(爆弾小僧)のわんぱくぶりと時折見せる優しさのコントラストがよい。これは名演だし名演出(終幕で三平が憎き金太郎を遊びに誘ってやるところも泣かせる)。三平を預かりかねたおばさん(岡村文子)の無邪気な悪意を除かせる困惑ぶりと家に三平を家に返すときの善人ぷりのコントラストもよかったな。人間を暖かくかつ冷徹に見つめたからこその作品ではないかと妄想した
116 2020/3/21 『肉体の密輸』 (監督:阿部豊。松下達夫、大美善助、河野秋武、山村邦子、長谷川照容、近藤宏、三崎千恵子、二本柳寛、山岡久乃、久場礼子、水島道太郎、佐野浅夫、渡辺美佐子、柳瀬志郎、美多川光子、多摩桂子、島田文子、重盛輝江。1956、日活) 三崎千恵子の珍しい?悪女役が印象的。渡辺美佐子もつくづく魅力的な女優だと思わせられた。根岸屋の映像が実物かどうかはわからないが(あとで調べてみる)、昔の横浜の情緒が感じられる点も貴重な映画と思う
117 2020/3/24 『次郎長外伝 石松と追分三五郎』 (監督:倉橋良介。泉一郎、高千穂ひづる、名和宏、北上弥太朗、瑳峨三智子、永田光男、生方功、西田智、戸上城太郎、近衛十四郎、大邦一公、青山宏、山路義人、中島淑恵、浅茅しのぶ。1957、松竹) 追分三五郎と森の石松の浅春譚という趣き。演出として印象に残ったのは殺陣と、あとは終盤での高千穂ひづるのほっとした顔の撮り方だったが、全般的に役者が全員よくて安心して観ていられる映画だった
118 2020/3/25 『てんやわんや次郎長道中』 (監督:森一生。市川雷蔵、藤原礼子、喜味こいし、平参平、坪内ミキ子、島田竜三、夢路いとし、柳谷寛、南都雄二、天王寺虎之助、藤田まこと、名和宏、寺島雄作、姿美千子、芦屋雁之助、芦屋小雁、ミヤコ蝶々、茶川一郎、伊達三郎、白木みのる。1963、大映) うっかり今年二回め。「基本的には市川雷蔵と藤原礼子を魅力的に見せる、というだけの映画」「大阪の笑いが鬱陶しくもある」という感想は変わらず
119 2020/3/26 『母と子』 (監督不明。出雲美樹子、高橋竹夫、久?三岐路子。1926、社会教育映画研究所) フィルムが途中から失われたからだろうか、娘がこっそり内職を手伝っているのに気付かない母は呑気で微笑ましいが、そのために娘の学校の成績が落ちていきました、というところで唐突に終わるのが(多分意図してないのだろうが)衝撃的。映画の本質とは関係ないが、出雲美樹子の美しさも印象に残る
120 2020/3/26 『若い狼』 (監督:恩地日出夫。夏木陽介、田中邦衛、松村達雄、菅井きん、小林政忠、三田照子、鈴木和夫、星由里子、佐羽由子、紅美恵子、下村るみ子、西村晃、松本染升、峯丘ひろみ、小栗一也、織田政雄、飯田紀美夫、中丸忠雄、中村美代子、佐田豊、桐野洋雄、石田茂樹。1961、東宝) 世間の風の冷たさを容赦なく描くまったく救いのない物語の中で、星由里子の屈託がありながら無邪気な一面もある若い女性の人物造形が見事
121 2020/3/29 『エノケン・虎造の 春風千里』 (原作:萩原四郎、演出:石田民三。榎本健一、生方賢一郎、梅園かほる、沢村昌之助、笹川浩秀、柳田貞一、三益愛子、中村是好、広沢虎造、如月寛多、北村武夫、大江太郎、宏川光子、光町子。1941、東映) 一年前に観ていたのをすっかり忘れていた。一年前の感想は右の通り(概ね同じ感想を得た)→市川崑が制作主任としてクレジットされている。ものすごく遠くから歩いてくるのにいい喉がよく通って聴こえてくるとか、その唸りを聴くと赤ん坊が泣き止むなど、広沢虎造の声の力のすごさを演出しているのが面白い(そして虎造はものすごくいい男である)。いつも通り呑気なエノケン映画だが、引きの絵が多かったり笑いどころが少なかったり、どちらかというと人情話だったりテンポがややのんびり過ぎていたりで印象は薄く感じたが、ところどころフィルムが消失しているのか? 話がわかりづらい所為もあるかもしれない。終幕で虎造が「清水の次郎長とは切っても切れない仲だ」というところは面白かった。あと旅笠を使ったタイトルロールやエンドタイトルが洒落ていた
122 2020/3/31 『猿飛佐助 千丈ヶ嶽の火祭』 (原作:富田常雄、監督:安達伸生。東良之助、藤田進、美奈川麗子、月形龍之介、加東大介、山口勇、上田寛、相馬千恵子、香川良介、大美輝子、澤村貞子、阿部修。1950、大映) これは子供の頃観たかった。モテるが純情な猿飛佐助、ほぼフィルム編集だけで演出される稚拙だが味わい深い忍術、水中撮影と美奈川麗子の薄物まといのエロさ、チョイ役と言えばチョイ役だが最後にものすごいいい表情を見せる加東大介、美奈川麗子を労る佐助女房の相馬千恵子の美しさ。子供向け映画として作られたと思うが、ただ一本の映画として素晴しいと思った
123 2020/3/31 『赤城の血煙 国定忠治』 (原作:子母沢寛、監督:杉山義三。市川男女之助、柳永二郎、泉一郎、戸上城太郎、北上弥太朗、高田浩吉、伊藤雄之助、中島淑恵、水戸光子、瑳峨三智子、六条奈美子、田中敬介、島崎雪子、進藤英太郎、山路義人、滝沢ノボル、青山宏、西川ヒノデ。1957、松竹) とにかく高田浩吉と伊藤雄之助の組合せが魅力的。この組合せを考えたのが監督なら、その監督の発想は素晴らしい(制作や会社の都合だと、また意味合いが違ってくると思うが)。終幕はもう少し引っ張ってもらいたかったかな
124 2020/4/2 『猛烈社員 スリゴマ忍法』 (監督:市村泰一。牧伸二、立川談志、牟田悌三、由利徹、藤村有弘、曽我廼家明蝶、北あけみ、生田悦子、武智豊子、ヒデとロザンナ、春川ますみ、財津一郎、晴乃チックタック、大野しげひさ。1969、松竹) 立川談志が、すでに落語界のスターだったはずなのに、芝居がへたくそでしかもあまり面白くないのが意外。その分牧伸二のこの役での純情な個性が際立っていたが、それを目論んだものなのだろうか。話の面白さのほかは、生田悦子の屈託のないマルチお妾っぷりが印象に残ったくらいか
125 2020/4/2 『モダン・タイムス』 (原題『Modern Times』、監督:チャールズ・チャップリン。アラン・ガルシア、チャールズ・チャップリン、タイニー・サンドフォード、ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマン。1936、米United Artists 不朽の名作であることに異論はないが、自分にとってはもう繰り返し観たいなと思う作品ではないことを確認した。ポーレット・ゴダードの素晴しさとか、各々の場面でのチャップリンの至芸は観ていて楽しいが、全体に話の要素が多過ぎてちぐはぐな感じがするのと、チャップリンがポーレット・ゴダード以外の他を活かすつもりが見えない(常に自分が主役という主張というか、笑われる存在のようでいて立派な人間に見られたい感じ)が鼻につくのがその理由
126 2020/4/3 『ダーティハリー』 (原題『Dirty Harry』、監督:ドン・シーゲル。アンディ・ロビンソン、クリント・イーストウッド、ジョン・ヴァーノン、ジョン・ラーチ、ハリー・ガーディノ、レニ・サントーニ、ルース・コバート。1971、米Warner Bros.) 台詞から絵造りから芝居からラロ・シフリンの音楽まで、名作としか言いようがない。アンディ・ロビンソンの怪演は改めて見事
127 2020/4/3 『抱かれた花嫁』 (監督:番匠義彰。有馬稲子、望月優子、永井達郎、落合義雄、吉野憲司、桂小金治、大木実、高橋貞二、片山明彦、須賀不二夫、桜むつ子、朝丘雪路、水上令子、高千穂ひづる、小坂一也とワゴンマスターズ、日守新一、高屋朗。1957、松竹) まずSKDの豪華なレビューに目を惹かれ、そして下町娘に扮した有馬稲子の可愛さ炸裂、という感じで観進めると、意外にも望月優子と日守新一の老いらくの恋の焼け木杭に火が着いていく感じがなんとも言えずよくて、それに家族問題や寿司屋を営む苦労(筋の悪い客のあしらいや近隣の火事など)なども絡んでくる。それぞれの要素の塩梅がよくて、一見軽く見えてなかなか深い映画を観た心持ちになる。老いらくの恋の部分で言えば、高屋朗がマスターに扮するレストランの場面はなかなか泣かせる。思いがけずいい映画だった
128 2020/4/4 『涙の流し唄 命預けます』 (監督:市村泰一。生田悦子、目黒祐樹、佐藤蛾次郎、應蘭芳、伴淳三郎、藤圭子、藤村有弘、佐藤友美、坂上二郎、田中小実昌。1970、松竹) 映画としてはそんなにじっくり作られたいい出来のものとは思わなかったが、1970年当時の新宿の風俗が見られるとか、藤圭子が意外にじっくりと芝居をしているとか、生田悦子の魅力とかは見どころか。あと鏑木創の音楽が頑張り過ぎてて映画の世界から浮いているのは印象的と言えば印象的
129 2020/4/7 『愛を弾く女』 (原題『Uncoeurenhiver』、監督:クロード・ソーテ。ダニエル・オートゥイユ、アンドレ・デュソリエ、エリザベス・ブールジン、エマニュエル・ベアール、ブリジット・カティヨン、モーリス・ガレル、ミリアム・ボワイエ、スタニスラス・カッレ・ドゥ・マルベルグ。1992、仏AFMD) 恋愛を含む人どうしの微妙な関係性の描き方の繊細さにも感心したし、映画の中での音楽の採り上げ方にも感心した。特にステファン(ダニエル・オートゥイユ)がヴァイオリンを少し調整したあと、そのヴァイオリンを弾いたカミーユ(エマニュエル・ベアール)と共演者たちの「お、いい音になったんじゃないか?」という表情の変化など、よくそれを表現しようと考えその通りに実現させたと思った。ダニエル・オートゥイユの感情を表現できない(それを自分には感情がないということにして諦めようとしている)と、感情を直裁に表現することに長けているエマニュエル・ベアールの芝居の対比も見事で印象的
130 2020/4/7 『アメリカン・グラフィティ』 (原題『American Graffiti』、監督:ジョージ・ルーカス。チャールズ・マーティン・スミス、ロン・ハワード、リチャード・ドレイファス、シンディ・ウィリアムズ、ポール・ル・マット、ジャナ・ベラン、スザンヌ・ソマーズ、マッケンジー・フィリップス、テリー・マクゴバーン、ハリソン・フォード、キャンディ・クラーク、ボー・ホプキンス、マニュエル・パディラ・Jr、ボー・ジェントリー、スコット・ビーチ、アル・ナルバンディアン、ウルフマン・ジャック。1973、米Universal Pictures) ひさしぶりに観て改めて思ったのは、主人公たちをどこにでもいるような田舎の少年たちに仕立て上げたことや、アメリカの田舎町の田舎臭さをきちんと描いていること。田舎ならではの時代遅れ感(60年代が舞台なのに微妙に50年代の風俗が残っている点など)の演出とか、その辺が見えてくるとまた違う味わいを得ることができると思った
131 2020/4/11 『斬られの仙太』 (原作:三好十郎、監督:滝沢英輔。山形勲、山村聡、青山杉作、藤田進、花井蘭子、松本平九郎、浅田健三、清川荘司、石黒達也。1949、東宝) 士農工商の時代だからというのはもちろんあるが、権力に抗う集団の中にも序列と権力ができてそれが不幸を生むという風に話を単純化して捉えてみると、実にその嫌な感じを表現していると思った
132 2020/4/11 『決闘』 (監督:田畠恒男。川喜多雄二、大坂志郎、新島勉、鶴実千子、三橋達也、諸角啓二郎、谷謙一、小林和雄。1953、松竹) 日本初の?立体映画。ただし今となっては日本のフィルムが並んで再生されるだけで、平行法でも交差法でも立体視できないのが残念。話のほうはこじんまりまとめられた犯罪映画だが、踊り子の踊りや弓矢や水鉄砲など随所に立体映像の面白さを演出する工夫があって、立体視できればとても楽しめそうではあった(そういう意味ではゴダール『さらば愛の言葉』は映画の素朴な楽しさを忘れていない作品だったと思う)
133 2020/4/13 『壊れた心』 (原題『PUSONG WAZAK: Isa Na Namang Kwento Ng Pag-ibig Sa Pagitan Ng Puta At Kriminal(RUINED HEART: Another Lovestory Between A Criminal & A Whore』、監督:ケヴィン・デ・ラ・クルス。浅野忠信、ナタリア・アセベド、エレナ・カザン、アンドレ・プエルトラノ、ケヴィン、ヴィム・ナデラ。2012、独比Kamias Road) 野心作と思うし、面白いところがなかったわけではないけれど、私にはその野心は響かなかった。二回観たけどダメであった
134 2020/4/13 『パッセンジャー』 (原題『Passengers』、監督:モルテン・ティルドゥム。クリス・プラット、マイケル・シーン、ジェニファー・ローレンス、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシア。2016、Columbia Pictures) 宇宙船内で120年冬眠するところが30年で目覚めてしまった、という設定が単純ながら秀逸。それだけで話が転がっていくのだが、オーロラ役のジェニファー・ローレンスの地に足の着いたような魅力とか、バーテンのキャラクターなどなど、細かい見どころも少なくなかった
135 2020/4/13 『べガスの恋に勝つルール』 (原題『What Happens In Vegas』、監督:トム・ヴォーン。キャメロン・ディアス、ジェイソン・サデキス、アシュトン・カッチャー、ミッシェル・クルシエク、トリート・ウィリアムズ、レイク・ベル、ロブ・コードリー、アンドリュー・ダリー、デニス・ミラー、クイーン・ラティファ、デアドア・オコネル、デニス・ファリナ。2008、米Twentieth Century Fox) コメディの基本をベタなほどにしっかり押さえつつ、今(といっても十年以上前だが)作るならではのテンポや素材、ギャグもふんだんに使われていて、完璧だなあと思った。アシュトン・カッチャーが序盤でもっとダメ息子っぷりを表現していたらもっとよかった
136 2020/4/14 『華麗な関係』 (原題『Une Femme Fide`le』、原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ『危険な関係』、監督:ロジェ・ヴァディム。ジョン・フィンチ、ジゼール・カサドジュ、ジャン・メルメ、カティ・アメーゾ、シャルルの舎弟、シルヴィア・クリステル、ナタリー・ドロン、アニー・ブラコンニエ、アンヌ・マリー・デスコット、マリ・ルベエ、ジャック・ベルティエ、トム・エルロッド。1976、仏Alpha France) つまらないわけではなかったが、なぜまた『危険な関係』を撮ったのかな、という感想。というか、最後まで『危険な関係』が原作だとは思わなかった
137 2020/4/15 『ソルト』 (原題『Salt』、監督:フィリップ・ノイス。アンジェリーナ・ジョリー、リーヴ・シュレイバー、オーギュスト・ディール、キウェテル・イジョフォー、ダニエル・オルブリフスキー、オレック・ズエヴァ、ハント・ブロック、アーマッド・シュルツ、コリー・ストール。2010、米Columbia Pictures) この手の映画でのアンジェリーナ・ジョリーはさすがだなと思ったし、二転三転する物語の背景の設定も面白かった。あとはアンジェリーナ・ジョリーが変装するときに、本来のそういう立場だったらもっと本人と特定できないようにするのだろうにな、という点だけか
138 2020/4/15 『街の灯』 (原題『City Lights』、監督:チャールズ・チャップリン。チャールズ・チャップリン、ヴァージニア・チェリル、フローレンス・リー、ハリー・マイヤース、アラン・ガルシア、ハンク・マン。1931、United Artists) ボクシングの場面だけは可笑しい。その他の人間の可笑しさや哀しさを描いた場面も素晴しいのだろうなあと思うのだが、チャップリンの描く貧民像がいつも同じなので、実はそれほど貧しい人々に興味がないのではないかと思えてしまい、そうなるとチャップリン映画全体への興味が薄れてしまう。それは本作も同様
139 2020/4/16 『愛欲の裁き』 (原作:吉屋信子、監督:大庭秀雄。野添ひとみ、香川京子、三橋達也、若原雅夫、水上令子、東山千栄子、奈良真養、香川良久、月丘夢路、笠智衆、文谷千代子。1953、松竹) 野添ひとみデビュー年の第四作め、この頃だとまだ後年の野添ひとみの印象はほとんどないが、信仰を持たない(という風情)のままキリスト教系更生施設職員の香川京子に惹かれて更生していく演出に応えた芝居はデビュー間もないながら印象的だった。牧師の若原雅夫が実はとんでもない下衆野郎(一般的な男性と同じような欲望ではあろうが、道を誤ったり不幸な境遇だったりする子供たちを導く牧師という立場としては、紛れもなく下衆野郎であろう)として描かれる描かれ方に驚いたが、最後には救いがあった
140 2020/4/16 『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』 (原題『Earth vs. The Flying Saucers』、原作:カート・シオドマク、監督:フレッド・F・シアーズ。ヒュー・マーロウ、ジョーン・テイラー、モーリス・アンクラム。1956、米Columbia Pictures) ハリーハウゼンの特撮はUFOのみで炸裂。全体に典型的な古典SF映画の趣であった
141 2020/4/17 『女群西部へ!』 (原題『Westward the Women』、原作:フランク・キャプラ、監督:ウィリアム・A・ウェルマン。ジョン・マッキンタイア、ロバート・テイラー、ホープ・エマーソン、ビヴァリー・デニス、レナータ・ヴァニ、グイド・マルトュフィ、デニーズ・ダーセル、ジュリー・ビショップ、マリリン・エルスキン、レノア・ロナーガン、ヘンリー・ナカムラ、トム・グリーンウェイ、パット・コンウェイ。1951、米MGM) ずっと緊張感漂う地味な西部劇だが、その地味な緊張感を破る“ホリデイ”の場面と集団見合いの場面が素晴しい。人間の美しい部分に焦点を当てた名作と思った。時折差し挟まれる植田正治風の絵造りや、犬のポリーの名演も印象に残った
142 2020/4/18 『哀しみのトリスターナ』 (原題『Tristana』、原作:ベニート・ペレス・ガルドス、監督:ルイス・ブニュエル。カトリーヌ・ドヌーヴ、ロラ・ガオス、ヘサス・フェルナンデス、フェルナンド・レイ、フランコ・ネロ、アントニオ・カサス。1970、伊仏西Mercurio Films S.A.) 昨年11月に観ていたのを忘れていたが、「物語の進行に従ったカトリーヌ・ドヌーヴの変わり様が素晴しい」という感想は同じ。それにしても生きていくことが空しくなるような、救いのない映画だな、というのが今回観た感想。終盤トリスターナの脚にできる腫れ物は、まだ若々しかったトリスターナにドン・ロペが知らずにかけた呪いではないかとも思った
143 2020/4/18 『オズの魔法使』 (原題『Wizard of Oz』、原作:L・フランク・ボーム、監督:ヴィクター・フレミング。ジュディ・ガーランド、クララ・ブランディック、チャーリー・グレイプウィン、バート・ラー、レイ・ボルジャー、ジャック・ヘイリー、マーガレット・ハミルトン、フランク・モーガン、ビリー・バーク。1939、MGM) 新たな感想としては、ものすごくドラッギーな映画だなあという点と、かかしブリキライオンの三人が実はものすごい藝達者であるという点。後者に関しては、三者の別の仕事も観てみたいと思った。今まで気付かなかったのは迂闊であった
144 2020/4/19 『翔んで埼玉』 (原作:魔夜峰央、監督:武内英樹。魔夜峰央、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、GACKT、二階堂ふみ、加藤諒、中尾彬、武田久美子、伊勢谷友介、益若つばさ、麿赤兒、益若つばさ、小沢真珠、京本政樹、JAGUAR、竹中直人、ふなっしー、成田凌。2019、東映) 今年二回目(ノーカットは初)。やはり二階堂ふみはすごいな。役者が楽しそうなのは(映画の価値やら評論家的な見方は別にして)やはりよい
145 2020/4/20 『ジャコメッティ 最後の肖像』 (原題『Final Portrait』、原作:ジェイムズ・ロード、監督:スタンリー・トゥッチ。ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、シルヴィー・テステュー、トニー・シャルーブ、クレマンス・ポエジー。2017、英Vertigo Releasing) ジャコメッティの伝記としてどれくらい正確なのかは知らないが、ひとりの芸術家の苦悩とその芸術家に翻弄される人間模様という点での魅力は強力だった。場面ごとに特定の色味だけに焦点を当てるような画面の設計は印象的であった
146 2020/4/21 『インドシナ』 (原題『Indochine』、監督:レジス・ヴァルニエ。カトリーヌ・ドヌーヴ、バ・ホアン、リン・ダン・ファン、アンリ・マルトー、ヴァンサン・ペレーズ、ドミニク・ブラン、ジャン・イアンヌ、エリック・グエン、カルロ・ブラント。1992、仏Bac Films) カミーユ役のリン・ダン・ファンに次第に惹かれていく。観る者をそうさせる芝居と演出が素晴しい(カトリーヌ・ドヌーヴがその引き立て役の一端を担っているのがまた素晴しいと思う)。特定の状況化での人間模様とその特定の状況の双方を深くかつ塩梅よく描いた傑作と思った。何度も観て味わいたい。台詞の中では「フランス人の恋は理解できないわ/狂気と激情と苦悩の恋/戦争とよく似ているわ」というのが印象に残った
147 2020/4/22 『大根と人参』 (原案:野田高梧/小津安二郎、監督:渋谷実。加賀まりこ、長門裕之、三上真一郎、乙羽信子、山形勲、笠智衆、北竜二、中村伸郎、菅原通済、高橋とよ、森光子、信欣三、東山千栄子、三宅邦子、加藤芳郎、有馬稲子、岡田茉莉子、池部良、司葉子、岩下志麻、桑野みゆき、加東大介。1965、松竹) 三年前に観たときとまったく同じ感想。曰く→小津安二郎(と野田高梧)の原案を、小津ゆかりの役者たちが「小津さん、こういうやり方もあるんだよ」とばかりに小津映画とは違う芝居で表現しているのが面白い。もちろん渋谷実なりの小津の見送り方でもあると思う。そういう穿った見方を抜きにしても、笠智衆のコミカルで感情や動作の激しい芝居はじめ、見所は多かった
148 2020/4/23 『スケアクロウ』 (原題『Scarecrow』、監督:ジェリー・シャッツバーグ。ジーン・ハックマン、アル・パチーノ、ドロシー・トリスタン、アン・ウェッジワース、リチャード・リンチ、リチャード・ハックマン 、ペニー・アレン、アーメン・ダラクジアン。1973、米Warner Bros.) 派手な印象は微塵もないが、実にいい映画。マックス(ジーン・ハックマン)がどうしても昇華できない怒りを乾いた笑いに転換しつつ、波風を立てないで生きるライオン(アル・パチーノ)がじめじめした困難に巻き込まれていく、その塩梅が絶妙。最後は哀しいが救いはあったと言いたい。わざとへたくそなホーンを使った音楽も深刻な挿話を深刻なだけにさせない絶妙さだが(ニュー・オリンズR&Bやソウル・ナンバーも採用されている)、担当はフレッド・マイローという人
149 2020/4/24 『シーナ』 (原題『Sheena』、原案:デイヴィッド・ニューマン/レスリー・スティーヴンス、監督:ジョン・ギラーミン。ナンシー・ポール、キャスリン・ガント、マイケル・シャノン、エリザベス・オブ・トロ、カースティ・リンゼイ、ターニャ・ロバーツ、トレヴァー・トーマス、ドノヴァン・スコット、テッド・ワス、クリフトン・ジョーンズ、フランス・ゾブダ。1984、米Columbia Pictures) 80年代も半ばの映画ながら、50年代のハリウッド秘境映画のような趣き(動物とりわけ馬の描写などはハリーハウゼン並の特撮)。政治的な視点や文化人類学的な視点も含め、とても深いテーマではあるのだが、手触りはいい塩梅に軽い。ときおり詩的な台詞が出てくるのも面白い。『ローマの休日』を援用したような場面もあった
150 2020/4/25 『The Wild, Wild Rose』
151 2020/4/25 『ふりむけば愛』 (原案・脚本:ジェームス三木、監督:大林宣彦。山口百恵、三浦友和、名倉良、玉川伊佐男、奈良岡朋子、黒部幸英、神谷政浩、森次晃嗣、南田洋子、高橋昌也、岡田英次。1978、東宝) ただのアイドル映画と思ってあまり期待しないでみたら意外な珍品。と思ったら大林宣彦だった(知らずに観た)。ジェームス三木の原案(それが物語に限定されたものという想定でだが)を映像の発想の可笑しさがはるかに超えていた、という印象を持った。サンフランシスコのクラブ?という設定の中で歌われた三浦友和歌唱の主題歌『ふりむけば愛』(作詞作曲:小椋佳)の場違いっぷりには爆笑
152 2020/4/26 『地球へ2千万マイル』 (原題『20 Million Miles to Earth』、監督:ネイザン・ジュラン、特撮:レイ・ハリーハウゼン。バート・ブレイヴァーマン、ウィリアム・ホッパー、フランク・プーリア、ジョーン・テイラー。1957、米Columbia Pictures) ちゃんとイタリアロケもしたそうだが、それを感じさせないところが却ってすごい。ハリーハウゼンの特撮はさすがの味わいだが、映画としてはちゃんと話を考えた映画が観たいなと思ってくる感じ。でもハリーハウゼンの特撮を観るだけで取っておきたいとは思う
153 2020/4/27 『俺たちポップスター』 (原題『Popstar: Never Stop Never Stopping』、監督:アキヴァ・シェイファー。アンディ・サムバーグ、ヨーマ・タコンヌ、アキヴァ・シェイファー、クエストララヴ、キャリー・アンダーウッド、アッシャー、50セント、リンゴ・スター、サイモン・コーウェル、マライア・キャリー、ティム・メドウズ、サラ・シルヴァーマン、エマ・ストーン、DJキャレド、エドガー・ブラックモン、ジェイムズ・バックリー、エイサップ・ロッキー、イモゲン・プーツ、ジョアン・キューザック、ジャスティン・ティンバーレイク、クリス・レッド、デンジャー・マウス、ファレル・ウィリアムス、シール、スヌープ・ドッグ。マイケル・ボルトン。2916、Universal Pictures) 音楽業界の虚実をうまく混ぜ合わせて(というのは、実在の音楽家や制作者が実名で登場するのもある)作った傑作コメディ。たいへん計算されていることはわかるのに、観ている最中はそうと思わせないでただただバカな笑いを届けてくれる。掘り出し物
154 2020/4/28 『飛行士の妻』 (原題『La Femme de l'aviateur』、監督:エリック・ロメール。フィリップ・マルロー、マチュー・カリエール、マリー・リヴィエール、ハイデ・ケロ、アンヌ・ロール・ムー。1980、仏Gaumont) エリック・ロメール「喜劇と箴言集」シリーズの第一作。最後まで観ると脇役ながら、アンヌ・ロール・ムーの魅力が破壊的(単に魅力的という話なら、主役のひとりのマリー・リヴィエールを喰っている)。脚本がまずよくて、それを役者と演出がきちんと実現している、お手本のような映画と思った。恐らく偶然撮ったものから拾ったものと思うが、何気ない通行人ひとりひとりの映像も面白く鑑賞した
155 2020/4/30 『美しき結婚』 (原題『Le beau marriage』、監督:エリック・ロメール。ベアトリス・ロマン、パトリック・ランベール、フェオドール・アトキン、ユゲット・ファジェ、アリエル・ドンバール、タミラ・メツバ、ソフィー・ルノワール、パスカル・グレゴリー、アンドレ・デュソリエ、デニス・ベイリー、ヴァンサン・ゴーチエ、アンヌ・メルシエ、。1982、仏Acteurs Auteurs Associe´s) 自分の妄想や願望に振り回される人間を優しいが残酷な視線で描いているが、それでいて救いも感じさせられる。弁護士がとても優しい男のようでいて、実のところは言いくるめるのがうまい、と観る者にわからせていくような演出と芝居が見事と思った。それにしても、何気ない話に深い意味を与える手腕はさすがだ
156 2020/4/30 『海辺のポーリーヌ』 (原題『Pauline a la Plage』、監督:エリック・ロメール。アマンダ・ラングレ、アリエル・ドンバール、パスカル・グレゴリー、フェオドール・アトキン、マリー・ブートルー、シモン・ド・ラ・ブロス、ロゼット。1983、仏Acteurs Auteurs Associe´s) ポーリーヌ(アマンダ・ラングレ)とシルヴァン(シモン・ド・ラ・ブロス)がいい具合に子供体型なのが、物語の切なさを増す効果につながっていると思った。シルヴァンとピエール(パスカル・グレゴリー)が真剣に話をしている背景に、実は物語の重要な核であるロゼットと(こちらは物語に関係のない)犬が映り込んでいる場面が、笑わせようとしたのかどうかはわからないが妙に可笑しい(あと前作に引き続きダサい音楽を起用している点も)。ポーリーヌとシルヴァンがこのあとどう成長していくのかは想像するしかないが、たった数日で子供がぐっと成長する面白さや切なさを十二分に味わえる映画と思う
157 2020/5/1 『アルゴ探検隊の大冒険』 (原題『Jason and the Argonauts』、監督:ドン・チャフィ。マイケル・グウィン、ダグラス・ウィルマー、ホナー・ブラックマン、ナイアル・マクギニス、トッド・アームストロング、ゲイリー・レイモンド、フェルディナンド・ポッギ、アンドリュー・フォールズ、ダフ・ロビンソン、ナイジェル・グリーン、ジョン・ケアニー、ローレンス・ナイスミス、パトリック・トルートン、ビル・ガッジョン、ナンシー・コバック、ジャック・グウィリム。1963、米Columbia Pictures) ギリシャ神話に材を取った壮大な映画、ではなくて突っ込みどころの多い映画として観ると大変面白い。ロボットレストランにいそうな船首像のヘラ、合成丸わかりの画面、でか過ぎるタロスをはじめとするタイタン族、神に反抗するフィニアス、ヘラの「人間の信仰があっての“神”ですものね」という台詞、ガラガラヘビのようなヒドラ、骸骨が地底から現れるとちゃんと気を付けをする。などなど。そういう点も含めて、愛すべき映画である
158 2020/5/1 『その夜の冒険』 (監督:安田公義。見明凡太郎、伊達三郎、池部良、喜多川千鶴、郷田三郎、奈良光枝、村田宏壽、植田寛、若杉須美子、永田靖、葛木香一、上田富二郎、寺島貢、堀北幸夫、由利道男。1948、大映) なにかハリウッド映画かヨーロッパ映画を下敷きにしているとは思うが、当時の日本にある材料(役者、美術、音楽などなど)で見事に料理しているのに感心した。謎解きとしては初歩的ながら本格ミステリーとしても楽しめるし、いいところでノックというスパイスもうまく効いている(制作時の題名は、このノックのくだりを念頭に置いた『七番目の接吻』だったらしい)。新郎新婦ともに職業人で忙しい、という点も、敗戦から立ち直ろうという日本人に前向きな気持ちを与えたのではないかと思う。小品だが記憶に残すべき作品
159 2020/5/2 『チャップリンの殺人狂時代』 (原題『Monsieur Verdoux』、原案:オーソン・ウェルズ、監督:チャールズ・チャップリン。エドウィン・ミルズ、アルミラ・セージオンズ、チャールズ・チャップリン、イソベル・エルソム、ヘレン・ハイト、マーガレット・ホフマン、アリソン・ロダン、マディー・コレル、オードリー・モッツ、ロバート・ルイス、マーサ・レイ、ジョン・ハーモン、エイダ・メイ、マーサ・レイ。1947、米United Artists) チャップリン映画の中ではまだ好きなほうだが、チャップリン演じる主人公を悪人に徹させない描き方はやはり(自分にとっては)好ましくないな。どんな悪人にも善意はある、ということを描きたかったのかもしれないが、現在映画を観る視点から言えば、二転三転するような描き方とか、悪意と善意のギャップとかその切り替わりの妙(怖さ)みたいなものがないと、生温いだけでなかなか納得しづらい
160 2020/5/3 『泣きぬれた人形』 (監督:千葉泰樹。美空ひばり、岡田英次、杉狂児、木村功、田中謙三、中田耕二、大川温子、三井弘次、桂木洋子、藤原釜足、進藤英太郎、千石規子。1951、松竹) 戦後間もない頃の風俗や貧困を現実味を持って描いているのと、犯罪娯楽映画としての両方の側面の塩梅がよい。まだ14歳で妹役なのに古女房のような美空ひばりが印象的だし、その芝居のうまさに舌を巻く(終幕の歌唱場面が、演出や画面も含めてまた秀逸)。桂木洋子の上品で心がきれいそうな佇まいとあばずれ女の二面性を表現する芝居も見事だった
161 2020/5/4 『美空ひばり・森進一の花と涙と炎』 (監督:井上梅次。美空ひばり、森進一、北竜介、林与一、佐々木孝丸、島田正吾、北上弥太朗、矢島美智子、槙芙佐子、尾崎奈々、なべおさみ、今井健太郎、水木涼子、志賀真津子、尾和義三郎。1970、松竹) ひさびさの梅次ミュージカル。爆笑を誘うところは多数あったが、美空ひばりはもちろん森進一が意外に映画役者として達者なので、いい映画を観たような気にはなる。美空ひばりお馴染みの楽曲もよいアレンジで聴けたり、森進一となべおさみの場面から美空ひばりの唄に切り替わるところが感動的だったり、背景の暗転を使った場面転換が見事だったり。しかし林与一がそんなに二枚目だったり(物語に必要な)いい人に見えなかったり、妄想の踊りの場面は必要かどうかと思わせられたり、いろいろな疑問は残るが、それはそれとして十二分に楽しませてくれる傑作と思った
162 2020/5/4 『リプリー』 (原題『The Talented Mr. Ripley』、原作:パトリシア・ハイスミス、監督:アンソニー・ミンゲラ。マット・デイモン、グレッチェン・エゴルフ、フレデリック・アレクサンダー・ボッシュ、ジェイムス・リボーン、リサ・エックボーン、ケイト・ブランシェット、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ、ステファニア・ロッカ、シルヴァ・ボシ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ジャック・デヴェンポート、セルジオ・ルビーニ。1999、米Miramax) 原作に忠実な分と、マット・デイモンの好演から、『太陽がいっぱい』とは違うよい印象を得た。原作にはなかったジャズ・モチーフとか、トム・リプリーがピアノが弾けるとか、メレディス(ケイト・ブランシェット)やピーター(ジャック・デヴェンポート)の存在とかもよかった。一方でリプリーがモノマネがうまいという話なのにそうでもなかったりディッキーに似ようとする情念が感じられなかったり、眼鏡を外した際の視力をどうしたのかとか、つまらないところが引っかかった。同性愛モチーフの取り込み方も、『太陽がいっぱい』と異なるアプローチをと考えるならもっと濃くしたほうがよかったかもしれない
163 2020/5/5 『フレンズ ポールとミシェル』 (原題『Friends』、原作・監督:ルイス・ギルバート。アニセー・アルヴィナ、ショーン・バリー、パスカル・ロバーツ、サディ・レボット、ロナルド・ルイス、トビー・ロビンス、ジョーン・ヒックソン。1971、英Paramount British Pictures) お話としては現実にはあり得ないお伽噺だが、そんなことはどうでもよくなるほど瑞々しい映画。お伽噺的な面をどう捉えるかにもよるが、今のところはずっと残ってもらいたい作品と思う。話の続きが気になるが、続編があるとは知らなかった
164 2020/5/5 『嵐の中の男』 (監督:谷口千吉。三船敏郎、香川京子、沢村いき雄、山本廉、根岸明美、小堀明男、柳永二郎、笈川武夫、田崎潤、平田昭彦、上田吉二郎、小杉義男、堤康久、磯村みどり、村上冬樹。1957、東宝) 敵役の小堀明男の、やさぐれてて爽やかでしかし卑劣な複雑な人物像が印象的。三船敏郎、柳永二郎、小堀明男、田崎潤らの柔術、柔道、沖縄空手の迫力も(恐らくスタントを使ってない)かなりのもの。田崎潤が沖縄の人なのに九州弁のような言葉を話すのが可笑しいが、それは小さなことで、かなりの名作と思う
165 2020/5/6 『価値ある男』 (原題『Animas Trujano』、原作:ロハリオ・バルリガ・リバス、監督:イスマエル・ロドリゲス。三船敏郎、ペピト・ローメイ、ティティナ・ローメイ、コルンバ・ドミンゲス、マグダ・マンツォン、アマド・ズマヤ、アントニオ・アギラ、フロール・シルベストレ、ジェメ・ジメンツェ・ポンズ、エドゥアルド・ファヤルド、ファン・カルロス・プリドス。1961、墨Azteca Films Inc.) 三船敏郎がメキシコの先住民?、しかすこぶるだらしのない乱暴なダメ男になり切っているのがまず見事(まあ冷静になれば日本人に見えてしまうが)。そしてダメ男なのに、なにかを信じてしまう美しい心を持っていることも伝わってくる。つくづくすごい役者だなと思う。そんなダメ男を深く愛して見捨てない妻(コルンバ・ドミンゲス)が内面までの美しさを表していたり、周囲のみなが三船をどうしようもない奴と排除しながらも多少は愛着を持っていてそれをふと表したりといったところも印象に残る
166 2020/5/6 『ディープ・ブルー』 (原題『Deep Blue Sea』、監督:レニー・ハーリン。トーマス・ジェイン、サフロン・バロウズ、サミュエル・L・ジャクソン、ジャクリーン・マッケンジー、アイダ・タトゥーロ、ステラン・スカルスゲールド 、マイケル・ラパポート、LL・クール・J。1999、米Warner Bros.) 有能な科学者や職人が自信たっぷりに登場するが結局みんなバカなところがあってそこから破綻していくという、よくあるタイプの映画。加えて恐怖の根源が鮫なのか海水の水圧なのか台風なのか、ポイントもボケボケ(言ってしまえば人間の驕りとバカさ加減なのだが、それの描き方もまったく鮮やかではない)。冒頭で自信たっぷりに登場するサフロン・バロウズがきれいだったので最後まで観てみたが、観ているうちにきれいさの裏付けが役者本人にないのがわかってくるし、最後にあっけなく鮫の犠牲になるのもほとんど効果がない。ひさしぶりにダメな映画を観たな
167 2020/5/6 『美女と野獣』 (原題『La belle et la be^te』、原作:マリー・ルプランス・ボーモン、監督:ジャン・コクトー。ジャン・コクトー、ジャン・マレー、ジョゼット・デイ、ミシェル・オークレール、ミラ・パレリー、ナーヌ・ジェルモン、マルセル・アンドレ。1946、仏DisCina) とてもひさしぶりに観たが、とにかく美しい。もちろんジョルジュ・オーリックの音楽も含めて。ベル(ジョゼット・デイ)が野獣の城を訪ねるところのスロー・モーションは重力を感じさせない美しさがあるし、ベルの空間移動や野獣→ジャン・マレーの変化の際の動きも美しい。野獣とベルの力関係が逆転していく描写もグッと来るものがある。ひさしぶりに観てよかった
168 2020/5/9 『イルカの日』 (原題『The Day of the Dolphin』、原作:ロベール・メルル、監督:マイク・ニコルズ。ジョージ・C・スコット、ポール・ソルビノ、フリッツ・ウェーバー、エドワード・ハーマン、ジョン・コークス、ヴィクトリア・ラシーモ、レスリー・チャールソン、ジョン・デイヴィッド・カーソン、トリッシュ・ヴァン・デヴァー、ジョン・デーナー、セヴァーン・ダーデン、エリザベス・ウィルソン。1974、米AVCO Embassy Pictures) 海洋学者と政治との暗闘を描いた割には地味な印象だが、そこにイルカと人との交流を織り込んでいくことで、深みのある物語を味わわせてくれる。図々しいライターが実は、というどんでん返しがもう少し鮮やかだったらさらに面白かったかな。もう何度か観て考えてみたい
169 2020/5/10 『奇跡の絆』 (原題『Same Kind of Different as Me』、原作:ロン・ホール、監督:マイケル・カーニー。グレッグ・キニア、ダナ・グリア、ダニエル・ザカパ、レニー・ゼルウィガー、オリヴィア・ホルト、セオダス・クレイン、トーマス・フランシス・マーフィー、ジャイモン・フンスー、アン・マホニー、オースティン・フィルソン、ジェラルディン・シンガー、ジョン・ヴォイト、アシュトン・コットン、トネア・ステュワート、ペイトン・ウィッチ、ララ・グライス、タイ・パーカー、ブラフォード・ワレン、ケンダ・ベンワード。2017、米Paramount Pictures) いささか綺麗ごとに過ぎるきらいはあるが、観ている最中はそれを感じさせない、名作の範疇に入る作品と思う(キリスト教の領域を過大評価しないような注意は必要だろうが)。ジャイモン・フンスーとレニー・ゼルウィガーが名演。あまり目立ちはしないが、娘役のオリヴィア・ホルトの小さな演技も大きな効果をもたらしていたと思う
170 2020/5/13 『アフリカの光』 (原作:丸山健二、監督:神代辰巳。萩原健一、田中邦衛、吉田義夫、高橋洋子、桃井かおり、峰岸徹、藤竜也、藤原釜足、絵沢萠子、小池朝雄。1975、東映) 中島丈博脚本なのだが、萩原健一と田中邦衛のBLという以外、面白さがよくわからなかった。理解するのに努力のいる類いの映画なのかもしれない
171 2020/5/14 『リトル・ダーリング』 (原題『Little Darlings』、原作:キーミー・ペック、監督:ロナルド・F・マックスウェル。クリスティ・マクニコル、マーシャ・メイソン、テイタム・オニール、ニコラス・コスター、マリアンヌ・ゴードン、クリスタ・エリックソン、アレクサ・ケニン、シモーヌ・シャハター、シンシア・ニクソン、アレクサ・ケニン、アビー・ブルーストーン、ジェン・トンプソン、ビル・グリッブル、メアリー・ベッテン、アーマンド・アサンテ、マット・ディロン。1980、米Paramount Pictures) とにかく瑞々しいし、子供たちが最初は反目しつつもすぐに楽しそうに喧嘩したりする様子がよい。むろん複雑で殺伐となった今となっては描けないような人間関係だが、確かにこういう人間関係はあったわけだし、それを過不足なく描いたところは本作の値打ちだろうと思う。原題が『Little Darlings』と複数なのがミソで、邦題もそのニュアンスを活かすべきだった
172 2020/5/14 『バツイチは恋のはじまり』 (原題『Un plan parfait』、監督:パスカル・ショメイユ。ロール・カラミー、アリス・ポル、ベルナデット・ル・サシェ、エティエンヌ・チコ、ジョナサン・コーエン、ダイアン・クルーガー、ロベール・プラニョル、ダニー・ブーン、ナタリヤ・コルダショワ。2012、仏Universal Pictures International) ひさしぶりによい西洋ドタバタを観たなあという感想。最初に出て来てメソメソしている脇役が最後にそっと救われるのにも感心した
173 2020/5/15 『ヒューゴの不思議な発明』 (原題『Hugo』、原作:ブライアン・セルズニック『ユゴーの不思議な発明』、監督:マーティン・スコセッシ。エイサ・バターフィールド、サシャ・バロン・コーエン、リチャード・グリフィス、フランシス・デ・ラ・トゥーア、エミリー・モーティマー、クリストファー・リー、ベン・キングズレー、クロエ・モレッツ、ヘレン・マックロリー、ジュード・ロウ、レイ・ウィンストン、マイケル・スタールバーグ、ガリヴァー・マグラス。2011、米Paramount Pictures) 歯車というわくわくする要素を魅力的に描いたというだけで傑作としたい。そのうえメリエスが重要な主題であり、メリエスが姿を現す過程の組み立て方も素晴しく(伏線としてオートマタが『メトロポリス』を彷彿とさせる)、紛れもない名作と思う。ただ、マーティン・スコセッシの作風だから仕方がないが、テリー・ギリアム風の毒がもう少し欲しかったかな
174 2020/5/16 『薔薇合戦』 (原作:丹羽文雄、監督:成瀬巳喜男。若山セツ子、安部徹、三宅邦子、小林立美、永田光男、桂木洋子、進藤英太郎、井上晴夫、青山宏、鶴田浩二、鮎川十糸子、大坂志郎、若杉曜子、仁科周芳、千石規子。1950、松竹) 全員が善人で悪人である様がとても微妙で、その微妙さ加減が現実的とも言えるし映画としては中途半端にも映る。特別面白くもなかったがつまらなくもなく、終幕でカタルシスを感じることもなかったが総体的には好感を持った。三姉妹の美しさとか、そんな表層的な部分に惹き付けられたのかもしれないが、若山セツ子の美しさは群を抜いていたと思う
175 2020/5/16 『十七才の断崖』 (監督:原田治夫。叶順子、根上淳、高村栄一、葉山葉子、高野通子、酒井三郎、如月敏子、鶴田和子、入江洋佑、伊藤直保、渡辺鉄弥、島田裕司、品川隆二、近藤美恵子、須藤恒子、月田昌也、高見貫、竹内哲郎。1957、大映) 今で言う(といってもこれだってすでに旧いが)『高校教師』の先祖のような映画だったが、叶順子が根上淳への行為を表すところで川端康成『伊豆の踊り子』を暗誦し、その結果水に落ちて根上淳と一緒に旅館で休憩せざるを得ないという展開は、昔は優雅でよかったなと思う。その後の不良と真面目な若者との展開は、今となってはもの足りないが、その辺を割り引いて観るべき映画と思う
176 2020/5/17 『離婚しない女』 (原作:連城三紀彦、監督:神代辰巳。萩原健一、夏八木勲、倍賞千恵子、倍賞美津子、神保美喜、池波志乃、伊武雅刀、池波志乃、伊武雅刀、和田求由。1986、松竹) 私にとっては本作も神代辰巳的煮え切らなさを感じた。倍賞姉妹の共演とか、濡れ場の小道具にエレキギターが出てくるとか、面白いところはいくつかあったが。池波志乃はこのまま巣のまま女優を続けてたら、今頃すごいことになっていたのになと思った
177 2020/5/19 『化石の森』 (原作:石原慎太郎、監督:篠田正浩。杉村春子、萩原健一、浜田寅彦、水島弘、亀田秀紀、日下武史、八木昌子、二宮さよ子、マスター、岩下志麻、堀内正美、岸田森。1973、東宝) 監督もスタッフ(粟津潔や武満徹など)も役者もすごくて、映画の出来としてはすごいなあと思わせられるのに、女性への暖かいまなざしがまったく感じられないのは原作の石原慎太郎の所為か。次に観る機会があるまでは、そう思っておこうと思う
178 2020/5/20 『満月の夜』 (原題『Les nuits de la pleine lune』、監督:エリック・ロメール。チェッキー・カリョ、パスカル・オジエ、ファブリス・ルキーニ、リサ・ガルネリ、クリスチャン・ヴァデム、アンヌ・セヴリーヌ・リオタール、ラズロ・サボ。1984、仏Acteurs Auteurs Associe´s) シリーズ他の作品と比べると、パスカル・オジエの存在感が異様で、それに引っ張られて特殊な世界を描いたような印象だったんだなあということが、今回観てよくわかった。この歳になってみると、パスカル・オジエも普通の若い女性のようにちゃんと見えるが、それでもやはり存在感は異様な感じだなあ。それにしても、なんとも(シリーズの他の作品もそうだが)人間をなんとも可愛らしく撮った映画であると思う
179 2020/5/21 『緑の光線』 (原題『Le Rayon Vert』、監督:エリック・ロメール。マリー・リヴィエール、マリア・ルイザ・ガルシア、ベアトリス・ロマン、ロゼット、エリック・ハム、カリタ・ホルムシュトロム、ジョエル・コマロ、ヴィンセント・ゴーティエ。1986、仏Les Films du Losange) 二年ぶり。デルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は実際に身近にいたらとても面倒くさそうな女性なのに(自分に自信がないのに招かれた食卓で菜食主義について滔々と述べたりも含めて)、それを可愛らしく描く腕前はさすがと改めて思う。次々に現れる男たちがみなサイコパスみたいなのに、最後のジャック(ヴィンセント・ゴーティエ)になるとデルフィーヌと相性ばっちりのように見えてくるのも面白い(というかその意図がはっきり伝わるところがすごいというべきか)。終幕の緑の光線の場面は、やはり自然と嬉しくなって泣いてしまう
180 2020/5/22 『友だちの恋人』 (原題『L'Ami de mon Amie』、監督;エリック・ロメール。エマニュエル・ショーレ、ソフィー・ルノワール、フランソワ・エリック・ゲンドロン、エリック・ヴィラール、アンヌ・ロール・ムリー。1987、仏Acteurs Auteurs Associe´s) シリーズ中最も地味な、というか、引っかかるところの少ない映画のようにも思ったが、完成度の証しなのかもしれない。それにしても繰り返し観たくなる六本である
181 2020/5/23 『天の夕顔』 (原作:中川与一、監督:伊藤基彦。藤川豊彦、田中春男、高峰三枝子。1948、新東宝) 今となっては恐らくピンと来ることはほとんどないであろう純愛物語だが、打ち上げ花火の終幕には意表を突かれた
182 2020/5/23 『歌え!青春 はりきり娘』 (監督:杉江敏男。美空ひばり、寿美花代、左卜全、久保明、瀬良明、清川虹子、柘植武男、小泉博、上野洋子、藤原釜足。1955、東宝) 美空ひばりの二役のうちのひとりのバス車掌が音痴である、という設定が面白い。そしてその音痴が最終的に、お母さんの音痴がわかるのだから実は耳がいい、ということで解決されるのが、単純な筋運びとはいえ素晴しいな。戦後直後にいかに明るい物語を、ということを探った結果と思うと(というか勝手に想像すると)、とても素晴しい作品と思う
183 2020/5/24 『夜の女たち』 (原作:久板栄二郎『女性祭』、監督:溝口健二。田中絹代、毛利菊江、富本民平、大林梅子、角田富江、田中謙三、永田光男、高杉早苗、青山宏、玉島愛造、村田宏寿、槇芙佐子、浦辺粂子。1948、松竹) 社会が荒れているとき、弱い立場の者に苛烈なしわ寄せ来る、という視点で観ると、ものすごく普遍的な作品と思うし、その普遍性をずっしりと味わわせてくれる。戦争未亡人からパンパンへと変わっていく田中絹代の芝居が凄まじい
184 2020/5/24 『大阪野郎』 (原作:椎名竜治、監督:大曾根辰夫。大木実、島かおり、浪花千栄子、伴淳三郎、中田耕二、葵京子、高野真二、環三千世、名和宏、天王寺虎之助、曽我廼家五郎八、曽我廼家明蝶、青山宏、遠藤辰雄、藤山寛美、園佳也子、五味勝雄、水島道太郎、高山裕子、山田百合子。1981、松竹) 一本気な正義漢・大木実よりも、陰のある逃亡中の医者・藤山寛美が圧倒的にカッコいい。ほかにも伴淳三郎、浪花千栄子、園佳也子らの怪演すれすれの芝居が印象に残る。筋立てがすっきりし過ぎている感じもあるが、戦後間もなくの人々のたくましさやそのたくましさがもたらす人間関係のねじれっぷりの描き方は見事と思った
185 2020/5/26 『江戸の小鼠たち』 (原作:村上元三、監督:冬島泰三。津川雅彦、加藤博司、宮下登志子、榎木兵衛、坂東好太郎、瀬川路三郎、宍戸錠、植村謙二郎、澤村國太郎、沢井謙二、芦川いづみ、長門裕之、若水みや子、東恵美子、河野秋武、美多川光子、市川子団次、長谷川一男、冬木京三、木室郁子、新井麗子、結城一郎、松下達夫。1957、日活) 長屋にたまたま鼻つまみ者がいるのを幸いと、それを無理やり理由にして自分たちの利権のために取り壊しにかかる“権力者”の描き方は、日本が昔から変わっていないひとつの証左と思った。長門裕之と津川雅彦の兄弟の役者としてのキャラクターの違いをここまで如実に比較できる作品としても印象に残る。芦川いづみは美しさだけが印象に残った
186 2020/5/27 『歌ふ弥次喜多』 (原作:古川緑波、監督:岡田敬/伏水修。古川緑波、徳山?、藤原釜足、宇留木浩、久米夏子、高尾光子、三益愛子(順不同)。1936、P.C.L.映画製作所) なんとまあ長閑な一本。恐らく失われている巻もあると思うが、それほど気にはならない。終幕の、襖を開けると一大レヴューが繰り広げられる(しかも時代劇なのに洋装)のはとても可笑しいが、こういう展開はこの当時は突飛でもなかったのかな、と妄想した
187 2020/5/27 『疾風の晴太郎』 (監督:佐藤幸也。沖諒太郎、目黒裕樹、楠栄二、大邦一公、星宮真沙美、荒木忍、佐々木孝丸、浮城美登里、山田周平、筑紫まり、杉山昌三九、本松一成、熱海サチ子。1955、東宝) 沖諒太郎の主演デビュー作と思うが、その完成度に驚く。観て気持ちのよい時代劇としてはお手本のような映画だった
188 2020/5/28 『栗山大膳』 (原作:三村伸太郎、監督:池田富保。鳥羽陽之助、大河内伝次郎、尾上菊太郎、磯川勝彦、高勢実乗、入江たか子、安住京子、花井蘭子、黒川弥太郎、鬼頭善一郎、片岡京十郎、進藤英太郎、高津愛子、市川正二郎。1936、日活) 大河内伝次郎はやはり台詞が聞き取りにくいし何を言ってるのかよくわからないが、存在感のすごさは感じた。全体的な話はまあわかったが、どこに感心していいのかは初見ではわからなかったな。精進しなければ
189 2020/5/30 『悪いことしましョ!』 (原題『Bedazzled』、監督:ハロルド・ライミス。ブレンダン・フレイザー、ミリアム・ショア、オーランド・ジョーンズ、ポール・アデルスタイン、トビー・ハス、フランシス・オコナー、エリザベス・ハーレイ、ルドルフ・マーティン、アーロン・ラスティグ、ガブリエル・カスース。2000、米Twentieth Century Fox) 物語の表面的な面白さとその根底に流れる善悪の問題の面白さに加え、笑いどころの的確さと、役者たち、とりわけ悪魔役のエリザベス・ハーレイの力量に感心。なんで録画しとこうと思ったのか忘れてしまったのでまあ偶然なわけだが、出会えたことを感謝したい。スタンリー・ドーネン版(1968年)も観てみたい
190 2020/6/1 『恋とスフレと娘とわたし』 (原題『Because I Said So』、監督:マイケル・レーマン。ダイアン・キートン、ローレン・グラハム、パイパー・ペラーボ、マンディ・ムーア、マット・シャンパーニュ、コリン・ファーガソン、ガブリエル・マクト、トニー・ヘイル、トム・エヴェレット・スコット、タイ・パニッツ、スティーブン・コリンズ。2007、米Universal Pictures) とても丁寧に作られたハートウォーミング・コメディだった。他の監督作も観てみたい(『エド・ウッド』は制作総指揮で監督はティム・バートン)
191 2020/6/2 『現金に手を出すな』 (原題『Touchez pas au Grisbi』、原作:アルベール・シモナン、監督:ジャック・ベッケル。ジャン・ギャバン、ルネ・ダリー、ドラ・ドル、ジャンヌ・モロー、ドニーズ・クレール、ミッシェル・ジュールダン、ギャビー・バセット、ルシラ・ソリヴァーニ、リノ・ボリニ、ポール・フランクール、ヴィットリオ・サニポリ、アンジェロ・デッシー、ポル・オットリー、デラ・スカラ、マリリン・ビュフェル。1954、仏伊Les Films Corona) 名作であることには間違いはないが、何度観てもハーモニカを主にした主題音楽の情けない感じは好みではないな。でもこれが主人公マックス(ジャン・ギャバン)の老いを表しているのだろうから、そう考えると文句をつけたいわけではないのだが、ほかになにかなかったのかなあとはやはり思う
192 2020/6/3 『必殺仕掛人』 (原作:池波正太郎、監督:渡辺祐介。山村聡、田宮二郎、高橋幸治、浜田寅彦、川崎あかね、川地民夫、青山宏、秋谷陽子、岩崎和子、津坂匡章、穂積隆信、室田日出男、河村憲一郎、野際陽子、森次晃嗣、三津田健、金子亜子。1973、松竹) 音羽屋(山村聡)、梅安(田宮二郎)、左内(高橋幸治)、千蔵(津坂匡章)ら主要な配役の個性がばっちり決まっていて気持ちがよいのに加え、聖天の大五郎(三津田健)の豹変ぷりが見事。悪女お吉(野際陽子)の死に際の美しさも印象に残った。梅安ものとしてはじゅうぶん満足。TVシリーズのあとに撮られたのに、本作のみ梅安が田宮二郎であった事情は知らないが、田宮二郎版がこの一本だけだったのも残念と言えば残念(映画版二作めでの緒形拳への交代は、ファンからの要望も大きかったようだ)
193 2020/6/3 『新釈 四谷怪談 前後篇』 (原作:鶴屋南北『東海道四谷怪談』、監督:木下恵介。滝沢修、佐田啓二、宇野重吉、田中絹代、上原謙、山根寿子、杉村春子、玉島愛造、三津田健、飯田蝶子、加東大介。1949、松竹) 幽霊譚よりも人間そのものの(弱さも含めた)怖さに焦点を当てた物語構成も。田中絹代を初めとする役者陣によるその現実化も、とにかく見事。演出も、いやというほど人間の嫌な側面を味わわせてくれる。それでいて繰り返し観たくなる傑作
194 2020/6/4 『悪いことしましョ!』 (原題『Bedazzled』、原案:ダドリー・ムーア/ピーター・クック、監督:スタンリー・ドーネン。ダドリー・ムーア、ピーター・クック、エリナー・ブロン、ロバート・ラッセル、マイケル・ベイツ、ハワード・ゴアニー、ロビン・ホウドン、アルバ、ラクウェル・ウェルチ、バリー・ハンフリーズ、ロックウッド・ウエスト。1967、英Twentieth Century Fox Film Compan) 主役二人(ダドリー・ムーア、ピーター・クック)が原案・脚本・音楽などを担当している点、映画作りが好きで好きでたまらないという人たちが手作りででも作ろうという意気込みが感じられて好ましい(手作りなどと言ってはプロの方々に失礼だが)。いわゆるスィンギン・ロンドン的な設えと、登場人物全員がどことなく間が抜けているのもよい味わい。神学的には2000年版よりも少しシリアスかなと思ったが、その辺は何度かじっくり観てみないとわからない。いずれにせよ、DVDソフトを購入してよかった
195 2020/6/5 『千姫』 (監督:木村恵吾。進藤英太郎、大河内傳次郎、伊志井寛、京マチ子、峰幸子、市川雷蔵、東山千栄子、山形勲、南部彰三、三田隆、石黒達也、市川男女之助、菅原謙二。1954、大映) 晩ご飯がてらの鑑賞だったので、京マチ子が印象に残ったのみだったが、千姫を物語の中心に据えた場合に浮かび上がる武士や男社会のバカバカしさはよく表現されているなあとは思った。もう一度、ちゃんと鑑賞しなければ
196 2020/6/8 『闇を裂く口笛』 (監督:森永健次郎。玉村駿太郎、草薙幸二郎、沢本忠雄、高山秀雄、加原武門、伊丹慶治、笹森礼子、小泉郁之助、高田敏江、武藤章生、飯田蝶子、木島一郎、宮原徳平、高野誠二郎。1960、日活) 割とありがちな若者が道を踏み外す物語と思ってやや退屈して観ていたが、終幕の口笛と母の慟哭にいきなり泣かされた。演出と飯田蝶子の名演もあろうが、遺しておきたい名作だった
197 2020/6/8 『女の花道』 (原作:川口松太郎、監督:沢島忠。美空ひばり、北林谷栄、香川良介、大出俊、杉村春子、野川由美子、森光子、辰巳柳太郎、伊志井寛、黒川弥太郎、藤波洸子、月村圭子、新橋耐子、中村賀津雄、香山武彦、田村高廣、明石照子、小島慶四郎、右下恭介。1971、東宝) これは珍品。アシスタントが描いた手の込んだ背景とキャラクターの上に平坦な二次元の主人公を置いた漫画の趣き。名優たちが作り上げる世界観を美空ひばりがことごとく破壊していくのがとても可笑しい。感動する要素があるのにまったく感動を覚えないのも珍しいと思う。そんな諸々の点で記憶に残しておきたい一本
198 2020/6/8 『みな殺しの霊歌』 (監督:加藤泰。應蘭芳、佐藤允、中原早苗、沢淑子、菅井きん、河村有紀、諸角啓二郎、松村達雄、大泉滉、渡辺篤、倍賞千恵子、明石潮、高野真二、石井富子、太宰久雄、吉田義夫。1968、松竹) 冒頭の煽り方が衝撃的だが、全体には地味。しかし地味ながら人間の哀しさがじわじわじわじわと沸き上がってくる。ラーメン屋の主人の明石潮の芝居など、ほんの少しの場面でぎゅっとそんな哀しさの中に引きずり込まれる。女性コーラスを多用した鏑木創の音楽もこの映画の世界に深みを与えていて見事。絵造りも含めて。隠れた(隠れてないかもしれないた)名作と思った。佐藤允、倍賞千恵子もものすごい名演(倍賞千恵子が佐藤允の死後直後に、その前日破り捨てた佐藤允の指名手配写真をつなぎ合わせるという終幕も衝撃的であった)。松村達雄が痔に苦しむ刑事というのも、地味にいい味わいを醸し出していた
199 2020/6/9 『大菩薩峠』 (原作:中里介山、監督:岡本喜八。内藤洋子、藤原釜足、仲代達矢、西村晃、香川良介、新珠三千代、小川安三、中谷一郎、佐藤慶、中丸忠雄、三船敏郎、加山雄三、川口敦子、田中邦衛、天本英世、宮部昭夫。1966、東宝) 中盤までの机龍之介の虚無感の表し方はもの凄かった。そのもの凄さと終盤のチャンバラの、痺れるくらいカッコいいが凡庸な感じも感じる、その差が少し気になった。絵造り含む演出は、さすが岡本喜八
200 2020/6/12 『女の市場』 (監督:江崎実生。川地民夫、沢知美、小林旭、藤田憲子、松井康子、上田吉二郎、内田良平、長谷川照子、雪丘恵介、山本陽子、青江三奈、加藤嘉、木島一郎、柳瀬志郎、榎木兵衛、峯京子、浦辺粂子、中山千夏。1969、日活) 夜の世界の様々な駆け引きと、雪丘恵介や山本陽子など善良な人物とのコントラストが鮮やかで、さらにその善良な人物が夜の世界の毒牙にかかる様も鮮やかなのが印象に残る。加藤嘉・中山千夏親子の存在も含めると、小林旭を中心にした明と暗の描き方の塩梅が秀逸、という感じか。その中に、青江三奈が歌手として勤める池袋の畳敷きのクラブが効き具合のよいスパイスのように登場しているのも、映画の造りとしては心憎い
201 2020/6/12 『鮮血の記録』 (原作:野尻稔、監督:野村孝。岡田英次、小林旭、河村有紀、高樹蓉子、田村高廣、水野久美、青木義朗、中村竹弥、原恵子、岡崎二朗、郷えい治、青木伸子。1970、ダイニチ映配) 戦中に不正を働き戦後は(公職追放者として)陰に隠れて富を欲しいままにしようとする男(岡田英次)と、その男の毒牙にかかり復讐を誓う男(小林旭)、その関係の真ん中に位置し力の駆け引きに利用されてしまう男(田村高廣)という物語と人物関係の構造は、こう整理してみると『女の市場』に似ているような気がした。ずっしりとした手応えの一本だが、岡田英次、田村高廣、そして岡崎二朗の意外な好演の中では、小林旭にやや重みや凄みが足りない印象であった
202 2020/6/13 『紅扇』 (原作:田中澄江『母の舞う時』、監督:原研吉。高橋貞二、水原真知子、木暮実千代、幾野道子、小林トシ子、岩井半四郎、市川春代、十朱幸雄、吉川満子、水上令子、森川まさみ、水木涼子、北龍二、小園蓉子、三木隆。1952、松竹) 中盤の回想部分が、ある意味主な要素とはいえ長過ぎる(途中で現在へ何度か戻ってほしかった)ものの、美しくまた完成度の高い映画と思った。人としてこうありたいと、なんとも心地よくそう思わせられる
203 2020/6/16 『誰に恋せん』 (監督:牛原虚彦。龍崎一郎、及川千代、高峰三枝子、相馬千恵子、若原雅夫、立松晃、及川千代、伊達正、千明みゆき、見明凡太郎、水原洋一。1948、大映) この映画の本質的な部分ではないかもしれないが、登場人物それぞれの品のよさが印象に残る。あとやはり登場人物の造形がバタ臭い感じなのは、日本人が意外に(現在私が昔の日本人に対して思っているほど)脂っこい人種だったのかもしれないし、あるいは欧米の映画をお手本にした結果かもしれない。学生時代の親友同士が戦争で明暗を分けたという物語にあまり深いものを感じなかったが(落ちぶれたほうがもっとうらぶれてないと、今の感覚ではピンと来ない)、繰り返し観たくなる心地よさはあった
204 2020/6/16 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 (原作:本谷有希子、監督:吉田大八。佐津川愛美、永瀬正敏、永作博美、佐藤江梨子、土佐信道、山本浩司、上田耕一、ノゾエ征爾、吉本菜穂子、湯澤幸一郎、谷川昭一朗。2007、ファントム・フィルム) 佐藤江梨子の使い方が残酷なまでに見事。素の佐藤江梨子の芝居の下手さを、女優志望だが自己評価と他人からの評価がまったく異なる人物の可笑しさに見事に活かした上で、可笑しい味わいを醸し出すのに成功している。原作の面白さもあるわけだが、それを活人画に構築し直した手腕は、これが初監督作品だそうだが、大したものと思った。田舎の怖さや哀しさ、佐藤江梨子の怖さや可笑しさ、嫂の不気味さ、各登場人物の人間関係などのうち、どこが核になるのか、終盤まで曖昧なところは観ていてやや不安を覚えたが、最後にはうまくまとまったのではないかと思った
205 2020/6/17 『浪人街』 (原作:山上伊太郎、総監修:マキノ雅広、黒木和雄。原田芳雄、勝新太郎、天本英世、紅萬子、中村たつ、水島道太郎、樋口可南子、石橋蓮司、中尾彬、津村鷹志、外波山文明、田中邦衛、杉田かおる、藤崎卓也、伊佐山ひろ子、佐藤慶、絵沢萠子、長門裕之。1990、松竹) ぼんやりと観ていたので、勝新の裏切りの顛末とか、元二本差しのうどん屋の長門裕之の背景とか、わからないところは多々あったが、わからないところが特に気にならず面白かったので、その点はすごいな。てなことを言ってないでちゃんと再見しなければならないが、樋口可南子と石橋蓮司が印象に残ったその残り方はすごかった。でも樋口可南子はアップの際役柄にしては肌がきれい過ぎたのが気にはなった
206 2020/6/19 『愛の亡霊』 (原作:中村糸子、監督:大島渚。田村高廣、藤竜也、吉行和子、木村竜也、北村英三、河原崎建三、伊佐山ひろ子、佐藤慶、小山明子、松井加容子、道井恵美子、新屋英子、杉浦孝昭、長谷川真砂美、殿山泰司、山本麟一、藤原明良、川谷拓三、語り:佐々木すみ江。1978、東宝東和) 冒頭のミニチュア映像っぽい撮り方には目を引かれたし、吉行和子が前半とんでもなくエロいのにも魅了されたが、全体に物々しいがなんだか浅い感じだったり、情念が薄かったり、監督自身が自分の変態性を恥ずかしがって格好つけた撮り方をしていたりなど、この程度じゃ満足できないよ、という感じであった。田村高廣が力を発揮す場面がほとんどなかったり、藤竜也の魅力がぜんぜん活かされていなかったりなども残念。再見すればまた別の印象を得るかもしれないが、一度観てもう一度観たいとも思わなかった
207 2020/6/20 『幡随院長兵衛』 (原作:藤森成吉、監督:千葉泰樹。汐見洋、嵐芳三郎、阪東精一郎、河原崎長十郎、山岸しづ江、中村翫右衛門、橘小三郎、瀬川菊之丞、中村鶴藏、千田是也。1940、日本劇場) 幡随院長兵衛の思慮深さに専ら焦点を当て、水野一党と江戸っ子幡随院一党の胸のすくような気持ちのよい喧嘩の描写はほとんどなかった。その意味では拍子抜けはしたが、終幕で殺されに行く幡随院=河原崎長十郎の佇まいにはしっとりと感動させられた
208 2020/6/22 『三匹の侍』 (監督:五社英雄。丹波哲郎、桑野みゆき、藤原釜足、今橋恒、石黒達也、多々良純、平幹二朗、葵京子、長門勇、井川比佐志、木村俊恵、青木義朗、三原葉子、香山美子、青木義朗。1964、松竹) 優等作プラスαな感じの、何度でも観たくなる魅力のある時代劇秀作。特別ものすごい個性を持った作品ではないと思うが、物語も絵造り・演出も役者の芝居も申し分なし。桑野みゆきの顔がきつくなって来た頃だったり、三原葉子が年増になる直前だったり、ちょうどよい感じなのも本作の魅力
209 2020/6/24 『レネットとミラベル 四つの冒険』 (原題『4 aventures de Reinette et Mirabelle』、監督:エリック・ロメール。ジェシカ・フォルド、ジョエル・ミケル、ムッシュ・ウソー、マダム・ウソー、フランソワ・マリー・バニエ、ジャン・クロード・ブリソー、フィリップ・ローデンバッハ、ジェラール・クーラン、ベアトリス・ロマン、ヤスミン・ホリー、マリー・リヴィエール、ヘデ・カイヨー、ファブリス・ルチーニ、マリー・ボートルー、フランソワ・ヴァリエ。1986、仏Les Films du Losange) 「喜劇と格言劇」シリーズではなく、冒頭に格言も呈示されないが、主人公が可愛らしくも面倒くさそうな若い女性である点や、四つの挿話それぞれに教訓が読み取れるようなところから、シリーズの延長線上にあると思われる。一方から見れば正しいと思われる行動や考え方が、見方を変えるとそうではない、といったところもそうかな。そこは自信がないが。しかし四つの挿話から読み取れる教訓めいたものが明確ではない点、観終えてもやもやもするが、面白くもある。不思議な感触だった。ダサくて可愛らしい音楽も、そんな印象を与えているのかもしれない
210 2020/6/25 『木と市長と文化会館 または七つの偶然』 (原題『L'Arbre, Le Maire et La Mediatheque ou Les Hasards』、監督:エリック・ロメール。ファブリス・ルキーニ、パスカル・グレゴリー、アリエル・ドンバール、フランソワーズ・エチュガレー、ギャラクシー・バルブット、ミッシェル・ジャエン、クレマンティーヌ・アムルー、フランソワ・マリー・バニエ、ジェシカ・シュウィング。1992、仏Les Films du Losange) 題名にある「七つの偶然」の連鎖も面白いが、最終的に計画がダメになったのはまた別の原因だったり、人々の対立がそれほど深い対立とも描かれていないのに大団円に胸がすいたり、不思議な味わいの映画。小学校教師の娘が偶然から市長に直訴する場面は、無理がありそうなのにまったくそう感じさせないように撮られていて素晴しい。『レネットとミラベル』もそうだが、観る側を退屈させることを恐れない映画造りも大変なものだと思う(本作だと、教師娘の登場場面と、女性記者と市長の恋人である女性小説家の議論の場面がアクセントになっていたが、直訴場面まではずっと退屈であった。それでいてこの先どうなるだろうと観させられてしまう)
211 2020/6/26 『パリのランデブー』 (原題『Les rendez-vous de Paris』、監督;エリック・ロメール。フローレンス・レヴュ、クリスチャン・バッスール/クララ・ベラール、アントワーヌ・バズラー、マルコム・コンラス、セシル・パレス、マチアス・ベガール、ジュディット・シャンセル、オリヴィエ・ポジョル/セルジュ・レンコ、オーロール・ロシェ/ミカエル・クラフト、ヴェロニカ・ヨハンソン、ベネディクト・ロワイヤン。1995、仏Les Films du Losange) エリック・ロメール風“退屈”は、主にオムニバス第二話の「パリのベンチ」に凝縮されていたかな、という印象。恋人ではない男女が延々パリのあちこちの公園でデートするだけの絵は、どこにも辿り着かないような会話に彩られながら、奇妙に面白い退屈さを味わわせてくれた。それに対して第一話「7時の約束」と第三話「母と子1907年」は、物語の速度や曲がりくねり方(主に第一話)の点で、かなり“飛ばしている”印象があった。そんな三話の組合せの妙もたいへん結構であった(三話の共通点は、その場にいない人の話で物語が転がっていく、という点もあるかな)。それにしても、役者がみな魅力的なのに普通のその辺にいる人々に見える撮り方なのはよいな。あとあまり上手くはないが可愛らしい魅力のある歌が各話を転がしていくのはよかった
212 2020/6/29 『暗殺』 (原作:司馬遼太郎、監督:篠田正浩。丹波哲郎、岡田英次、小沢栄太郎、佐田啓二、木村功、穂積隆信、立岡光、城所英夫、竹脇無我、水島真哉、山路義人、青山宏、岩下志麻、早川保、武智鉄二、日下武史、水島弘、須賀不二男、織本順吉。1964、松竹) 幕末の有名人が主人公だが、話の組み立て方がなんとなくピンと来なかった。私の頭が悪いのか相性が悪いのか、清河八郎の複雑で多面的なな人間性を描いているのはわかるのだが、だからなに、というこの映画この物語の急所をつかめなかった、という感じかな。気が向いたらもう一度観てみよう
213 2020/6/30 『年忘れ爆笑企画 温泉サギ師 湯けむり・グルメ・やっちゃうからぁ!』 (監督:鈴木則文。山村美智子、佐藤浩市、萩原健一、CCB、レオナルド熊、塩沢とき、坂上二郎、萬田久子、中島ゆたか。1986、TBS) 制作当時に流行っているものとか、少し前の流行や話題、旬だった人物を適当に並べて作ったとう趣き。今でもくすっとしてしまう場面はいくつかあったし、この時代が最後だろうかおっぱいの露出も多用されていたが、この年代に子供だったから今観てもまあ楽しめた、という程度かな。萩原健一には追悼(しかしこれ放映しなくてもとは思った)
214 2020/7/1 『テロリストのパラソル』 (原作:藤原伊織、監督:福本義人。高橋父、高橋惠子、萩原健一、根津甚八、長江英和、五十嵐瑞穂、村井国夫、大杉漣、西岡?馬、木村佳乃、。1996、CX) 四半世紀前のTVドラマ故の古さはあるが、物語がしっかりしていてそれを壊さないように(そっくりそのままというわけではなかろうが)丁寧に作られていて、観させられた(近藤等則の音楽は、当時観たらカッコいいなと思っただろう感じ)。ちょうど十年前の『温泉サギ師』と比べると、萩原健一がいい老け具合。女優デビュー直後の木村佳乃がまたいい芝居と存在だった
215 2020/7/1 『忍びの忠臣蔵』 (原作:菊島隆三「お庭番 元禄十四年」「お庭番 元禄十五年」、監督:工藤栄一。萩原健一、吉田日出子、江藤潤、浅野、内藤武敏、成田三樹夫、佐藤允、岩井半四郎、池上季実子、小林稔侍、秋野暢子。1981、CX) 大石内蔵助=岩井半四郎がぐっと引き締める酷薄な男の世界の世界もまあよいが、あまり出てこない吉田日出子の芝居が印象に残った。特に終幕の小さいひと暴れには泣いた
216 2020/7/2 『パプリカ』 (原作:筒井康隆、監督:今敏。大塚明夫、三戸耕三、ふくまつ進紗、林原めぐみ、古谷徹、堀勝之進、江守徹、山寺宏一。2006、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント) 話はもちろん面白いし、演出や絵造りの発想や作画技術も大したものだが、しかし観ていてるとだんだん人物造形(青年マンガ誌のような)や絵造り全体に艶や幻想性や変態性が乏しいように感じてきてしまう。TV画面で観た所為ももちろんあるのだろうが、惜しいなあ(声優の声がみなアニメ声の所為もあるか)。そして恐らく原作を読めばこの絵が蘇ってしまうのだろう。もし今後また読むことがあれば注意しなければ
217 2020/7/2 『マガディーラ 勇者転生』 (原題『MAGADHEERA』、原案:V.ヴィジャエーンドラ・プラサード、監督:S.S.ラージャマウリ。カージャル・アグルワール、ラーム・チャラン、シュルハリ、スニール、デヴ・ギル、スーリヤ、ラオ・ラメシュ、サラット・バーブ。2007、印Geetha Arts) 転生ラブストーリーとしてはもっとうまい撮り方もあるとは思うが、そんなことはどうでもよくなるような面白さ。感覚が違うので珍しいからというのもあるとは思うが、いわゆるボリウッド映画ももう見馴れているはずなのに、そこでそうくるかという新鮮さを感じる。カージャル・アグルワールの聖と俗、高貴さと親しみやすさのどちらも微妙な感じの美しさが印象に残った
218 2020/7/3 『乙女たちの秘めごと』 (原題『The Sower』、監督:マリアン・フランセン。デニス・クートーディエ、テオ・コスタ・マリーニ、ポリーヌ・ビュルレ、ザベス、フランソワーズ・ルブラン、バーバラ・プロブスト、ジェラルディン・パルハス、ラファエル・アゴゲ、アナマリア・ヴァルトロメ、アルバン・ルノワール。2017、仏白ARP Se´lection) スタンダードサイズの画面が美しい。写実派などの絵画を強く意識した絵造りと思うが、そのまま絵画になりそうな様々な場面が印象に残る。時代に翻弄される女性たちを主軸に描いた作品だが、辛いのに優雅、優雅なのに辛く、その中に若い娘たちならではの性への興味も描かれ、ときに激しい感情もほの見えながら(ローズが自分の花嫁衣装を燃やす場面などは衝撃的だった)、しかし静かに運命を受け入れる(受け入れざるを得ない)という流れに心打たれた
219 2020/7/3 『日本一の断絶男』 (監督:須川栄三。植木等、なべおさみ、緑魔子、橋本功、小松政夫、飯田蝶子、高橋厚子、人見きよし、市川和子、藤岡琢也、奥村チヨ、熊倉一雄、千秋実、北龍二、二瓶正也、桐野洋雄、藤木悠、ハナ肇、二見忠男、清水元、富田仲次郎、谷啓、春川ますみ、安田伸。1969、東宝) クレージー映画としては後期に当り、クレージー全員一眼となってではなく植木等の映画に他のメンバーがチョイ役で出るという造りの所為もあるのだろうが、全体的にはテンポが悪く途中退屈するが、まずは植木等が歌う『静かな午后のひととき』という歌のAメロとBメロの歌詞の落差に笑う(曲調は変わらない)。あと終盤の畳み掛けるようなテンポとか、とうとつに登場する奥村チヨとか、緑魔子の充実ぶりとか、見どころはまあまああるし、繰り返し観たくはなる
220 2020/7/3 『日本一の裏切り男』 (監督:須川栄三。植木等、ハナ肇、浜美枝、熊倉一郎、桜井センリ、塩沢とき、小沢昭一、いかりや長介、名古屋章、常田富士男、渡辺篤、沢宏美、加藤茶、仲本工事、古今亭志ん朝、荒井注、小松政夫、なべおさみ、犬塚弘、牟田悌三、藤田まこと、高木ブー、千葉一郎。1968、東宝) 戦後昭和史といった趣きだが、ひとつひとつのエピソードが微妙に長く、またテンポがやはり悪い。テンポが悪く感じるのは、須川栄三のテンポ感が私にはよくわからないということかな。しかしハナ肇が出てきて準主役的に活躍すると、それだけで全体が締まるし、独特の情けない可笑しさで楽しませてくれる。浜美枝の出演もあって、『断絶男』よりはクレージー映画らしさが味わえるように思う
221 2020/7/3 『ハイハイ3人娘』 (原作:川上宗薫『先生・先輩・後輩』、監督:佐伯幸三。中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、高倉一志、長沢純、手塚しげお、ハナ肇、田辺靖雄、藤山陽子、北川町子、谷啓、横山道代、校長、若林映子、江原達怡、高島忠夫、犬塚弘、安田伸、桜井センリ、石橋エータロー、夏洋一、水原弘、ラウル・アベル・ダンサーズ。1963、東宝) どうということもない学園ものだが、謎の電話の主を探すという筋立ては面白いし、スパーク三人娘、とりわけ中尾ミエの魅力が炸裂していてとても楽しい(伊東ゆかりがときおり変なキャラクターになるのも可笑しい)。クレージーキャッツは添え物という感じであまり笑いを振りまかないが(終盤の『五万節』は再校)、高島忠夫が地味に可笑しいのがまたよい
222 2020/7/4 『男の顔は切り札』 (監督:マキノ雅弘。長門裕之、すし銀、伊藤栄子、轟夕起子、津川雅彦、園佳也子、西村晃、和崎俊哉、原田甲子郎、東千代之介、安部徹、田中邦衛、杉狂児、水島道太郎、高野真二、南田洋子、徳大寺伸、菅井きん、平井昌一、安藤昇、藤山寛美。1966、松竹) 1時間32分のうち後半40分から、それも飛び飛びにしか出てこない安藤昇がカッコよく、すべてさらっていく。元梅津組の面々がヤクザ者ながら人のよい可愛らしい人たちとして描かれているのは安藤昇をカッコよく見せるための演出と思ったが、安藤昇がそれに見事に応えているのは素晴しいと思った。その辺の塩梅は、さすがマキノ雅弘ということか。芝居がうまいわけでは決してないとも思うのだが、元妻の南田洋子を新しい男に譲る場面や最後の殴り込みに登場する場面など、肝になるところではすっとおいしいところを拾っていく。それが演出の妙だろうが(実は)芝居の巧みさだろうが、観る側にはあまり関係なくて、その気持ちよさに酔わされた
223 2020/7/4 『若い季節』 (原作:小野田勇、監督:古沢憲吾。淡路恵子、坂本九、有島一郎、ハナ肇、犬塚弘、桜井センリ、安田伸、石橋エータロー、平田昭彦、松村達雄、人見明、藤山陽子、団令子、浜美枝、中真千子、植木等、ダニー飯田とパラダイスキング、ジェリー藤尾、田村奈己、佐原健二、沢村貞子、世志凡太、宮田羊容、清水元、谷啓、青島幸男、古今亭志ん朝、三原葉子、ビンボ・ダナオ。1962、東宝) 観ていて、のちのクレージー映画のエッセンスが詰まった一本、と思ったが、撮られたのは『ニッポン無責任時代』よりあと(TVシリーズは前なのかな)。とはいえ、『ニッポン無責任時代』を総括してエッセンスを抽出して再構築、という見方は、不正確だとしても受け手としてはしていいように思う。ただしクレージーキャッツの存在感よりも、総体的には喜劇の先達の存在感のほうが勝っていて、かつ浜美枝の魅力にクラクラして、三原葉子とジェリー藤尾のからみが珍しく、淡路恵子とビンボ・ダナオのツー・ショットに笑う、そんな映画
224 2020/7/4 『続若い季節』 (原作:小野田勇、監督:古沢憲吾。淡路恵子、古今亭志ん朝、三木のり平、田辺靖雄、十朱久雄、青島幸男、中尾ミエ、園まり、伊東ゆかり、藤田まこと、三橋達也、若水ヤエ子、谷啓、峰健二、沢村貞子、砂塚秀夫、ジェリー藤尾、植木等、由利徹、人見明、桜井センリ。1964、東宝) 今作ではクレージーキャッツは谷啓に役が付いているほかは植木等と桜井センリがチョイ役で顔を出すだけで、スパーク3人娘の映画と言うべきだろう。3人娘が勤務先への融資元の社長にそれとは知らずにちょっかいを出すその様子と、古沢憲吾らしいとうとつなステージ上でのミュージカルシーンが可笑しい。それ以外は東宝喜劇としては佳作かな
225 2020/7/6 『ミッドナイト・ラン』 (原題『Midnight Run』、監督:マーティン・ブレスト。ロバート・デ・ニーロ、ジョン・アシュトン、ジャック・キホー、ジョー・パントリアーノ、ヤフェット・コットー、ロバート・ミランダ、リチャード・フォロンジー、チャールズ・グローディン、デニス・ファリーナ、フィリップ・ベイカー・ホール、メアリー・ギリス、ウェンディ・フィリップス。1988、米Universal Pictures) 保釈屋対麻薬王、保釈屋対FBI、保釈屋対保釈屋の緊迫感溢れる犯罪映画かと思いきや、全編にそこはかとない間抜けな感じがずっと流れていて面白い。そしてその間抜けな感じがデ・ニーロ、チャールズ・グローディン、ヤフェット・コットー、ジョン・アシュトンそれぞれに微妙な色彩で描かれているのもなかなか。もちろんロード・ムービーらしく友情が芽生えたり壊れかけたりもあり、あるいは移動が一筋縄ではいかなかったり、その辺の塩梅もいい映画だった
226 2020/7/7 『あゝ声なき友』 (原作:有馬頼義『遺書配達人』、監督:今井正。森次浩司、渥美清、小川真由美、田中邦衛、財津一郎、加藤嘉、北林谷栄、倍賞千恵子、新克利、松村達雄、荒木道子、長門裕之、吉田日出子、北村光蓉子、田武謙三、梅津栄、山谷初男、志垣太郎、織本順吉、大滝秀治、市原悦子、悠木千帆、江原真二郎、長山藍子、金井大、香山美子、春川ますみ、北村和夫。1972、松竹) 戦争が遺した爪痕の、小さなしかしその分長引いたものをたくさん集めたといった趣。声高に戦争を糾弾するわけではないが、その分却って、戦争の残酷さをじわじわと味わわされる。それを伝えるという意味では、挿話の順序や積み重ね方、描き方がとてもうまく。派手な戦争映画よりも何故戦争を起こしてはいけないのかを実感させる力がある映画ではないかと思う。末永く観続けられるべき映画と思った。個々の役者の芝居としては、小さな傷たちを辛抱強く追いかけ続ける(そして次第にその傷の重さをそれぞれの遺書の受取人と一緒に抱え続けるようになる)主人公を演じた渥美清はもとより、松村達雄、田武謙三、志垣太郎、小川真由美、江原真二郎、長山藍子、北村和夫に(比喩ではなく)泣かされた。音楽が小室等のフォークソング調なものなのが、重々しいものをつけるよりも却ってよかったとも思った
227 2020/7/7 『復讐するは我にあり』 (原作:佐木隆三、監督:今村昌平。緒形拳、フランキー堺、殿山泰司、垂水悟郎、白川和子、絵沢萠子、三國連太郎、ミヤコ蝶々、小野進也、佐野大輔、倍賞美津子、小川真由美、火野正平、根岸とし江、清川虹子、北村和夫、梅津栄、菅井きん、安部寿美子、加藤嘉、河原崎長一郎。1979、松竹) 映画史に残る重厚な名作と思うが、いかんせんテンポが緩やかで私には長く感じ、映画化されたものを観るに当ってどこに焦点を当てて観たらいいのかがつかめなかった。結局、三國連太郎と倍賞美津子の温泉での濡れ場のみが印象に残ってしまった(あの場面は鳥肌が立った)
228 2020/7/7 『瀬戸はよいとこ花嫁観光船』 (監督:瀬川昌治。財津一郎、人見きよし、田坂都、村地弘美、夏夕介、山城新伍、フランキー堺、朝丘雪路、日色ともゑ、ミヤコ蝶々、春川ますみ、エリザベス・クイーン、大杉侃二郎。1976、松竹) 本州四国連絡架橋の架橋工事再開に伴う老舗旅館の買収工作、というそれなりのスケールの話かと思いきや、買収工作についてはあっさり尻切れとんぼ的に収束し、夫婦やカップルの関係が壊れ修復する、というだけの話だった。なのに飽きずに楽しめるのは、今では考えられないような藝達者が揃っているのがやはり大きいのだろう。爆笑場面などもないのにずっとそよそよと楽しく、観終わったあとなにも残らない。ある意味理想的な喜劇映画
229 2020/7/8 『喜劇 命のお値段』 (監督:前田陽一。フランキー堺、財津一郎、桜井センリ、萩原健一、北林谷栄、小川ひろみ、岡田茉莉子、石山健二郎、左とん平、加賀まりこ、佐山俊二、日色ともゑ、白木みのる、太宰久雄、嵯峨善兵。1971、松竹) 思ったよりも社会派的な重さが勝ってて、いい加減に撮ったように見える部分がただいい加減に見えてしまうという作品だった。フランキー堺と財津一郎のよさが一部分しか活かされてないという印象で、やや残念。カユイカユイ病というのも、今の感覚だと単なる不謹慎と思う。北林谷栄だけ異様な人物造形なのは可笑しかった
230 2020/7/9 『大人と子供のあいの子だい』 (原作:渡辺照男、監督:若杉光夫。松下達夫、木浪茂、斎藤洋子、小夜福子、高田敏江、浜田光夫、武智豊子、鈴木寿雄、坂下登、奥山淳一、北村公敏、星紀一、宇野重吉、佐々木すみ江、松原智恵子、鶴丸睦彦、日野道夫、大滝秀治、鈴木瑞穂、梅野泰靖。1961、日活) ものすごく辛い中学生日記のような映画だが、周囲に優しい大人が少しでもいたり、卑屈になって荒れてる父ちゃんも実は気が弱いだけの善人で、貧乏人同士で助け合う場面があるのは救い。しかし最後には否応無しの現実(解決は難しくないはずなのに、解決を望まない人がいるという点も含めて)を突きつけられて、やはりものすごく辛い映画であった。当時の世相を良心的に描いた映画とは思うが、観る者を引き込むような映画としての外連味が何かあってもよかったという気がしないでもない
231 2020/7/9 『ニノチカ』 (原題『Ninotchka』、監督:エルンスト・ルビッチ。ロルフ・セダン、フェリックス・ブレサート、アレクサンダー・グラナッハ、シグ・ルーマン、メルヴィン・ダグラス、アイナ・クレア、ドロシー・アダムス、グレゴリー・ゲイ、エドウィン・マクスウェル、ペギー・モラン、グレタ・ガルボ、リチャード・カール、チャールズ・ジュデルス、フレデリック・ブラウン、ジョージ・トビアス、タマラ・シェイン、ハリー・シェメルズ、ポール・ウェイジェル、ベラ・ルゴシ。1939、米MGM) 傑作。グレタ・ガルボのコメディエンヌの資質をよくも見抜き活用したと思う。他国の政治状況を揶揄するようなこの種の映画は現在はなかなか撮れないだろうと思うが、うまく工夫して現代版を(たとえば北朝鮮などをモデルにして)撮れないものかと思った
232 2020/7/10 『親バカ子バカ』 (原作:館直志、監督:酒井欣也。渋谷天外、石井富子、早苗由香、藤山寛美、北上弥太朗、曽我廼家明蝶、環三千世、九条映子、南泰介、小田草之助、伴淳三郎、西田智、秋田Aスケ、秋田Bスケ、乃木年雄、滝川美津枝、林左代子、市川男女之助、大和久乃、嵯峨野深雪、北条喜久、三宅邦子。1960、松竹) アホだけど心はきれい、または、アホのほうが心がきれい、という話かと思ったが、それだけで片付けていいのかはわからなかった。登場する役者藝人はいずれも達者だし、藤山寛美はさすがにさすがだと思うが、この映画に一本通った筋があるとしてそれがアホ〜なのかどうかが不明瞭だったので、結局よい映画なのかそうでなかったのか、判断しかねているところ。美術は素晴しかったし、観ていて楽しかったのは確か
233 2020/7/10 『東京犯罪地図』 (原作:島田一男、監督:村山三男。矢島ひろ子、守田学、志村喬、菅原謙二、谷謙一、苅田とよみ、社長、高堂国典、松岡紀公子、斎藤紫香、見明凡太朗、船越英二、きんちゃん、伊東光一、高松英郎、守田学。1956、大映) 主人公が好きな女性(そして世話になっている人たち)に迷惑をかけないために黙秘を続けるという前半と、無実の罪をはらすために麻薬密輸密売団(かつて自分の親の子分だった人たち)に敢えて飛び込むという後半とに、あとで考えるとつながっているのに観ている最中は不思議とちぐはぐな感じを覚えた。物語の設計や人物の出し入れの設計と、私の鑑賞能力とになにか相性のよくないところがあったのかもしれない
234 2020/7/11 『この人 三波春夫・村田英雄ショー』 (山川静夫、三波春夫、村田英雄。1982、NHK) 藝能人かくあるべしと思わせられる、すかっと気持ちのよい歌謡ショー。三波春夫の『元禄名槍譜 俵星玄蕃』は最高
235 2020/7/13 『パグ・アクチュアリー ダメな私のワンダフル・ライフ』 (原題『Patrick』、監督:マンディ・フレッチャー。サム・フレッチャー、ビーティー・エドモンソン、ルパート・ホリデイ・エヴァンス、アン・クイーンベリー、シェリー・ランギ、ピーター・デイヴィソン、パトリシア・ポッター、ロジー・エド、ジェンマ・ジョーンズ、エド・スクライン、マイケル、エイドリアン・スカボロウ、ミーラ・シアル、エミリー・アタック、ジェニファー・サウンダース、トム・ベネット、ロイ・ハッド、エミリア・ジョーンズ、バーナード・クリビンス、ミランカ・ブルックス。2018、英Walt Disney Studios Motion Pictures) こぢんまりとした味わいが楽しく気持ちのよい、いわゆるハートフル・コメディであった。話としてはありきたりだが、ちゃんと心に届くありきたりだったと思う。多少の悪者は出てくるものの表面的には付き合いにくそうでもその付き合いにくさが結局それほどでもないが、その塩梅はよかったと思う。主人公の祖母がどういうつもりだったのかが、最後に少しでも描かれるとよりよかったかな
236 2020/7/13 『世紀の光』 (原題『แสงศตวรรษ(Sang sattawat)』(Syndromes and a Century)、監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン。ナンタラット・サワッディクン、ジャールチャイ・イアムアラーム、ヌー・ニムソムブーン、Sin Kaewpakpin、サクダー・ケーオブアディ、ソーポン・プーカノック、ジェーンジラー・ポンパット、Arkanae Cherkam、Putthithorn Kammak、Manasanant Porndispong、Wanna Wattanajinda。2006、泰Fortissimo Films) 説明がほぼなくとても難解な映画だったが、登場人物ひとりひとりの人物像がよく伝わってくるのと、映像や絵造りがとてもきれいなので、退屈せずにその難解さを楽しむことができる。何回も観て、難解と思ったところを少しずつ繙いていきたいと思わせられた
237 2020/7/14 『マルティナは海』 (原題『Son de Mar』、監督:ビガス・ルナ。カルラ・コジャド、死体、ジョルディ・モリャ、レオノール・ワトリング、ファン・ムニョス、セルヒオ・カバジェロ、母ネウス・アグジョ?、ペップ・コルテス、エドゥアルド・フェルナンデス、リッキー・コロメル、Ximo Vidal。2001、西Lolafilms Distribución) 『ハモン・ハモン』の監督の、『ハモン・ハモン』と同じく狂った愛欲の物語。今回は生ハムと羊と股間ではなく、ワニとマグロがモチーフ。『ハモン・ハモン』と比べると狂いの度合いは少なかったが、序盤で退屈なポルノグラフィーかなと思わせておいてだんだん変な要素がじわじわ増殖していくのは、この監督ならでは。かどうかはわからないが、面白くはあった
238 2020/7/15 『突然の訪問者』 (原題『The Visitors』、監督:エリア・カザン。ジェイムズ・ウッズ、パトリシア・ジョイス、パトリック・マクヴィ、チコ・マルティネス、スティーヴ・レイルスバック。1972、米United Artists) 名匠エリア・カザンの作品とは思えない、低予算少スタッフで撮られた作品(予算わずか$135,000。かつてハリウッドの赤狩りに協力した報いで、晩年ボイコットされている中での制作だという)。主な役者も5人だけ、ロケーションも一ヶ所だが、その限られた条件の中でベトナム戦争という当時の極限状態を生きた人間が日常に戻って来たことでどんな不幸をもたらすのかについてのひとつの考察(実際に当ってる部分もあるだろうとは思うが、よくは知らないので)を、冷酷な視線で見事に描いているなあと思った。ふたつの戦争を通じた世代間の溝とか、人種間、経済格差間の溝、そしてこれはベトナム戦争とは直接関係ないかもしれないが(昔に比べて広く深くなっていった)隣人との溝などを、容赦なく感じさせてくる。「突然の訪問者」は普通に考えれば悪人だが、「密告者」をはじめとする被害者の側も、決して手放しの善ではないという点も現実的と思う。しかしその一方で、まったく救いがないように見える映画で、誰が好んで観るのだろうかという疑問はあった(最後に一滴くらいは救いがあって、そこをどう見るかという観点もあるとは思うのだが)
239 2020/7/17 『血を吸うカメラ』 (原題『Peeping Tom』、監督:マイケル・パウエル。カール・ベーム、アンナ・マッシー、アンナ・マッシー、モイラ・シアラー、エズモンド・ナイト。1960、英Anglo-Amalgamated Film Distributors) マイケル・パウエルがイギリスで干された原因になった曰くつきの作品と聞くが、今観るとよいアイデアをきちんと育んで実作に昇華させた、よくできたサイコホラーと思うばかりだ。当時の人たちの気持ちになってみないと、その辺の感覚をつかむのはなかなか難しい。最後のフラッシュが次々に炊かれていくクライマックスなども見事だったが、同年公開のヒッチコック『サイコ』と比べると鮮やかな場面が少ない(外連味を持ち込んだ場面がほとんどない)点で、全体的に印象が薄かった。しかしその印象の薄さ故、観終わったあとから薄気味悪さがじわじわ襲ってくるような味わいを醸し出しているのかもしれない
240 2020/7/18 『華麗なる闘い』 (原作:有吉佐和子、監督:浅野正雄。内藤洋子、長岡輝子、岸恵子、岸輝子、田村正和、仙北谷和子、浜木綿子、市川和子、北あけみ、神山繁、平田昭彦、藤あきみ。1969、東宝) 原作を読んでみないとなんとも言えないが、大人にいいように利用されて放り出された主人公(内藤洋子)が「大人ってすごい」と呟いて去っていって、明日から喰えるのだろうかという素朴な疑問が残る。あと岸恵子扮するデザイナー/経営者の成長の背景が描かれないので、この役柄がどんな人物なのかがよくわからない点も残念(それでもなんとなく伝わってくるのは、岸恵子がもともと身に着けていたムードのようなものが効いているからとも思ったが、果たして)。田村正和の芝居が噴飯ものなのもあって、観ていて面白くはあったのに、なんだか底の浅い印象が残ってしまった
241 2020/7/18 『HOUSE』 (原案:大林千茱萸、監督:大林宣彦。池上季実子、大場久美子、檀ふみ、笹沢左保、鰐淵晴子、松原愛、神保美喜、佐藤美恵子、宮子昌代、田中エリ子、南田洋子、尾崎紀世彦、ゴダイゴ、小林亜星、三浦友和。1977、東宝) メジャー映画初監督でプロデュースも担当したというのに、ちょっとお金を持っている学生映画のようなにおいも濃くて、一切の気負いが感じられないのが、今観るとすごい(役名もことごとくふざけているし)。改めて、特異な人物だったのだなあと思う。役者がみんな楽しそうなのがよくて、そのためホラー映画としての怖さが減じられているという気もするが、怖さを感じさせるのは主眼でなかったんだろうと思わせられるほど、みな楽しそうなのは、私は好ましいと思う。改めて、(撮られた背景に関する話も含めて)後世に残るべき映画と思う
242 2020/7/20 『この国の空』 (原作:高井有一、監督:荒井晴彦。二階堂ふみ、工藤夕貴、長谷川博己、奥田瑛二、上田耕一、富田靖子、石橋蓮司、利重剛。2015、ファントム・フィルム) 一言で言えば第二次大戦下の非常時の道ならぬ愛の話で、描きようによっては陳腐なメロドラマにもなる話だが、愛欲の発露を抑えに抑えた描写でくすぶらせ続けてから一気に燃え上がらせるという撮り方でもって、なんとも言えない胸を締め付けられるような表現になっていたと思う。それなりにキャリアもある長谷川博己はともかく、まだ若い二階堂ふみの凄みに驚いた。母親の工藤夕貴と伯母の富田靖子の芝居も、そういう世界の緊張感を保つのに効いていたと思う。戦時下の生活を、めったやたらに悲惨なものと描かず、人の心が余裕や安らぎを常に求めているという視点で描かれているのもよかった
243 2020/7/21 『漫才長屋は大騒ぎ』 (原案:秋田実、監督:山崎憲成。ミヤコ蝶々、ミス・ワカサ、島ひろし、秋田Bスケ、秋田Aスケ、夢路いとし、喜味こいし、南都雄二、市川猿十郎、妻紀正次郎、大江将夫、中村幸之助、江並隆、上田節子。1956、東宝) 当時の関西の人気藝人がただ出演しているだけ、という印象。笑いもくどくつかみどころがなく、あまり笑えずに飽きてしまった。ミヤコ蝶々の存在感(肉体のスケール感も含めて)踊りなどの諸藝だけ見どころと思った
244 2020/7/21 『漫才長屋に春が来た』 (原案:秋田実、監督:山崎憲成。ミヤコ蝶々、松島トモ子、南都雄二、ミス・ワカサ、夢路いとし、島ひろし。1956、東宝) 配役は左記のほか『漫才長屋は大騒ぎ』で、登場順を明確に把握できなかったので割愛。『漫才長屋は大騒ぎ』と同じく関西の当時の人気藝人によるドタバタだが、松島トモ子が驚異的に達者でそれにミヤコ蝶々が刺激されたのか、母子もののよい人情喜劇になっていて、うっかり泣かされた。前作との出来映えの差に驚かされた
245 2020/7/22 『青春神話』 (原題『青少年哪吒』、監督:ツァイ・ミンリャン。リー・カンション、ミャオ・ティエン、ルー・シャオリン、チェン・チャオロン、レン・チャンピン、ワン・ユーウェン。1992、台中央電影公司) たとえば台所の床の排水溝から溢れ出てくる汚水がなにを象徴しているのか、兄の女と抜き差しならない仲になるが肝心のその兄が出てこないのはなぜか、タクシー運転手がミラーを割った犯人を乗せながら気付かないのはなぜかなど、簡単な答はすぐに見当がつくが、それ以上の深い意図に辿り着くのが難しい(というか辿り着けなかった)。しかしそれでも観続けていると胸に迫るような切羽詰まった感じが鋭く伝わってくる、そんな感触の映画だった
246 2020/7/24 『ラムの大通り』 (原作:ジャック・ペシュラル、原題『Boulevard du Rhum』、監督:ロベール・アンリコ。リノ・ヴァンチュラ、ビル・トラヴァース、ブリジット・バルドー、クライブ・レヴィル。1971、仏Gaumont) 再見。面白いし終幕では以前と同じく泣き笑いさせられるが、やはり冗長だなと感じる。映画の中の美女に恋をすると、実際にその美女に現実で遭遇する、というのは、たとえば『カイロの紫のバラ』の遠い先祖のような話ではあるので、映画と現実の垣根をうまく工夫して無駄を殺ぎ落とした今風のリメイクが観たいと思った
247 2020/7/25 『SEX発電』 (原題『Conviene far bene l'amore』、監督:フェスタ・カンパニーレ。ジジ・プロイエッティ、クイント・パルメッジアーニ、エレオノーラ・ジオルジ、モニカ・ストレベル、フランコ・アゴスティーニ、ジノ・ペルニス、アドリアーナ・アスティ、アルマンド・バンディーニ、クリスチアン・デ・シーカ、アゴスティーナ・ベッリ、マリオ・ピス、マリオ・スカッキア、マリオ・マランツァーナ。1975、伊Titanus) 素晴しいバカの極み。これは今撮れといっても無理だろうが、もし撮れたら製作陣も役者もとても楽しく作りそうな映画と思う。イタリアのこの手の映画は、実際にはそれほど劣情を催すことがなかったりするが、本作は底抜けに無意味なのに劣情だけはものすごく刺激される、その塩梅がほかにはない妙味であった
248 2020/7/29 『狼は天使の匂い』 (原題『La course du lièvre à travers les champs』、原作:デイヴィッド・グーディス、監督:ルネ・クレマン。ジャン・ルイ・トランティニャン、アンドレ・ローレンス、マイケル・マイヨ、ナディーヌ・ナボコフ、ダニエル・ブレトン、ジャン・ガヴァン、アルド・レイ、レア・マッサリ、ロバート・ライアン、ティサ・ファロー、ドン・アレス、ジャン・マリー・レミュー、マルティーヌ・フェリエール、マリオ・ヴェルドン。1973、仏CCFC) 職業的犯罪組織の非情な話ではあるが、それを構成するひとりひとりの人間に対する興味の持ち方が人間らしく描かれていて、その点で奇妙な可愛らしさが全体に横溢していると感じた。その塩梅が、揺れ動き方も含めて、とても魅力的冒頭ほか数カ所に(ときにはごく短く)挿し挟まれる子供達の挿話は、一瞬、登場人物たちに過去にそういう触れ合いがあったのかと思わせられるが、現在の姿を別の角度から見たら子供たちとやってることは本質的には変わらない、という意味合いと思う。その辺の混ぜ合わせ方もとても面白かった
249 2020/7/30 『けっこう仮面 ロワイヤル』 (原作:永井豪、監督:鈴木浩介。大堀こういち、北村ひとみ、くまだまさし、小澤マリア、ノッチ、森下能幸、範田紗々、寧々。2006、アートポート) 特に語ることなし。一箇所くらい面白い場面があった気がしたが忘れた。原作と関係のない、制作時に流行っていた(ほんとに流行っていたかは知らない)TVの藝人のギャグを入れるのは、仮によくできた映画になっていたとしても、マイナスにしかならないだろうということの再認識もした
250 2020/8/1 『オールドボーイ』 (原作:土屋ガロン/嶺岸信明、原題『Oldboy』監督:スパイク・リー。ジョシュ・ブローリン、リチャード・ポートノウ、ハンナ・ウェア、ランス・レディック、イルフェンシュ・ハデラ、ポム・クレメンティフ、マイケル・インペリオリ、サミュエル・L・ジャクソン、マックス・カセラ、ダグラス・M・グリフィン、ケリー・チャヒル、エルヴィー、エリザベス・オルセン、ジェームス・ランソン、シャルト・コプリー、リンダ・エモンド、リジー・デクルメント、グレイ・デイモン、ブレット・ラペイラウズ、ヴィクトリア・ゲイル、エリック・ガーソヴィッツ、スティーヴン・ハック、ケイトリン・デュラニー。2013、米FilmDistrict) スパイク・リーが撮ってこれ? と思ってしまったが、まあ面白いことは面白かった。しかしパク・チャヌク版と比べると怨みが浅いという印象。シャルト・コプリーの芝居や存在感は印象的だったし、ふたつの時間が並行する撮り方は面白かったが、しかしその撮り方はベルトラン・タヴェルニエでお馴染みではあるし、もう一度観ることはないかなと思った
251 2020/8/2 『阿部定 最後の七日間』 (監督:愛染恭子。麻美ゆま、菅田俊、鶴西大空、松田信行、飯島大介、佐々木麻由子、中谷千絵。2011、新東宝映画) 時代考証する気が微塵も感じられない杜撰な映画という第一印象だが、阿部定役の麻美ゆまが、芝居は下手だが男好きのする感じがよく表現できててよかった。あと飯島大介という役者だけ妙に達者だった
252 2020/8/3 『小さな恋のメロディ』 (原題『Melody』、監督:ワリス・フセイン。マーク・レスター、ジャック・ワイルド、シェイラ・スティーフェル、キース・バーロン、トレイシー・ハイド、ケイト・ウィリアムス、ヒルダ・バリー、ロイ・キニア、ジェームズ・コシンズ、ケン・ジョーンズ、ケイス・キナー、ドーン・ホープ。1971、英British Lion Film Corporation) 何度観ても一点の瑕疵もないと思ってしまうし、瑕疵があったとしてもそれも含めて完璧なデザインと思う。これはもはや、私には厳密な評はできない映画であろう
253 2020/8/7 『007 ドクター・ノオ(007は殺しの番号)』 (原題『Dr.No』、原作:イアン・フレミング、監督:テレンス・ヤング。めくら三人、ストラングウエイズ、アンソニー・ドーソン、ドロレス・トゥルーブラッド、ユーニス・ゲイソン、バーナード・リー、ショーン・コネリー、ピーター・バートン、ロイス・マックスウェル、ジョーンズ、ジャック・ロード、マーゲリット・ルウォーズ、ルイス・ブレーザー、ジョン・キッツミラー、パスフェラー、フリーランス、ベティーヌ・ル・ボー、ウルスラ・アンドレス、ミッシェル・モク、イヴォンヌ・シマ、ジョセフ・ワイズマン。1962、英United Artists) 英国での封切り時の評はさんざんだったらしいが(英国では興行的には成功だったものの、日本ではベスト10にも入らなかったらしい)、今となってはスパイ映画のスタンダードになっているのは改めてすごいなと思う。とはいえ、封切り時の評のひとつ「サスペンスなのかサスペンスのパロディなのか、最後まではっきりしない」も、なるほどなと思わないでもない
254 2020/8/8 『殺し』 (原題『La Commare Secca』、原案:ピエル・パオロ・パゾリーニ、監督:ベルナルド・ベルトルッチ。ワンダ・ロッキ、フランチェスコ・ルイウ、ヴィンセンツォ・チッコラ、ジアンカルロ・デ・ローザ、アルフレード・レッジ、マリーザ・ソリナス、ガブリエラ・ジオルゲッリ、サンティーナ・リシオ、アダ・ペラゴスティーニ、クロリンダ・セラーニ、アレン・ミジェット、レナート・トロイアーニ、ロマーノ・ラバーテ、アルヴァロ・デルコーレ、シルヴィオ・ローレンツィ、ロレンツァ・ベネデッティ、エミー・ロッチ、エリナ・トレッリ。1962、伊Cineriz) 中年娼婦殺しという事件を軸に、うらぶれた最低の男たちとその周囲の女たちの様々な生活を交差させた、と一言で言ってしまえばそれまでだが、その交差のさせ方が本作の妙と思う(下手人は誰か真相を突き止めていく点もスリリングだが、それよりも)。構成上の大きな仕掛けは被害者が出かける前の下着姿と驟雨ということになるか。前半に出てくる少年やヒモはそれほど真相に関わっておらず、中盤以降の登場人物が次第に濃い関連を見せるという構成も面白い。終盤に出てくる男はクレジットでも明らかに「Homsexual」とされているが、序盤の坊主三人組は謎。パゾリーニの原案ということもあり、三人組に関わったあとの少年の泣きっ面もあり、想像をかき立てられる
255 2020/8/11 『俺たちは天使じゃない』 (原題『We're No Angels』、原作:サム&ベラ・スペワック/アルベール・ユッソン、監督:ニール・ジョーダン。ロバート・デ・ニーロ、ショーン・ペン、ジェームズ・ルッソ、レイ・マカナリー、エリザベス・ローレンス、フランク・C・ターナー、デミ・ムーア、ホイト・アクストン、シルヴェイン・デマーズ、ウォーレス・ショーン、ジェシカ・ジッケルス。1989、米Paramount Pictures) 喜劇だとは思うのだが、パーっと笑えるところはほとんどない。笑っていいのかな? と思いつつデ・ニーロの表情を窺ってああ笑っていいのか、と判じながら観進めていく感じ。妙味と言えば妙味だが、楽しいかと言えばさてどうだろうか
256 2020/8/12 『スリーピング・ビューティー 禁断の悦び』 (原題『Sleeping Beauty』、監督:ジュリア・リー。ジェイミー・ティモニー、エミリー・ブラウニング、サラ・スヌーク、ロビン・ゴールドウォーシー、ユアン・レスリー、エデン・フォーク、レイチェル・ブレイク、ミラー・フォークス、ヘンリー・ニクソン。2011、豪Paramount Pictures) 苦学生がお金に困っていろいろなアルバイトに精を出すという話からなにやら怪しげな仕事に着く、という次第だが、だからなんだったのだろうとしか思わなかった。眠るということがひとつの主題なのだろうなとは思ったが、そこから先がわからないし、またわからせようとする工夫などもなかったように思う。観客は何を観ればよかったのだろうか
257 2020/8/12 『金田一耕助の冒険』 (原作:横溝正史『瞳の中の女』、監督;大林宣彦。古谷一行、檀ふみ、田中邦衛、宇佐美恵子、岸田森、重松収、熊谷美由紀、江木俊夫、峰岸徹、三船敏郎、観三橋達也、高木彬光、志穂美悦子、斉藤とも子、樹木希林、東千代之介、小川亜佐美、坂上二郎、草野大悟、吉田日出子、赤座美代子、夏木勲、佐藤蛾次郎、仲谷昇、伊豆肇、大泉滉、山本麟一、角川春樹、千うらら、南州太郎、岡田茉莉子、横溝正史。1979、東映) 私はまあまあ当時のあれこれを多少は覚えていたので、一応パロディ映画なんだなとはわかったが、確かに今となってはパロディとして成立しておらず、また公開当時すでにそうだったのだろうというのもうなずける。また喜劇としてもそんなに笑える箇所は多くないし、さらに言えば今の感覚で観るとただただダサいのだが、しかしそれでいてなんとも言えない魅力を感じるのが不思議だしさすがだ
258 2020/8/14 『パラサイト』 (原題『The Faculty』、原案:デイヴィッド・ウェッチャー/ブルース・キンメル、監督:ロバート・ロドリゲス。ロバート・パトリック、ショーン・ヘイトシー、ジョシュ・ハートネット、イライジャ・ウッド、ローラ・ハリス、ジューダナ・ブリュースター、クレア・デュヴァル、バイパー・ローリー、ファムケ・ヤンセン、ベベ・ニューワース、サルマ・ハエック、ジョン・スチュワート。1998、米Miramax) 中盤までロバート・ロドリゲスにしては地味だなと思ったが、やはり終盤変な生物と子供たちが戦う場面とそこからの解決の適当な感じは最高だった。学校でのいじめの問題も採り上げながら、最後に救いがあるのもよかったな
259 2020/8/14 『ヘソクリと泥棒』 (脚本:池端俊策、監督:小西康雄。植木等、倍賞千恵子、菅井きん。1981、TBS)
260 2020/8/14 『馬逃げた!』 (脚本:池端俊策、監督:小西康雄。フランキー堺、加藤治子、風吹ジュン、森川正太。1979、TBS) どちらも北海道放送(HBC)の制作で、北海道が舞台。移ろいゆく地方の町での暮らしが変わっていき歪みを帯びる中での人間模様を、シンプルにかつ深く描いた佳作と思った。役者に藝があるからこそ、小細工を弄せずに人と人との関わりをしみじみ表すことができるのだなあというのが素直な感想
261 2020/8/17 『恋人よ、われに帰れ』 (監督:大林宣彦。沢田研二、トロイ・ドナヒュー、桜井センリ、大竹しのぶ、泉谷しげる、財津一郎、小川真由美、待田京介、風吹ジュン。1983、CX) 大林宣彦にしては、その個性も感じられず完成度もあまり高くなかった印象。戦後すぐという時代の埃っぽさや汗臭さがほとんど感じられなかったのがその主な要因(と言って、私がそれらを知っているわけではないのだが、そんなことじゃないだろう、とまず思ってしまうような絵造りだった)。沢田研二も芝居に身が入っていない印象だったのだが、ぱっと見で全体的に評価が低くなってしまったのは不思議だ。先述の絵造りと役者の芝居以外に、なにかもっと深い要因があるのだろうか
262 2020/8/18 『小悪魔はなぜモテる?!』 (原題『Easy A』、監督:ウィル・グラック。エマ・ストーン、アリソン・ミシェルカ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、アマンダ・バインズ、キャム・ギガンデット、マルコム・マクダウェル、ペン・バッジリー、マハリー・ヘッサム、ジュリエット・ゴリア、スタンリー・トゥッチ、パトリシア・クラークソン、ブライス・クライド・ジェンキンズ、ジェイク・サンドヴィグ、ダン・バード、ジョアンナ・ブラッディ、ジェイムソン・ボス、リサ・クドロー、ボニー・バーローズ、ステイシー・トラヴィス、フレッド・アーミセン。2010、米Screen Gems) ノリの軽いバカな学園ものと思いきや、ホーソン『緋文字』を下敷きに、噂が広まる速度や恐ろしさを笑いにくるんで描いた、見応えのある傑作だった。日本未公開というのがウソと思えるほど。主人公オリーヴ(エマ・ストーン)の小さなウソがきっかえとはいえ、周囲の反応や対応が酷すぎるという人間の怖さも、笑いを通じてよく伝わってきた(ゲイの少年の苦痛の描き方もいい塩梅だったと思う)。ほんとに軽くだがこの世には救いがないという描写もあって、しかしその直後にエマ・ストーンが『Knock On Wood』(この編曲がまた素晴らしい)に乗って踊って自分から事態を打開して解決に導くのには感動を覚えた。エマ・ストーンの両親(スタンリー・トゥッチ、パトリシア・クラークソン)の人のよさとか、親友リー(アリソン・ミシェルカ。派手な高校生に見えて意外に子供っぽく素直で可愛らしい役をよく演じていた)始め心の綺麗な級友たちの描き方も心に残った。80年代の映画などの引用(2007年のロブ・ライナー監督『最高の人生の見つけ方』も引用されていた)がわかればもっと楽しかっただろうと思う。エマ・ストーンがもともと地味な女子高生という設定がそうは見えなかったが、それは日本人が観るからかもしれない
263 2020/8/22 『ラララ・ランドリー 』 (監督:鈴木研一郎。田中美里、内田和也、阿部久美子、駒木根隆介。2013、ndjc2012事務局) 30分の短編にしては無駄が多くて、そのためか主人公の育った郊外(あるいは田舎)がどういう土地なのかの説明がなかったり、いわゆるセンスではなく頭で考えて解決できそうなところが見受けられた。終盤のミュージカルシーンは、題名と相まってではあるが、面白い効果だったと思う
264 2020/8/24 『荒野の処刑』 (原題『I QUATTRO DELL'APOCALISS』、監督:ルチオ・フルチ。ファビオ・テスチ、ドナルド・オブライエン、リン・フレデリック、ハリー・ベアード、マイケル・J・ポラード、トマス・ミラン、アドルフ・ラストレッティ、ジョルジオ・トレスティーニ、ブルーノ・コラッツァリ、チャールズ・ボロメル。1975、伊Cineriz) B級マカロニウエスタンと思って観ていたら、音楽がニュー・ロックみたいな所為アメリカン・ニュー・シネマのにおいもして、途中で出てくる悪漢がめちゃくちゃヤバイ奴だという正体を表すところのスピード感がものすごく、続く女主人公(リン・フレデリック)の出産場面でがらりと世界が変わり(ファビオ・テスチの存在感がいきなり希薄になる)、出産で立ち寄った町の男たちがいい奴ばかりで、生まれたばかりの息子を預け、そして復讐はあっさり成し遂げられる。冒頭の保安官の存在もあっという間に忘れられるし、話ががちゃがちゃしているのだが、不思議としっとりまとまっている。妙な映画であった
265 2020/8/24 『ゲット・アウト』 (原題『Get Out』、監督:ジョーダン・ピール。レイキース・スタンフィールド、ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、リル・レル・ハウリー、マーカス・ヘンダーソン、ブラッドリー・ホイットフォード、キャサリン・キーナー、ベティ・ガブリエル、カリブ・ランドリー・ジョーンズ、スティーヴン・ルート、リチャード・ヘルド、エリカ・アレクサンダー。2017、米Universal Pictures) 人種差別、というか、黒人差別とういものの本質を遠慮なく描いた映画と思った(もちろん私は当事者ではないので、正確さをどこまで評価してよいのかはわからない)。話の作り方(もちろん映画としての、という部分も含む)もとてもうまくていやーな気分にさせられたが、しかしアーミテージ家がアフロアメリカンになぜああいう感情を抱いたかについては(一応説明はあるものの)もっと粘っこくすべての親戚にそういう感情が伝播していった過程をほんの少しでも描いて欲しかったかな。それがあれば、その狂気が個人の感情ではないという点が味わえて、もっと怖い映画になったのではないかと思う
266 2020/8/25 『建築学概論』 (原題『건축학개론』(Architecture 101)。監督:イ・ヨンジュ。ハン・ガイン、オム・テウン、コ・ジュンヒ、キム・ウィソン、スジ、イ・ジェフン、ヨー・エンセク、チョ・ジョンソク、キム・ドンジュ、リー・サンホウ。2012、韓Lotte Entertainment) なんとも瑞々しい恋愛映画。過去も現在も恋が成就しないのが切なくてよい。ダサさの描き方が、可愛らしくも残酷な点も感心した。主人公ふたりの、学校を出てから“現在”に至る間の来し方に踏み込まなかったのが吉なのか凶なのかは、一度観ただけでは判断できなかった
267 2020/8/26 『ビューティー・インサイド』 (原題『뷰티 인사이드』(The Beauty Inside)、監督;ペク。キム・ウジン役(順不同)=パク・ソジュン、キム・デミョン、ト・ジハン、ペ・ソンウ、パク・シネ、イ・ボムス、キム・サンホ、チョン・ウヒ、イ・ジェジュン、ホン・ダミ、チョ・ダラン、イ・ジヌク、キム・ミンジェ、ソ・ガンジュン、キム・ヒウォン、イ・ドンウク、コ・アソン、イ・ヒョヌ、キム・ジュヒョク、ユ・ヨンソク、上野樹里、イ・スンチャン、グォン・キハ。イ・ドンフィ、31スク、ハン・ヒョジュ、リー・ミド、リー・キョンヨン。2015、韓、Next Entertainment World) 日に日に見た目が変わる主人公と、家具と音楽というモチーフによって、人の本質と表面という主題が鮮やかに描かれていると思った。人の本質について、敢えて難しい描き方を選んだ点(表面が変わらないほうが描きやすいという点で)も好感を覚えた。そして切なさの描き方が巧み、というのを超えて、ものすごくよく練られているという点も印象に残る。音楽で言えば『アマポーラ』というよく知られた曲の用い方も効果的。エンドロールが視力検査のようなのも(これは考え過ぎかもしれないが)主人公の視力の変化について触れられていることを考えると洒落ていたと思う
268 2020/8/27 『あなた、そこにいてくれますか』 (原題『당신, 거기 있어줄래요』(Will You Be There?)、原作;ギヨーム・ミュッソ『時空を超えて』、監督:ホン・ジヨン。キム・ユンソク、ビョン・ヨハン、チェ・ソジン、キム・サンホ、アン・セハ、パク・ヘス。2016、韓Lotte Entertainment) 原作を読んではいないが、『時空を超えて』だからといって過去と未来を変えまくるのはどうかと思う。しかしそれがまったく気にならず、過去と未来の細かい部分が変わることが積み重なって感動を生んでいくのが面白い。役者たちが、ああ人間だなあ、と思わせてくれる芝居なのもよかった
269 2020/8/28 『憎いあンちくしょう』 (監督:蔵原惟繕。石原裕次郎、草薙幸二郎、浅丘ルリ子、菅原通済、長門裕之、芦川いづみ、高品格、川地民夫、小池朝雄。1962、日活) 改めて見ると、当時の日活は裕次郎人気にかまけて次なるスターを育てなかったんだなあと思う。もちろんそういう努力をしていたのは知っているが、結果として。あと裕次郎と浅丘ルリ子の役者としての力量の差とかが、裕次郎の存在感よりも先に目に入ってくるのは、やはり今観る面白さと思った。メディアの売れっ子が真実の愛に感化される心の動きをもう少し料理し直した、今のちゃんとできる役者によるリメイクは見てみたい
270 2020/8/29 『JSA』 (原題『共同警備区域/JSA』監督:パク・チャヌク。イ・ヨンエ、ヘルベルト・ウルリッヒ、クリストファー・ホフリヒター、キム・テウ、キ・ジュボン、イ・ビョンホン、ソン・ガンホ、コ・ウナ、シン・ハギュン、キム・ミョンス。2000、韓CJ Entertainment) 南北分断という政治状況は政治状況として、その中で南北の個人同士のつながりを温かい目で描いている点には好感が持てる(たとえ現実とは違う御伽話だとしても)。それでも結局状況に殺される、とも取れるし、状況よりも個人同士のつながりから死を選んだ、とも取れる。私としては後者と思う。終幕の、偶然四人が写り込んだ写真を見せるという手法には泣いた
271 2020/9/5 『青春残酷物語』 (監督:大島渚。桑野みゆき、森島亜樹、山茶花究、川津祐介、田中晋二、久我美子、氏家慎子、林洋介、松崎慎二郎、佐藤慶、浜村純、二本柳寛、渡辺文雄、佐野浅夫、城所英夫。1960、松竹) 公開当時観ていたらむろんまったく異なる印象だったとは思う。しかし60年経った現在観ると、今に通じる何かがあるようには思えなかったが、果たして。何かどろどろと溢れ出るようなものよりも、作者の理が勝っているように思えてしまうからかもしれない
272 2020/9/6 『炎と掟』 (監督:井上梅次。川辺健三、菅原文太、河野秋武、高宮敬二、菅原謙二、諸角啓二郎、中村晃子、明智十三郎、江夏志郎、安藤昇、柳沢真一、月丘千秋、高千穂ひづる、安部徹、春日章良、国分秋恵、巽千太郎。1966、松竹) 安藤昇の掟シリーズでいうと、全五作中(2000年の『安東組外伝 掟』は除いた)の最終作になるのかな。やくざ同士三つ巴の裏切り合戦に、幼い男女の崖の上と下の可愛らしい恋の顛末が絡み、さらに恋の鞘当が複雑に絡み合うという話の組み立て方は面白かった。冒頭で安藤昇登場してから乱闘が始まるまでのスピード感もよかったな。あと菅原文太が裏切り者という設定には意表を突かれ、新鮮に感じた(やくざ役をやるようになった初期くらいだろうか)
273 2020/9/7 『乾杯! 東京娘』 (原作:中野実。監督:木村恵吾。菅井一郎、山田禅二、若原初子、宮城野由美子、ジョー・オハラ、花布辰男、三田隆、浦辺粂子、香川京子、潮万太郎、宮田輝、細川啓二。1952、大映) 宮城野由美子、香川京子、三田隆の主人公三人が魅力的なのと、宮城野由美子が振られるくだりのスピード感はよかったが、全体的にはどうということのない小品。今となっては得るものも少ないが、しかし終盤にちょい役で出てくる男のダンスのうまさとか、宮城野由美子と香川京子が同じ歌を歌う構成とか、宮城野由美子が質屋を切り盛りしつつ女医として医院を運営し診察もしつつラジオの歌手でもあるというくだりの溌剌とした感じは捨て難い。折に触れて観たくなるような気もする
274 2020/9/8 『乾いた湖』 (原作:榛葉英治、監督:篠田正浩。三上真一郎、炎加世子、九条映子、竹田公彦、山下洵一郎、富永ユキ、岩下志麻、国景子、沢村貞子、鳳八千代、伊藤雄之助、高千穂ひづる、寺山修司、田中晋二、小坂一也、清宮貴夫、高野真二、水島弘、春山勉。1960、松竹) これまた『青春残酷物語』と同じく、公開当時(あるいはこちらがもっと若い頃)に観ていたら違う印象だっただろうが、今となっては得るものはない、というのが率直な感想。しかし比べてみると、それなりに才気はあるもののそれが故もあって時代にも、自分が馬鹿にしている層を同じく馬鹿にしているハイソサエティにも、自分が理想とする人物像にも、そのどれにも馴染めない若者の苦悩と行末を残酷に描いている点は、単にその当時の風俗の引き写しに留まってはいないなとは思った(とはいえ、それぞれの層の若者の描き方は表面的に過ぎる部分も多々あるような気もする)。脚色に寺山修司(ちょい役で出演)。音楽は武満徹のジャズで、これはよかった
275 2020/9/9 『夢二』 (監督:鈴木清順。沢田研二、原田芳雄、余貴美子、芹明香、宮崎萬純、牧口元美、大楠道代、毬谷友子、長谷川和彦、麿赤児、広田玲央名、坂東玉三郎、宮城千賀子。1991、ムービーギャング) 大賞浪漫三部作の中で、自分の順位としては三番めだったのだが、それはおそらくとんとんと続けて観た前二作の印象があまりに鮮やかだった所為で、改めて観るとこれはこれで前二作と同等の狂気と洒落と映画の快楽に満ち溢れている。とはいえ、前二作で得た表現手法を継承しているという点では、観方によっては焼き直しとも取れるし、何か強烈な新機軸が欲しかったかなとも思う。それにしても、宮崎萬純、毬谷友子、広田玲央名というヒロイン三人の脇に大楠道代を配するというのは、これぞ掛け値なしの豪華絢爛というものだと思う
276 2020/9/9 『ねらわれた学園』 (原作:眉村卓、監督:大林宣彦。高柳良一、薬師丸ひろ子、三浦浩一、眉村卓、岡田裕介、大石悟郎、明日香和泉、手塚真、赤座美代子、長谷川真由美、千石規子、鈴木ヒロミツ、ハナ肇、峰岸徹、山本耕一、ジミー原田&オールドボーイズオールスターズ、長谷川真砂美、久里千春。1981、東宝) 『金田一耕助の冒険』に満ち溢れていたダサくて可愛らしい味わいが継承されていて、今観るとちっともありがたくない点に笑う。それなのになにか納得させられるものがあって、やはり大作家と呼ぶしかない存在なのだなと思った。この頃の作品に比べると、名取裕子の幽霊シーンに大笑いさせられる『異人たちとの夏』(1988年)などずいぶん洗練されたと思うが、そういう映画的な洗練をどうやって獲得して行ったのかには興味がある
277 2020/9/10 『絵の中の少女』 (監督:大林宣彦。中島忠彦、羽生恭子、大林宣彦。1958。大林プロ) 大林宣彦二十歳の砌の作品。技術的なことはさておき、ひとつの作品としての完成の仕方に驚くばかり。大林本人やのちの夫人の羽生恭子のスクリーンの中での存在感にも驚いた
278 2020/9/10 『炎の肖像』 (監督:藤田敏八/加藤彰。沢田研二、内田栄一、大門正明、中山麻理、井上堯之バンド、地井武男、悠木千帆、佐野周二、秋吉久美子、原田美枝子、朝丘雪路、内田裕也。1974、日活) 沢田研二&井上堯之バンドのライブ記録(ヘイ! ジュリー ロックンロール・サーカス)だけの映画したほうがよかったな。リハーサルの場面などがほんの少し出てくるが、とても興味深い。不良とスターの間で悩む若きロッカーの奔放な行動の記録(主に藤田敏八が撮ったものかもしれないが)の魅力や見どころは、よくわからなかった(中山麻理や秋吉久美子や原田美枝子の魅力も活かされていなかったように思う)。沢田研二が全編関西弁で芝居しているところやゲリラ撮影風のところが、面白いと言えばまあ面白いか
279 2020/9/11 『道』 (原案:トゥリオ・ピネリ、監督:フェデリコ・フェリーニ。ジュリエッタ・マシーナ、アンソニー・クイン、リチャード・ベイスハート。1954、伊Paramount Films of Italy) 前半、やはりジュリエッタ・マシーナのジェルソミーナの芝居の素晴らしさと透明な聖性がとても印象的で、遠い昔に観た記憶はほぼすべてそれに塗り込められてしまっていたが、改めて観ると、惰性で生きながらえたようなザンパノ(アンソニー・クイン)がその惰性から初めて抜け出せて、しかし初めて抜け出せたそのきっかけがジェルソミーナを(自分の生き方の)惰性で捨ててのち彼女の死を思いがけず知ったこと、というのが、人生の深さを嫌というほど味わわせてくれるということに気づく。海岸でうずくまり泣きじゃくるアンソニー・クインの背中に心打たれた。未来永劫残る名作であることを改めて確認
280 2020/9/12 『もどり川』 (原作:連城三紀彦『戻り川心中』、監督:神代辰巳。柴俊夫、萩原健一、池波志乃、藤真利子、樋口可南子、米倉斉加年、蜷川有紀、加賀まりこ、原田美枝子。1983、東宝東和) 萩原健一扮する苑田岳葉の狂気がハリボテに見えるという演出は残酷ながら面白いと思ったが、せっかくの原田美枝子の終盤の狂気はおそらく本物に見えたほうがいいだろうに、藤真利子や樋口可南子と同じような印象で撮られているように見えてしまい、なんだか興を削がれてしまって入り込めなかった。女優の中では蜷川有紀だけ異彩を放っていたが、とはいえ芝居に感心したわけではないし、全体的にTVで観ているとどの役者もの台詞もはっきりとは聞こえない。冒頭に新聞総覧所が出てきたり、あるいは関東大震災の描写や震災直後の自警団の様子などもあり、風俗資料として残しておきたい気もしたが、二度は観ないだろうなと思い消去
281 2020/9/13 『虹をわたって』 (監督:前田陽一。天地真理、三井弘次、谷村昌彦、大前均、武智豊子、立原博、なべおさみ、岸部シロー、山本幸栄、左時枝、財津一郎、有島一郎、日色ともゑ、萩原健一、林由里、大久保敏男、沢田研二。1972、松竹) 映画はまあ筋立てといい脚本といい演出といい、どうということもないアイドル映画だし、役者の出し入れも演出よりも人気タレントのスケジュールの都合という印象だったが、当時の横浜元町(石川町駅)周辺の貧民の暮らし(水上生活者のダルマ船や船の休憩室など)が活写されたような画面はよかった。天地真理は角度や撮り方によってずいぶん顔の印象が変わるのだなというのは私としては新たな発見
282 2020/9/15 『お嬢さま捕物帖 恋の捕縄』 (監督:倉谷勇。坊屋三郎、如月寛多、梓真弓、トニー谷、梅香ふみ子、市川男女之助、春日秀夫、加賀裕子、山茶花究、益田喜頓、初音麗子、大津ひろみ、尾上さくら。1952、東宝) 背景に二件のお産を塩梅したなんともすっとぼけた捕物帖だが、しかしディテクティブ・ストーリーとしてしっかりした構成で作られていて、なかなかの佳作と思う。笑いが爆発することはないが、益田喜頓の笛のギャグなどは地味に秀逸。あと主人公の尾上さくらがなんとも言えない魅力(殺陣のたおやかな感じが迫力がなくてまたよい)。坊主に誘惑される女中のお菊もなかなかの色気だが、こちらは残念ながら役者名がわからず
283 2020/9/15 『チョットだけョ 全員集合!!』 (監督:渡辺祐介。いかりや長介、仲本工事、高木ブー、小鹿ミキ、都家かつ江、加藤茶、尾美利徳、荒井注、左とん平、武智豊子、天地真理、寺尾聰、益田喜頓、桂伸治、獅子てんや・わんや、玉川良一、桑原幸子。1973、松竹) とにかくドリフターズの面々のキレがよい。数々のギャグはほとんどがそれほど面白くはないのだが(高木ブーが人手不足で看護婦をやらされている、などはくすっとしたが)、勢いのよさでなんだか笑わされてしまう。それだけの映画と言えばそれだけの映画だが、一時間半飽きずに観られるのはさすが。小鹿ミキの思い切ったような芝居も楽しかった
284 2020/9/16 『舞妓はんだよ 全員集合!!』 (監督:渡辺祐介。松田春翠、西岡慶子、佐々木梨里、光映子、荒井注、高木ブー、仲本工事、加藤茶、早瀬久美、いかりや長介、園佳也子、大信田礼子、芦屋雁之助、吉沢京子、西川きよし、なべおさみ、藤尾純、天地真理、石山健二郎、光本幸子、岡八郎、伴淳三郎。1972、松竹) 感想としては、『チョットだけョ 全員集合!!』と同じで、大笑いさせられる瞬間は少ないが、ものすごくキレがよいので飽きずに観てられる。あと『チョットだけョ』でも思ったが、脚本のちょっとした台詞の身も蓋もない感じもよい。この映画のヒロインは吉沢京だが、脇の大信田礼子のほうが(冒頭と終盤にしか出てこないのに)光ってたかな。光本幸子のきりっとした芸妓振りも見事だった
285 2020/9/17 『ろくでなし』 (監督:吉田喜重。高千穂ひづる、川津祐介、森下、藤枝、北島淳、三島雅夫、安井昌二、千之赫子、渡辺文雄、佐々木功、佐藤慶。1960、松竹) 本作もそうだが、松竹ヌーベルバーグの諸作品に胸打たれないのは、貧困や疎外などなどの人間の諸問題が描かれても、あまりひりひりした感じが自分には伝わってこないからだなあと改めて思った。あと作り手が受け手を楽しませることをあまり考えていないように思える点か。実際どうなんだろうか。高千穂ひづるがいたずらでシャンソン歌手と紹介され、歌わされて恥をかかされそうになるところはハラハラして面白かったな
286 2020/9/17 『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』 (監督:大林宣彦。石崎仁一、田端エミ、大林千茱萸、赤坂サリ、町田圭子、高橋一郎、岡美行、喜多村寿信、森みすず。1967、大林宣彦) いわゆる実験映画だし、またいつの間にか映画を撮ることを撮っているメタ映画であるのだが、人を楽しませようという姿勢が随所に感じられ、娯楽映画としての楽しさも湛えている。ドラキュラをモチーフとした深さがちょいと足りない感じも覚えるが、驚くべき初期作品であることは間違いない
287 2020/9/21 『トンチンカン捕物帳 まぼろしの女』 (原作:城昌幸、監督:斎藤寅次郎。佐伯秀男、一邦一公、如月寛多、立花満枝、沢村契恵子、杉山昌三九、榎本健一、市川小文治、花菱アチャコ、谷晃、城正彦、沢村契恵子、堺駿二、清川虹子、打田典子、川田晴久、伴淳三郎、若柳敏三郎。1952、東宝) エノケン映画としてはさすが名匠斎藤寅次郎だけに(かどうかは私にはわからぬが)、探偵喜劇として申し分ない作品と思った。しかしよくできている分、エノケンの無意味で軽い可笑しさが少なかったかなとも思う。とはいえ火の見櫓の上から繰り返し放り投げられる場面などは馬鹿馬鹿しくて力が抜けてて可笑しかったか
288 2020/9/23 『恋人ゲーム』 (原題『No Small Affair』原作:チャールズ・ボルト、監督:ジェリー・シャッツバーグ。ジョン・クライヤー、デミ・ムーア、スコット・ジェトラン、アン・ウェッジワース、ジェフリー・タンバー、ジェニファー・ティリー、ティム・ロビンス、ジョー・ルラー、ピーター・フレチェット、エリザベス・デイリー、ジョージ・ウェント、ジュディス・ボールドウィン。1984、米Columbia Pictures) デミ・ムーア扮するロック歌手が歌う歌が80年代らしくダサいのを除けば(いやそれもよい味わいだが)、主人公を取り巻くいろいろな困難もいい塩梅に浅くて安心してワクワクできるよい青春ラブストーリーだった。主人公の少年が利口な感じがまたいいし、デミ・ムーアが可愛らしいのに董が立っている感じとか、脇役の眼鏡美少女(声がすごくいい)が最後に幸せを射止めるところとか、胸がキュンとする要素がたくさん。隠れた(隠れてないかもしれないが)佳作と思った。終盤の『My Funny Valentine』の編曲と歌唱(あとわかりやすい字幕も)は記憶に残る
289 2020/9/24 『唐手三四郎』 (原作:石野径一郎、監督:並木鏡太郎。藤田進、岡田英次、川喜多小六、香川京子、大谷伶子、坪内美子、浜田百合子、清水将夫、尾上桃華、月形龍之介。1951、新東宝) 岡田英次の颯爽とした学生役がよくって、物語も善が悪に勝つ単純ながら気持ちのよい話、と思いきや、人間関係の説明は明確なものの物語の中の強弱が曖昧で、たとえば岡田英次と彼を巡る三人の女(下宿の娘=大谷伶子、沖縄舞踊の女=浜田百合子、婦人警官=香川京子)のうち岡田は誰に一番惹かれているか、川喜多小六は大谷伶子を好きなようだがその恋は物語の中で成就したのか、岡田英次に敗れた弁嶽=月形龍之介は再び大里=藤田進から逃げて今後どうなるのかなどなど、すっきりしない点がいくつかあった。そういえば岡田英次がいつの間に三角飛びを盗みマスターしたのかも。もしからしたらフィルムが何巻か失われているのかもしれない
290 2020/9/25 『喰べた人』 (監督:大林宣彦/藤野一友。秦和夫、松下砂稚子、平田穂生、岸田森、(以下順不同)草野大悟、肝付隆也、高橋あや子、荒木田麻耶、寺澤正、藤野一友、石崎仁一、岡美行。1963年) これも大林宣彦実験映画時代といえばその時代の作品で、確かに発想するままに撮ったシュールレアリズム的な映画であった。そこはかとないユーモアも感じさせるものの、『EMOTION〜』と比べると観る側のことよりも自分が撮りたいままに撮るほうに重きを置かれた感じはした。主題も、こうでないかというところを無理やり推測することはできるが、それにあまり意味を感じない作品ではある。ただただ、人間が喰べる、ということについて今まで思ってもいなかったいろんな方向に思いを馳せる、という感じだろうか
291 2020/9/28 『よく知りもしないくせに』 (原題『잘 알지도 못하면서』(Like You Know It All)、監督:ホン・サンス。キム・テウ、オム・ジウォン、マイケル・ロジャース、ソ・ヨンファ、ウン・ジュヒー、コ・ヒョンジョン、チョン・ユミ、ユ・ジュンサン、コ・チャンギョン、31チャンギル、コ・ヒョンジョン、ハ・ジョンウ。2009、韓Sponge Entertainment) きちんと仕事をしている人のようでいて、優柔不断で無責任な一面もある映画監督の突如ブレたりする人間像を、キム・テウがよく表現していると思った。実際無責任な行動を取るしそれも面白いのだが、実際の行為以上に責められたりするのも面白い。その上でどこにポイントがあるのかわからない、抑揚があるのかないのかわからない話が繰り広げられるのだが、救いがないようでいて救いがあるような、とても不思議な味わいだった。エリック・ロメールに比されるのがわかるような、わからないような。おそらく何度も観て咀嚼していくタイプの映画なのだろうなと思う
292 2020/9/28 『ハハハ』 (原題『하하하』(Ha Ha Ha)、監督:ホン・サンス。キム・サンギョン、ユ・ジュンサン、ユン・ユジョン、キム・ガンウ、キム・ギュリ、キ・ジュボン、31ソリ、イェ・ジウォン、キム・ヨンホ。2010、韓Sponge Entertainment) エリック・ロメールと言われればそんな風にも思えるし、しかし人間関係の組み立て方は後藤明生っぽくもある。赤い帽子、主人公の母親、アパートの一室、主人公の母親が可愛がっている女性など複数の“中心”の周囲で“僕”と“先輩”が小さな町で近づきつつも出会わない、その下手くそな玉突きのような話の組み立て方は私にはたまらない。韓国の人たちのそのままを捉えたような可愛らしさも好ましかった(しかしそれを撮る監督の視線は、かなり冷静で批評的なのだと思う)
293 2020/9/29 『教授とわたし、そして映画』 (原題『희의 영화』(Oki's Movie)、監督:ホン・サンス。イ・ソンギュン、ムン・ソングン、チョン・ユミ。2010、韓Sponge Entertainment) 三角関係を撮った映画なのだが、“現在”(?)であるところの第一章では、教授は自分の過去の恋愛がジングを交えた三角関係であることを知っている、ということになるはずなので(第四章の最後で判明する)、それを踏まえて最初から観ないとなんとも言えない。味わいとしては『よく知りもしないくせに』『ハハハ』の流れと思うが、よりわかりにくい撮り方をしたのかな。それにしても「できない約束はしないで!」というのはこの監督のキーワードか
294 2020/9/30 『次の朝は他人』 (原題『북촌방향』(The Day He Arrives)、監督:ホン・サンス。ユ・ジュンサン、コ・ヒョンジョン、キム・ボギョン、キム・サンジュン、ソン・ソンミ、アン・ジェホン、ベク・ヒョンジン。2011、韓Sponge Entertainment) 同じバーを三度も訪れているのに毎回初対面扱いされたり、熱いキスを交わしたのになかったことになっていたり、もの忘れにしては度を越した記憶の食い違いがただならない認知の歪みを想起させるが、しかしそれが大きなドラマを生むわけではないという、またしても不可思議な映画だった。今回観た四作とも、私には一度では読み解けないな。登場人物がとつぜん怒り出したり、芽の出ない映画監督を写真に撮ろうとする女が出てきたり、四作に共通のモチーフについても、各作を再見して考えたい
295 2020/10/1 『天国にいちばん近い島』 (原作:森村桂、監督:大林宣彦。高橋幸宏、原田知世、松尾嘉代、小河麻衣子、小林稔侍、室田日出男、とり・みき、高柳良一、峰岸徹、ジル・ピーターセン、ジョルジュ・ワヘオ、エティエヌ・ワモウ、乙羽信子、赤座美代子、峰岸美帆、泉谷しげる、薩谷和夫、入江若葉。1984、東映) 改めて見ると、80年代的ダサさも含めて完璧にデザインされた映画、と思った。それすらも、あるいは役者ごとの力量のばらつきが丸わかりであるという点すらも、却って映画を完璧たらしめているとまで思ってしまう。そんな風に思わせられる美しさに満ちているなと思う
296 2020/10/2 『喜劇 女は男のふるさとヨ』 (原作:藤原審爾『わが国おんな三割安』、監督:森崎東。佐藤蛾次郎、倍賞美津子、森繁久彌、中村是好、中村メイコ、園佳也子、犬塚弘、山本紀彦、花澤徳衛、緑魔子、河原崎長一郎、伴淳三郎、左卜全、立原博、山本麟一、名古屋章。1971、松竹) アクは強いが程よい感じで、地べたを生きている人たちの魅力の描き方が見事と思う。森繁久彌についてああうまいなあと思うのは言うまでもないが、中村メイコ、倍賞美津子、緑魔子、河原崎長一郎の芝居は強く記憶に残る。山田洋次が脚本に名を連ねているが、監督したらこうは行かなかったのではないか、というのは素人考えか。『男はつらいよ』シリーズの山田作品と森崎作品を比べると、どうしてもそう思ってしまう
297 2020/10/2 『木曜日』 (監督:大林宣彦。住吉正博、竹林紀子。1960、大林宣彦プロ) 実験的な要素が(少なくとも)表面的にはなく、ピクニックの一日をさらっと撮ったような趣が主なので(ひっかかる場面は多々あるが)、これは何度か繰り返し観ないと真価に到達しないな。再見必須
298 2020/10/2 『動物の狩り方』 (森英人。木下ほうか、能年玲奈、河口舞華、村田雄浩。2011、ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2010) 忘れていたが、五年前に一度観ていた。そのときの感想「能年玲奈は『あまちゃん』のイメージを引きずるよりこの映画のような暗く沈んだ女を地味に演じ続けているほうが、なにかよい方向に向かうような気がした」というのは、今回も同じ。でもこの映画からすでに十年経っているわけだし、現在はどうだろうか
299 2020/10/3 『男はつらいよ お帰り 寅さん』 (原作・監督:山田洋次。吉岡秀隆、桜田ひより、池脇千鶴、北山雅康、佐藤蛾次郎、倍賞千恵子、美保純、小林稔侍、前田吟、笹野高史、カンニング竹山、出川哲朗、濱田マリ、後藤久美子、松野太紀、浅丘ルリ子、夏木マリ、林家たま平、立川志らく、橋爪功。2019、松竹) 感動し泣きもしたが、その主な要因は名場面の使い方のうまさと、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、夏木マリ、橋爪功の老名優の芝居による。そういう意味では『男はつらいよ』シリーズ26年間(渥美清没後の『寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』と本作を除く)で培った資産を出汁に使った感は否めないように思う。タイトルバックの主題歌は桑田佳祐の歌唱で本人も登場するが、田舎芝居のように臭くて、そして表現が派手な割には実(じつ)がない。おとなしく海や夏の歌を歌っていればいいのにと思った。カンニング竹山、出川哲朗、濱田マリも、回想シーンを多用した映画の中での退屈を避けるためのスパイスとして起用されたのかもしれないが、そういうものに頼る必要はなかったと思う—要は不要と思ったし、笹野高史が御膳様というのも、これまでの役どころを考えたら出世のさせ過ぎではなかろうか。過去作の名場面をうまくコラージュして感動を与える映画をせっかく作ったのだから、芸能界臭はなるべく排除してほしかったと思う
300 2020/10/3 『武士道無残』 (監督:森川英太朗。天津七三郎、渡辺文雄、森美樹、高千穂ひづる、山下洵一郎、小田草之助、月原一夫、安住譲、桜むつ子。1960、松竹) 武士の社会のバカバカしさと、男女の激情と、自分の身分に関係なく生きたいという欲求とを、ぎゅっとコンパクトに描いている点が印象に残る。1時間14分という短い尺なので深みについては物足りなさもあるが、しかしこれ以上なにかを付け加えなくてもいいとも思う。画面の構成とか緩急とかも含め、完璧にデザインされた一本と言ってもいいような気がする
301 2020/10/7 『神様のくれた赤ん坊 』 (監督:前田陽一。桃井かおり、渡瀬恒彦、泉谷しげる、成瀬正、樹木希林、鈴木伊織、曽我廼家明蝶、河原崎長一郎、森本レオ、吉幾三、天草四郎、日野道夫、小林トシ江、正司歌江、楠トシエ、小松政夫、武知杜代子、嵐寛寿郎、吉行和子。1979、松竹) 桃井かおりがもう少しちゃんとうらぶれてたほうがよかったと思うが、それ以外はいい感じの喜劇と思った。冒頭にしか出てこない樹木希林の切れ味のすごさが印象に残る
302 2020/10/13 『腰辨頑張れ』 (監督:成瀬巳喜男。山口勇、浪花友子、加藤精一、明山静江、菅原秀雄、関時男、光川京子、西村青児。1931、松竹キネマ) 喜劇の基本中の基本といった趣で、今となってはお馴染みの、もっといえば目新しい要素のほとんどないほのぼのとした庶民ドラマだが、それでもこれだけきちんと作れば十分に人の心を動かすというよい証拠のような作品と思う。“腰辨”一家になにかすごくよいことが起こるわけでもなく(保険の契約は取るものの)、列車事故に遭った息子の容態が持ち直して家族一同喜び合って終わるというのも、なんだか暖かく残酷な眼差しを感じて、しみじみよいなと思った
303 2020/10/15 『喧嘩駕籠』 (監督:冬島泰三。森繁久彌、寺島雄作、宮城麗子、八千草薫、沢井三郎、阿部九洲男、大谷友右衛門、澤村國太郎、沢村貞子、柳家金語楼、杉山昌三九、香川良介、トニー谷、芝田信、翼ひかる。1953、東宝) トニー谷によるアチャラカ風味はあるものの、爽やかな恋の鞘当と笑いとがいい塩梅の、観ていてすかっとする喜劇であった。この頃の八千草薫の神々しさは忘れがたい
304 2020/10/17 『旅愁の都』 (監督:鈴木英夫。宝田明、江川宇禮雄、乙羽信子、星由里子、淡路恵子、浜美枝、志村喬、中北千枝子、堀川真智子、藤木悠、黛ひかる、上原謙、内田朝雄。1962、東宝) 昭和30年代も終わりに近づき表面的な身分の差などないように見えて実は深い身分差別がまだある、という状況を、ぎりぎりの地味さを保ちつつ如実に伝えてくるような、そんな映画と思った。そんな表現力の底力とか脚本、演出、芝居の巧みさに、ただただ感心
305 2020/10/18 『アニメ版 男はつらいよ~寅次郎忘れな草~』 (原作:山田洋次、作画原作:高井研一郎、キャラクターデザイン・総作画監督:小林ゆかり、総監督・絵コンテ:四分一節子、演出:棚橋一徳。1998年、TBS) オリジナルの実写映画とほぼ同じ物語ながら、北海道の酪農家の少年の成長とか、リリーのために柴又の祭でカラオケ大会を催すとか、アニメ版独自の展開があって、それはなかなか印象に残った。元の話がよいのでついホロリとさせられるが、個人的な好みとしては、寅次郎の声(山寺宏一)がアニメ声過ぎて興醒めだったのと、リリーのキャラクター・デザインがうらぶれた旅回りの歌手ではなく会社勤めの人みたいだったが残念
306 2020/10/18 『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』 (原作・監督:山田洋次。倍賞千恵子、吉田義夫、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、渥美清、三崎千恵子、松村達雄、笠智衆、浅丘ルリ子、織本順吉、中沢敦子、成田みるえ、北原ひろみ、江戸家小猫、毒蝮三太夫。1973、松竹) リリー初登場。やはり泣かせられる。浅丘ルリ子の達者さを改めて実感。おいちゃんは松村達雄がいいなと思ったが、他の作品を見たらまた感想は変わるだろう
307 2020/10/19 『“人妻”より 夜の掟』 (原案・脚本:池田一朗、監督:土居通芳。藤田佳子、龍崎一郎、睦五郎、三上真一郎、桂小かん、里見浩太朗、藤田陽一、山口火奈子、松尾ジーナ、林栄子、夏海千佳子、北島三郎、辰巳柳太郎、山田太郎、加藤嘉。1969、日活) 肝心の里見浩太朗や北島三郎や藤田佳子含め(ちょい役の殺し屋さえも)、なんだかもっさりしているのが映画全体に影響しているような感じを感じた。テンポもだるく、時間が経つのが長く感じられたが、妙に面白くて引き込まれるから不思議だ。1969年当時の生の横浜中華街や元町の風景が見られる点もあり、残しておこうと思う(新記の外観や海員閣の看板も映される)
308 2020/10/19 『背後の人』 (原作:有馬頼義、監督:八木美津雄。池部良、桑野みゆき、八木昌子、路加奈子、岡田英次、小沢栄太郎、槙芙佐子、北城真記子。1965、松竹) 人と人との関係は、それぞれの本質や性質にかかわらず、出会う時と場合によって大きく違ってしまうというある意味戦慄すべき真理を描いたものと思った。反戦という趣もあるが、それよりも戦争はその“真理”を描くための素材とされているようにも思ったが、しかしだからといって戦争を軽々しく道具にしたとも思わせないだけの迫力は、全体に地味な映画ながらあったと思う。桑野みゆきの終盤の慟哭っぷりには心動かされた。あまりきちんと追ってないが、素晴らしい役者だと思う
309 2020/10/20 『逢魔の辻』 (原作:大佛次郎、監督:滝沢英輔。坂本調右エ門、嵐芳三郎、花井蘭子、市川莚司、立花小三郎、河原崎長十郎、中村鶴蔵、中村進五郎、中村勘右エ門、小泉忠、山岸しづ江、助高屋助蔵、瀧澤修、音羽久米子、白井雄一、市川笑太郎、藤間房子、山崎進蔵。1938、東宝) 直参の父を持ちながら妾腹に生まれたことで頑なに“自分ひとりで生きてゆく”と決意する主人公の数奇な運命と桜田門外の変を絡め合わせた物語ではあるのだが、この映画で組み立てた物語が主に何を描こうとしたのかが、感覚的にわかりにくかった。井伊直弼安政の大獄と水戸藩を脱藩した志士(および主人公のひとりに数えてよいであろう薩摩藩士の宮森)、それに武士ながら妾腹の子の主人公と、それを目の敵にする町方同心、その周囲の人々の群像ということとは思うが。原作必読か
310 2020/10/24 『薩摩飛脚』 (原作:大佛次郎、監督:内出好吉。嵐寛寿郎、原健作、山田五十鈴、天野刃一、永田光男、藤間勘左衛門、宮城千賀子、有島一郎、小林重四郎、紫富士子、鮎川十糸子、尾上栄五郎、高田浩吉、三島雅夫。1951、松竹) 重々しい歴史物と思いきや、途中から軽さも伴った痛快娯楽時代劇の趣に変わるのは、主に宮城千賀子と高田浩吉のおかげ(高田浩吉は歌も歌う)。あとは有島一郎のバカ殿っぷり。そこにアラカンと山田五十鈴のいい塩梅に重厚な藝が加わって、多彩な味わいを味わわせてくれる。話のスケールが大きいようで小さいのもよい。ロードムービー的な楽しさもあり、子役の藤間勘左衛門がまた達者なのも印象に残る
311 2020/10/26 『無宿人別帳』 (原作:松本清張、監督:井上和男。渥美清、津川雅彦、伴淳三郎、長門裕之、三上真一郎、富田仲次郎、佐田啓二、天王寺虎之助、辰巳八郎、西村晃、中村翫右衛門、三國連太郎、田村高廣、二本柳寛、岡田茉莉子、左幸子、小堀明男、岩本美代。1963、松竹) 全体的に丁寧さにかけ、宗像弥十郎とくみと黒塚喜助の確執も、新佐渡奉行横内主膳の野望と挫折も、占部小十郎のなぜそんな人間になったかの来し方も、豊かとは言えない材料から想像しなければならない(原作は『佐渡流人行』と『無宿人別帳』の中の「逃亡」の短編二本とのことなので、丁寧に描くことも不可能ではなかったのではないかとも思うが)。といった不満を、渥美清、長門裕之、津川雅彦、三國連太郎らの藝で補った結果、つい観続けてしまう魅力を持つに至ったといった感じか。その意味ではせっかくの佐田啓二の正統的なカッコよさが際立たなかったという憾みは残る
312 2020/10/26 『お笑い捕物帖 八ッあん初手柄』 (青柳信雄。榎本健一、三木のり平、古川緑波、柳家金語楼、越路吹雪、森川信、塩沢登代路、三田照子、中村是好、二条雅子、小堀明男、南道郎、国友昭二、丘寵児、徳大寺君枝、如月寛多、藤間紫、沢村いき雄、大村千吉、池部良。1955、東宝) 呑気な喜劇。思わず大笑いさせられるようなギャグはないが、エノケンの風邪の歌とか、越路吹雪の掃除の歌とか、藤間紫の野球拳とか、歌の端々にくすっと笑う以上の何かが潜んでいるのと、三木のり平(冒頭の間抜け面には笑った)はじめ登場人物がそれぞれ微妙に性質の異なる間抜けさを漂わせているのとで、観ている最中ずっとふわふわと楽しい気分になる。落語ネタは微妙だったが(『井戸の茶碗』と『堀の内』だとすると、脚色が過ぎた。もしかしたら似ているが知らないネタかもしれない)、一番笑ったのは藤間紫の「拷問をするわよ、こちょこちょこちょ」か。取ってつけたように二組の夫婦が誕生し貧乏暮らしの浪人一家も長屋に加わる終わり方も、取ってつけたようなのになんだか幸せな気持ちになる
313 2020/10/27 『オンリー・ユー』 (原題『Only You』、監督:ノーマン・ジュイソン。ハリー・バランデス、タミー・マイノフ、ジェシカ・ハーテル、アントニア・レイ、マリサ・トメイ、ボニー・ハント、シオバーン・ファロン・ホーガン、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー、ジャンフランコ・バラ、バーバラ・カピスティ、ジョアキム・デ・アルメイダ、ロバート・ダウニーJr.、ビリー・ゼーン、フィオレンツォ・フィオレンティーニ、アダム・ルフェーヴル。1994、米TriStar Pictures) 昨夜えげつないコメディ・ドラマ(『共演NG』)を見たので、この手の粋で洒落たラブ・コメディが余計に心に染みた。それを別にしても、子供の頃に聞いただけの名前を追いかけていきなりアメリカからイタリアに渡って各地を巡る、というのも荒唐無稽なはずなのに、ちゃんとその世界に引き込んでくれるのがうれしい。マリサ・トメイが最初から魅力全開(結婚間近という設定もあり)なのに対するボニー・ハントのしょぼくれ具合(こちらは倦怠期)からイタリア渡航後に生き生きする変化っぷりが鮮やかで印象に残った
314 2020/11/2 『パラサイト 半地下の家族』 (原題『기생충』(Parasite)、監督:ポン・ジュノ。チェ・ウシク、パク・ソダム、チャン・ヘジン、ソン・ガンホ、チョン・イソ、チョ・ジェミョン、パク・ソジュン、イ・ジョンウン、チョ・ヨジョン、チョン・ヒョウンジュン、イ・ソンギュン、パク・クンノク、パク・ミョンフン、コ・グァンジェ、イ・シフン。2019、韓CGV Arthouse) いろいろな見方ができると思うが、初見で最も印象に残ったのは、臭いというモチーフがそのまま半地下生活や地下生活の隠し果せない証拠であると同時に、拭っても拭きれない貧困の比喩であるようにも思えた(地下で暮らし続けた家政婦の夫の悪習に鼻をつまむ社長にソン・ガンホがとつぜんの殺意を描く場面を見ると、あながち間違った見方でもないとは思う)。その比喩の所為もあり、貧乏人に暖かい視線を注ぐというよりは貧乏人という“階級”の現実を冷徹に眺めて描いた映画、と思った。地下に逃れた父と地上でまた最低の生活をすることになった息子が通じ合うという終幕は、救いと言えば救いではあるが、監督の貧乏人を見る眼差しを考えるとかなり苦い。そして社長一家の生き残りがその後どうなったかが描かれず家の住人が入れ替わった様だけ示されるのは、金持ちの人生など代わりがいくらでも効く、ということなのだろうか。あははと笑って物語に引き込まれる手腕を味わうとともに、いろいろなことを考えさせられた
315 2020/11/2 『正しい日 間違えた日』 (原題『지금은맞고그때는틀리다』(Right Now, Wrong Then)、監督:ホン・サンス。キム・ミニ、チョン・ジェヨン、コ・アソン、チェ・ファジョン、ソ・ヨンファ、キ・ジュボン、ユン・ヨジョン、ユ・ジュンサン。2015、韓Finecut) ありふれた日常をシンプルに切り取った可愛らしい映画、と捉えてもその通りで間違いはなかろうが、同じ始まり方をするふたつの物語にそれぞれ異なるきっかけを投入したらその後どう展開するのか、という実験的手法について妄想を始めるとなかなか答が見つからない。しかし映画の細部がどれも非常に魅力的で、繰り返し見たくさせられないこともない。というような、不思議な感触を持った映画だった
316 2020/11/3 『忍術武者修行』 (監督:福田晴一。三木のり平、宮城千賀子、花菱アチャコ、真木康次郎、海江田譲二、中村是好、山路義人、西田智、ユスフ・トルコ、上田寛、天王寺虎之助、雲井三郎、西川ヒノデ、曽呂利祐平、田端義夫、宮坊太郎、森八郎、高木新平、滝沢ノボル、サトウ・サブロー、林彰太郎、小笠原省吾、美珠さちよ、西川サクラ、伴淳三郎。1960、松竹) 戦いの相手が熊に化けると三木のり平は金太郎に化けるとか、アヒルに化けた三木のり平がアヒルの首に三木のり平のミニチュアをくっつけただけとか、終幕の伴淳とか、くすっという笑いは随所にあるが、それでも数は少なく、大笑いとなるとなかなかない。エノケン時代劇のほんわかした雰囲気をも少し現代的にした、という感じだろうか。一説によれば三木のり平は1960年辺りがピークで(私はそうとは思わないが)、とするととても忙しい日々だったろうから、やっつけで撮った、という想像もまあできる作品であった。だからといって嫌いなわけではない
317 2020/11/4 『僕たちのラストステージ』 (原題『Stan & Ollie』、監督:ジョン・S・ベアード。スティーヴ・クーガン、ジョン・C・ライリー、シャーリー・ヘンダーソン、ダニー・ヒューストン、ルーファス・ジョーンズ、ニナ・アリアンダ、ステファニー・ヒアム、スージー・ケイン、ジョン・ヘンショウ。2018、英加米Entertainment One / Sony Pictures Classics) 初見ではローレル&ハーディの全盛期の全盛ぶりと凋落の様子をもっと(短くてよいから)克明に描いたほうが、と思ったが、再見すると最小限の説明があるのはわかるし、まあそこはこのやり方でいいかな、と思った。その点では観る側の想像力を試すような作り方をしたのかなと思ったが、果たして。とはいえ、もっとドラマチックにできるのに、作り手の気持ちとしてはなるべくさらっと行きたかったのだなと思ったが、これも果たして
318 2020/11/5 『彼のオートバイ、彼女の島』 (原作:片岡義男、監督:大林宣彦。竹内力、小林稔侍、岸部一徳、峰岸徹、三浦友和、原田貴和子、渡辺典子、尾崎紀世彦、根岸季衣、田村高廣、新井康弘、泉谷しげる。1986、東宝) 愛すべき映画ではあるが、ときおり顔を覗かせる片岡義男の原作の文学臭は、映画化に当たっては無効化するかもっと前面に押し出すか、どちらかがよいと思った。竹内力の爽やか青年ぶりと、原田貴和子の大顔ぶりおよびフルフェイスのヘルメットをかぶると妹に似るのと、渡辺典子の全身プロモーションは自分にとっては“発見”だった
319 2020/11/5 『夜の浜辺でひとり』 (原題『밤의 해변에서 혼자』(On The Beach At Night Alone)、監督:ホン・サンス。キム・ミニ、ソ・ヨンファ、コン・ホングヨル、カール・フェデル、マーク・ペランソン、クォン・ヘヒョ、パク・イェジュ、チョン・ジェヨン、ソン・ソンミ、ムン・ソングン、カン・ミンジョン。2017、韓Finecut) キム・ミニ、ソ・ヨンファ、チョン・ジェヨンが『正しい日 間違えた日』(2015)、ムン・ソングンが『教授とわたし、そして映画』(2010)に出演していた。道ならぬ恋に傷ついた若手女優が、周囲の人に優しくされながら仕事に復帰する、という話が軸にはなっているが、三幕構成のそれぞれの虚実が、ちょっと引っかかるとよくわからなくなってきて(一幕めと三幕めの黒い男の存在とか、二幕めの微妙に食い違っている会話とか、三幕めの夢落ちのような終わり方とか)、いろいろ深読みを誘う映画である。でも深読みするには材料が足りず、それでいて観終えてああ面白かったと思う(魅力の大部分はキム・ミニの魅力かもしれないが)、妙なる映画であった。弦楽四重奏(?)の音楽も素晴らしい
320 2020/11/5 『クレアのカメラ』 (原題『클레어의 카메라』(Claire's Camera)、監督:ホン・サンス。キム・ミニ、チャン・ミヒ、ヨオン・ヒースン、チョン・ジニョン、イザベル・ユペール。2017、韓仏Jour2Fête) 終わり方も苦さを残しながらハッピー・エンドと取りやすい終わり方だし、これまで観たホン・サンス作品の中では最もわかりやすい映画であった。わかりやすいからいいというわけではないが、わかりやすいからといって他の作品と比べてつまらなかったかといえばそうではない。フランス(カンヌ)が舞台なのに、フランス人(イザベル・ユペール)のほうが異邦人に見えるというのがなんとも面白かった
321 2020/11/6 『中山道』 (監督:大林宣彦。1962) 終盤にかけての細かい編集は見事。しかし私のような深い見方のできない受け手には、野心的実験作というよりは映画的悪戯のように思えたが、それでもなお魅力的だし、失われた風景や日本人像の記録として考えても貴重な一作ではあると思った
322 2020/11/6 『バウハウス・スピリット』 (原題『Vom Bauen Der Zukunft - 100 Jahre Bauhaus』、監督:。トルステン・ブルーメ、ローザン・ ボッシュ、アルフレード・ブリレンブール、シュテファン・コヴァツ、フーベルト・クルンプナー(順不同)。2018、独Neue Visionen Filmverleih) バウハウスの精神が現在にも生きているということはわかったが、ポイントをつかみづらいドキュメンタリーではあった。いやバウハウスの精神が現在も世界各地で継承されていることがわかればよいか。その点、ランダムに参照しやすい本と時間軸に支配される映画の本質的な違いを見たような気にもなった
323 2020/11/6 『バウハウスの女性たち』 (原題『Bauhausfrauen』、監督:ズザンネ・ラデルホーフ。エリザベス・オットー、モニカ・シュタードラー、エレーナ・マカロワ、アーニャ・バウムホーフ、パトリック・レスラー 、テレジア・エンツェンスベルガー(順不同)。2018、独Koberstein Film) ヴァルター・グロピウスは「入学を許可されるのは、年齢と性別にかかわらず、持ち合わせる才能と教育がマイスター評議会に十分と認められた、すべての誠実な人物である」と言っておきながら、実際には女性を隅に追いやった現行不一致の輩、という印象を与える映画。この映画にも出演しているエリザベス・オットーが『バウハウスの女性たち』という本を上梓していて(2019年、MIT Press)、これを読んで理解を深めたいのだが、邦訳は出ていないようだ
324 2020/11/6 『それから』 (原題『그 후』(The Day After)、監督:ホン・サンス。クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、キム・セビョク、キム・ミニ。2017、韓Jeonwonsa Film) 冒頭の、時間が止まったような絵がまず印象的。まったく何も動かないが、それが却ってこれから何かが起こることを予感される。時間軸は理解を促す仕掛けなく(あるのかもしれないが、初見ではわからなかった)ぐちゃぐちゃにカットアップされていて、冒頭からかなりの間混乱する(途中からわかった気がするが、わかった気がしただけかもしれない)。混乱といえば、キム・ミニとキム・セビョクが判別できないほど似ている場面があるのも混乱を誘う(前半では髪型を変えた同一人物と思った)。浮気を反省しない男は、その無責任さが強調されているが(終幕のキム・ミニとの会話など)、映画の前半では苦悩している姿も映し出される。しかしそれが時系列の中のどこかは決定的にはわからない。キム・ミニ扮する主人公は、結局三角関係のもつれに一日だけ巻き込まれて去っていくだけで、映画が終わってしまえば何も起こらなかったような肩透かしを喰らった感じを覚えるのだが、途中それなりに修羅場のようなどろどろした場面があるのに、その肩透かしを喰らった感じが作用してか映画全体が爽やかな印象にも転じるのが、なんとも面白い
325 2020/11/7 『黒蜥蜴』 (原作:江戸川乱歩、原作戯曲:三島由紀夫、監督:深作欣二。木村功、丸山明宏、川津祐介、丹波哲郎、宇佐美淳也、松岡きっこ、西村晃、小林トシ子、三島由紀夫。1968、松竹) 改めて観ると、丸山(美輪)明宏の髭が濃くて笑う。この当時はそんなに優秀なコンシーラーがなかったのかもしれないが、映画なんだから工夫はできたはず(わざとしなかったのかもしれない)。京マチ子の優雅さと比べるといやはやなんともと思ったが(B級度合いは、私の目には同程度に映った)、観ていて楽しいのはやはり京マチ子/井上梅次版だな。丸山明宏は三島由紀夫肝煎りということか。そういえば三島由紀夫の剥製があるところは、こちらのほうが笑いを誘うが、まあ一度観れば十分(ということで録画は消去)
326 2020/11/7 『クレアのカメラ』 (原題『클레어의 카메라』(Claire's Camera)、監督:ホン・サンス。キム・ミニ、チャン・ミヒ、ヨオン・ヒースン、チョン・ジニョン、イザベル・ユペール。2017、韓仏Jour2Fête) 二回め。一回めは「終わり方も苦さを残しながらハッピー・エンドと取りやすい終わり方」と書いたが、しかし終幕は首の皮がつながったところ(主人公と社長が坂道を下る)ではなく、時系列で言えば冒頭の馘になる場面の直後であって、なぜそれを最後に持ってきたかを考えるとまた謎が残る。冒頭の時系列も順序が組み替えられているし、これも『それから』などと併せて時系列を元に戻してみる作業をしないとならないな
327 2020/11/8 『大都会の丑満時』 (原作:金川太郎、監督:西村元男。美奈川麗子、森雅之、潮万太郎、小杉勇、若杉須美子、船越英二、伊沢一郎、植村謙二郎、高品格。1949、大映) 新旧刑事にして父子の確執と愛情を描いた作品。警察関係者による原作を「国警本部の大々的援助の下に製作」ということのようだが、どのあたりに感銘を受けたらよいのか、よくわからなかった。この時代の風景、衣服、人々の様子は印象に残ったが、それがどれくらい1949年の実情に沿っていたのかは、当時の写真などを探してみないとよくわからない
328 2020/11/9 『だんだんこ』 (監督:大林宣彦、平田アキラ。平田いなみ、西レイコ、平田アキラ、茅青二。1960年) 冒頭から出ていて途中でふっと姿を消す少女は死のメタファーか? などと思ったが、まったく理解が及ばず。いろいろ論評を探して読んでから、また挑戦したい
329 2020/11/9 『大殺陣 雄呂血』 (原案:寿々喜多呂九平、監督:田中徳三。五味龍太郎、市川雷蔵、平泉征、内藤武敏、内田朝雄、南部彰三、荒木忍、八千草薫、加藤嘉、中谷一郎、藤岡琢也、戸田皓久、寺島雄作、木村玄、三木本賀代、藤村志保、吉田義夫、毛利郁子。1966、大映) 侍社会のバカバカしさを描いた好編と思う。ほんとにバカバカしいことに命を賭けさせられたり捨てさせられたりしていたんだなあと。そこで大爆発する市川雷蔵が見事で、終幕の三十分近い大殺陣などぞくぞくと感動と興奮を覚えた。その一方で、ほんの数場面しか出てこない藤村志保の美しさにも恐れ入った。八千草薫は確かに美しいが、存在の鮮やかさでは本作では藤村志保が優っていたと思う
330 2020/11/9 『記憶にございません!』 (監督:三谷幸喜。中井貴一、近藤芳正、藤本隆宏、有働由美子、阿南健治、ディーン・フジオカ、田中圭、小池栄子、迫田孝也、後藤淳平、草刈正雄、小林隆、濱田龍臣、斉藤由貴、石田ゆり子、ROLLY、吉田羊、飯尾和樹、梶原善、佐藤浩市、寺島進、山口崇、木村佳乃、宮澤エマ。2019、東宝) 大傑作というには何か足りない気はしたが(途中で記憶が戻っていたというのは、やや陳腐かな)、役者がほとんど全員楽しそうな点ではよい喜劇だと思った。梶原善は作り過ぎだが、同じ作り過ぎでも木村佳乃は可笑しかった。何も観るものがない、という場合はほとんどないが、なにか軽く流し見しながら飲もうかな、というときのために取っておくと重宝するかもしれない
331 2020/11/10 『大阪物語』 (原作:溝口健二(井原西鶴『日本永代蔵』『世間胸算用』『萬の文反古』より)、監督:吉村公三郎。国米曠、中村鴈治郎、浪花千栄子、竹野マリ、浅尾奥山、玉置一恵、伊達三郎、滝花久子、西川ヒノデ、林成年、香川京子、市川雷蔵、山茶花究、万代峰子、三浦志郎、十朱久雄、天野一郎、東野英治郎、小野道子、三益愛子、林家染丸、勝新太郎、中村玉緒。1957、大映) 主人公(中村鴈治郎)のドケチぶり(大阪風に言えば始末屋ぶり)とそれについての教訓が主題のひとつだろうが、そのドケチぶりの徹底した演出と芝居が鮮やかで、ひとつの藝として観ていてとても楽しい。とんでもないドケチ野郎が周囲を不幸にしていくわけだが、その周囲には軽さもあり楽しさもあり笑いもあり希望もあり、その塩梅がとてもよくできていると思った(落語『明烏』風の展開もあり)。溝口健二が撮らなかったのがもしかしたら功を奏したのかもしれないが、果たして
332 2020/11/10 『囚われの女』 (原題『La prisonnière』、監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー。ロラン・テルジェフ、エリザベート・ウィネル、ベルナール・フレッソン、クロード・ピエプリュ、ノエル・アダム、ダリオ・モレノ、ダニー・カレル。1968、仏Valoria Films) 60年代のポップ・アート、オプ・アート、キネティック・アートのクルーゾー的解釈がなんとも面白い、というかダサくて笑う。フランスのポップアートなどがそうだった、というよりは、やはり若者文化を皮肉に眺めるクルーゾー的解釈だろうと思うが、果たして。しかしその一方で、冒頭のゴム人形の弄び方や、中盤のニコンのカメラがぐっと性的な存在になる撮り方などは、恐怖を覚えるほどエロティックで、さすがと思う。日本未公開らしいが、これはこれで残るべき映画と思う
333 2020/11/11 『形見』 (監督:大林宣彦。石崎仁一、浅野瑛子、及川明彦、野呂真。1963年) 表現としては実験的でただちに理解されることを拒むような感触というか、深読みを誘いつつ正解にたどり着かせないような感触もあるが、それでいて夫・父を失った母子の悲しみは真っ直ぐに伝わってくる。亡き夫・父の手だけ出てくるのがなんともよいと思う
334 2020/11/14 『動物の狩り方』 (森英人。木下ほうか、能年玲奈、河口舞華、村田雄浩。2011、ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2010) 今年二回め。概ね六つくらいのテーマで構成された映画と思うが、今回はそれぞれの際立ち方がとても印象に残った。もちろんそれぞれの強弱があって、たとえば山の男がなぜ山暮らしを始めたかは勝手に想像するしかないのだが、それでもテーマと思われるもののひとつひとつについて観る者の想像力を動かすような力がこの映画にはあると思った。そういえば、主人公とその“親友”の間にかつていじめの問題があったと記憶していたが、今回観てみるとそんな描写はなかった。これなども、観る者の想像力を動かした好例かもしれない
335 2020/11/15 『祝辞』 (監督:栗山富夫。林美智子、工藤夕貴、財津一郎、賀原夏子、石倉三郎、前田武彦、柄本明、鷲尾真知子、三谷昇、内藤武敏、山下規介、山口良一、飯干恵子、和由布子、植木等、神崎愛、鈴木ヒロミツ。1985、松竹) 財津一郎がしょぼくれた万年係長に見えない点(芝居ではなく役作り的に)を除けば、ほぼ百点満点の喜劇。話がいい塩梅にシンプルで、その中で太々しい若手社員の柄本明や最近独り者になったばかりという設定の植木等の芝居がさっと光るのがよい。万年係長の満を持したスピーチを、直前に演壇に立った前田武彦が同じ内容の祝辞でさらっていくという展開がセオリー通りとはいえ最高であった
336 2020/11/16 『金色夜叉』 (原作:尾崎紅葉、監督:野村芳亭。田中絹代、高尾満子、林長二郎、岩田祐吉、武田春郎、齋藤達雄、兵藤静枝、小林十九三、若水絹子。1932、松竹キネマ(蒲田撮影所)) 原作の物語や主題を別に考えこの映画だけを見つめると、学生がバカみたいに浮かれていて、その浮かれた心の先に貫一がお宮を勢いで捨ててしまう、というバカみたいな展開になる、という風に思えてくる。お宮が、ダイヤモンドに目がくらみ貫一を裏切った、というよりは騙されて熱海に連れて行かれ、その事情を貫一がちっとも汲もうとせず独り相撲のようにお宮を足蹴にして去った、という展開の所為もあるか。観終えてあまり記憶に残らなかった
337 2020/11/16 『愛撫(ラムール)』 (原作:伏見晁、監督:五所平之助。小林十九三、谷麗光、新井淳、岡田嘉子、坂本武、加賀晃二、高山義郎、高松栄子、小倉繁、光川京子、河村黎吉、山口勇、青野清、大山健二、牛田宏、飯田蝶子、渡辺忠夫、押本英治、及川満子。1933、松竹キネマ(蒲田撮影所)) 出てくる人がほぼいい人、いい顔の人ばかりで、冒頭はとてもほのぼのとした気分にさせられるが、自動車屋の悪意と主人公の医者の誤診と息子の堕落で、物語は一気に暗さを帯びる。その塩梅や落差が素晴らしく、終幕の父と息子の関係改善に大いに感動させられる。絵造りが映画的にとても精緻なのと、先述した登場人物の人のよさが溢れ出てるような顔つき、そして岡田嘉子の美しさなど、映画的な魅力にも溢れている。その点が再現できるなら、トーキーとしてリメイクしたものを観てみたいと思う
338 2020/11/20 『下町の太陽』 (監督:山田洋次。倍賞千恵子、早川保、東野英治郎、武智豊子、野々浩介、左卜全、鈴木寿雄、藤原釜足、柳沢譲二、待田京介、加藤嘉、山本幸栄、玉川伊佐男、水科慶子、山崎左度子、勝呂誉、石川進、田中晋二、葵京子、穂積隆信、名古屋章、青山ミチ、菅井きん。1963、松竹) 一言で言ってこれ、といは言えない映画と思うが、しかし山田洋次としては最高傑作ではないかとも思う。吹き溜まりに暮らすような人たちを東野英治郎にものすごく象徴させていながら、その周りになんとなく漂っている人たちをときどきクローズアップすることで吹き溜りに暮らすことの哀しさをぐっと強調するような撮り方は、残酷ではあるが、残酷さを躊躇しないが故にこの映画の力になっていると思った。これまで何度か観ているが、これからも何度か観たいと思わせられる傑作と思う
339 2020/11/20 『クレオパトラ』 (原案:手塚治虫、監督:手塚治虫/山本暎一。(声の出演)吉村実子、柳家つばめ、塚本信夫、加藤芳郎、ハナ肇、今井和子、初井言栄、中山千夏、なべおさみ、阿部進、野沢那智。1970、日本ヘラルド映画) 小学生のときに観たと思っていたが、『千夜一夜』のほうだった。それはともかく、素晴らしかった。当時の人気漫画や往年の名画(映画ではなく絵画)のパロディとしての用い方や、各場面の一枚絵としての色遣いの妙味なども含めて、今やもう誰かが作ることの期待叶わずの類の映画と思った。キャラクターデザインに小島功を起用しているところも素晴らしい
340 2020/11/21 『アンダーウェア・アフェア』 (監督:岨手由貴子。小野ゆり子、広瀬麻百合、東加奈子、山中崇、綾野剛。2009、ndjc2009事務局(VIPO)) ひとりの女(夫と別居中の主婦)の現在と思春期を並行して描いた、ということは観始めてしばらくしてわかったが、それがわかったからどうだというとなんだかよくわからなかった。思春期のときの気持ちを思い出したのだろうなとは思ったのだが、思春期の頃の描写がなかなか現在と直感的に結びつかず、物語を追いかけながら頭で考えてそうかなと思ったので、実感として気持ちを動かされるに至らなかったのだと思う。まあしかし、誰にでもわかるように撮るには30分は短かったということかな。ただし、ブラジャーの赤と白の使い分けには一日経って気づいた部分もあるので、自分が迂闊だったことは認めざるを得ない
341 2020/11/22 『モダン怪談100,000,000円(松竹グラフ短縮版)』 (原作:大森文雄、監督:斎藤寅次郎。松井潤子、斎藤達雄、大山健二、酒井啓之輔、坂本武、小倉繁、吉川満子。1929、松竹グラフ) 現存する最古の斎藤寅次郎喜劇(2004〜2005年にかけて発見されたそうだ。冒頭のクレジットから推測するに、斎藤寅次郎のご親族?の方々のご尽力により復元されたらしい)。話もギャグも今となってはベタだが、不思議と新鮮な可笑しみが伝わってくる。私には松井潤子の佇まいの可笑しさが一番印象的だったが、斎藤達雄の頼りなさそうな様子や小倉繁の忠次の大河内傳次郎の巧みなモノマネなどもこの映画の魅力のようだ。いずれにせよ、貴重な一本、保存しておかねば(いつか坂本頼光の活弁で観てみたい)
342 2020/11/22 『腰辨頑張れ』 (監督:成瀬巳喜男。山口勇、浪花友子、加藤精一、明山静江、菅原秀雄、関時男、光川京子、西村青児。1931、松竹キネマ) 今年二回目。新たな発見はなかったが、感想も前回と変わらず。しみじみよい
343 2020/11/22 『ぼくのエリ 200歳の少女』 (原題『Låt den rätte komma in』(Let The Right One In)、原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE』、監督:トーマス・アルフレッドソン。カーレ・ヘーデブラント、ペール・ラグナル、リーナ・レアンデション、パトリック・リドマーク、カーリン・ベリィクイスト、イーカ・ノード、ミカエル・ラーム、ペーテル・カールベリ。2008、瑞Sandrew Metronome Distribution) 吸血鬼をメタファーとして見て主人公の少年のイニシエーションを描いたと捉えれば簡単だが、それだとつまらない気もするし、終盤のプールの場面が説明できない気もする(結局彼自身の力では通過できなかったことになるので)。原作はハヤカワ文庫で入手できるようなので、読んでみるか。物語を別にすれば、カーレ・ヘーデブラントの美しさとリーナ・レアンデションの行動の描き方は印象に残った
344 2020/11/23 『ラスト・ワルツ』 (原題『The Last Waltz』、監督:マーティン・スコセッシ。ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、レヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、マーティン・スコセッシ、ロニー・ホーキンス、マイケル・マックルア、ドクター・ジョン、ニール・ヤング、ザ・ステイプルズ、ホーン・セクション(ジム・ゴードン、トム・マローン、ハワード・ジョンソン、ジェリー・ハイ、リチャード・クーパー、チャーリー・キーグル)、ニール・ダイアモンド、ジョニ・ミッチェル、ポール・バターフィールド、マディ・ウォーターズ、エリック・クラプトン、ラリー・パッカー、エミル・ハリス、ヴァン・モリソン、ローレンス・フォーリンゲティ、ボブ・ディラン、リンゴ・スター、ロン・ウッド。1978、米United Artists) コンサート映画として最高なのは言うまでもないし、何度観ても楽しいが、しかしいろいろなことを浅く知ってくると、ロビー・ロバートソンがなんだか嫌なやつに見えてくる映画でもある。人物像がメンバーの中でひとりだけキラキラした感じなのも、ちょっと目にしただけの情報でロビーをそう思ってしまう要因なのかなとも思う。『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』も観てみないとな
345 2020/11/23 『華氏119』 (原題『Fahrenheit 11/9』、監督:マイケル・ムーア。マイケル・ムーア、ドナルド・トランプ。2018、米Briarcliff Entertainment) ドナルド・トランプの大統領選挙当選という“事件”をきっかけに、米国が抱えている諸問題の根源にまで探り降りていくドキュメンタリー、として観たが、実際どうなのだろう。一見関連のない話題がぽんぽんとつなぎ合わされていくようなところも多く、何を伝えようとした映画か、直ちに答えを出せるような代物ではないとも思ったが、観ている途中にふと頭に思い浮かんだのは冒頭に書いた感想であった。イデオロギーを支配しているようでいて、実は気分を支配しているという描き方は、日本にも無縁ではなかろうとは思った
346 2020/11/25 『磯川兵助功名噺』 (原作:野村胡堂、監督:斎藤寅次郎、毛利正樹。黒川弥太郎、柳田貞一、横山運平、深見泰三、如月寛多、森健二、榎本健一、若原春江、田中筆子、花井蘭子、中村是好、清川玉枝、高勢実乗、澤井一郎、清川荘司、瀬川路三郎、鬼頭善一郎。1942、東宝) すっかり忘れていたが、一年ほど前にも観ていた。以下その際の感想(本日も同じようなことを考えたので)「一応国策映画のようだが、のんびりしていて戦意はあまり高揚しそうにないし、出世も口から出任せの結果なので立身出世噺としてもピリッとしてないところが面白い。個々の場面でいえば、前半の、エノケンが火鉢を破壊してからのドタバタや、雨が降ったり止んだりの笑わせどころの素朴な合成映像が面白かった」
347 2020/11/25 『ビッチ・スラップ 危険な天使たち』 (原題『Bitch Slap』、監督:リック・ジェイコブソン。ジュリア・ヴォス、アメリカ・オリーヴォ、エリン・カミングス、マイケル・ハースト、ロン・メレンデス、ミナエ・ノジ、ケヴィン・ソーボ、ウィリアム・グレゴリー・リー、ルーシー・ローレス。2009、米Freestyle Releasing) 小気味のよいバカ映画。バカ撮った身も蓋もないバカ映画という趣で、例えばタランティーノが撮ったらもっとカッコつけた感じでこうはならないな、という感じがするのが面白かった。という感じがする割には、話などけっこう寝られている。拾い物
348 2020/11/26 『奥様多忙』 (原作:源氏鶏太、監督:穂積利昌。水原真知子、須田哲夫、大坂志郎、熱海サチ子、有島一郎、清川虹子、七浦弘子、伴淳三郎、大津絢子、田浦正巳、鈴木房子、長谷部朋香、益田キートン、佐竹明夫、青山宏、鮎川十糸子、千秋みつる、和歌浦糸子、草間百合子。1955、松竹) 日本人のよいところを選って作った映画という印象。人間の真実を描くとかそういう類ではないが、これはこれでほっとするし、気持ちのよい映画と思う。役者全員台詞がはっきりしていて聞きやすく、それでいて不自然ではない点は、記憶しておくべきだろうと思う
349 2020/11/27 『誰が私を殺したか?』 (原題『Dead Ringer』、原作:イアン・ジェームズ、監督:ポール・ヘンリード。ベティ・デイヴィス、ジョージ・チャンドラー、シリル・デルバンティ、モニカ・ヘンリード、バート・レムゼン、カール・マルデン、ジョージ・マクレディ、エステル・ウィンウッド、マリオ・アルカルデ、ケイ・リンチ、ジーン・ヘイゲン、ピーター・ローフォード。1964、米Warner Bros.) 双子が入れ替わるというシンプルな話で、その背景も映像では示されず台詞で説明される(それも不十分に)だけだが、うまく入り組ませた仕掛けにすとんすとんと落ちていって、観る側も主人公もそこから逃れられなくなる、といった趣。傑作と思う
350 2020/11/28 『特命係長 只野仁 最後の劇場版』 (原作:柳沢きみお『特命係長只野仁 ファイナル』、監督:植田尚。高橋克典、山村紅葉、田山涼成、蛯原友里、インディ高橋、秋山莉奈、西川史子、入江雅人、三浦理恵子、松澤一之、吹越満、櫻井淳子、永井大、梅宮辰夫、赤井英和、尾美としのり、谷隼人、長谷川初範、梅宮アンナ、富岡晃一郎、おかやまはじめ、早美あい、りりあん、雨上がり決死隊、小澤マリア、春咲あずみ、原口あきまさ、近江谷太朗、斉藤優、デビット伊東、チェ・ホンマン、桑名正博。2008、松竹) 全体に楽しいし好きなシリーズだが、二時間の映画となると登場人物の出し入れに無駄が多いし冗長で飽きる場面も少なくない。西川史子の扱いなど面白く素人芝居を気にさせないような工夫?もあるので、テンポよくコンパクトに刈り込んで二時間ドラマ(実質一時間半)に仕立てたらずっと面白かったのにと思った。無理に劇場公開映画にする必要もなかろう。チェ・ホンマンや蛯原友里など2008年当時の時の人の幾人かが今現在忘れられていると思われるのは、なんだか感慨深い
351 2020/11/29 『ゆれる人魚』 (原題『Córki Dancingu』(踊る娘たち。英題『The Lure』)、監督:アグニェシュカ・スモチンスカ。ミハリーナ・オルシャンスカ、キンガ・プレイス、ヤーコブ・ジェルシャル、アンジェイ・コノプカ、マルタ・マズレク、ジグムント・マラノウッツ、マグダレーナ・チェレツカ、アンジェイ・コノプカ、マルチン・コバルチク。2016、波Kino Swiat) 人魚の造形が生臭そうなのが面白い。そして台詞でも「生臭い」という言い回しが出てくる(字幕だが)。その生臭い感じと、切ない愛の物語のふたつの要素が混じり合うのがとても印象に残った。80年代のワルシャワが舞台とのことだがその徹底ぶりとか、なんだかよくわかんない感じとか、いろいろな味わいが残った
352 2020/11/30 『ゾンビの中心で、愛をさけぶ 』 (原題『Zoo』、監督:アントニオ・トゥーブレン。エド・スペリーアス、ゾーイ・タッパー、ヤン・ベイヴート、アントニア・キャンベル=ヒューズ。2015、丹瑞Angel Films/NonStop Entertainment) ゾンビのほとんど出てこないゾンビ映画。冷え切った夫婦の関係がゾンビ騒動によって修復されていき、最後には命をかけた愛に昇華するという点では、きっかけはゾンビではなく命に関わる感染症ならなんでもよい気もするが、ゾンビをその象徴として考えるとやはりゾンビが一番しっくりくるか。同じアパートメントの住人とのやり取りのブラック・ユーモアを効かせつつ最小限の要素だけで作り上げた点(挑戦)も評価すべきと思った
353 2020/11/30 『グッドモーニングショー』 (監督:君塚良一。中井貴一、吉田羊、長澤まさみ、林遣都、時任三郎、濱田岳。2016、東宝) 中井貴一と長澤まさみ主演のコメディというので期待して観たが、監督や製作陣が役者に謝るべきクソ映画だった。物語の中のあらゆる要素がまったく活きていないので、役者も(どんなに頑張っていたとしても)全員活きていない。ただただ、この映画に出演して大変だったな、労多くして得るものほぼなしだったのかもしれないなと、役者のみなさんに対して思うばかりだが、まあしかしそれも大きなお世話かもしれないけれども、そういう感想しか浮かばない、クソ映画であった。時間の無駄という言葉を、強く噛み締めた
354 2020/12/1 『丑三つの村』 (原作:西村望、監督:田中登。ビートきよし、古尾谷雅人、原泉、五月みどり、新井康弘、田中美佐子、池波志乃、夏木勲、大場久美子、山谷初男、石橋蓮司。1983、富士映画) 笹路正徳のふやけたような音楽がまったく物語にも絵にもそぐわなかったのがとても残念。それを除けば古尾谷雅人の希望と絶望と狂気、閉鎖的な村の村人たちの陰湿な眼差し、池波志乃と五月みどりの底知れない色気など見どころは多いし、まだ若い田中美佐子や大場久美子の極限状態での芝居にすら圧倒された。音楽を付け直せば後世に残る傑作になると思うのだが、如何
355 2020/12/2 『ギャラクシー・オブ・テラー 恐怖の惑星』 (原題『Galaxy of Terror』、監督:ブルース・D・クラーク。メアリー・エレン・オニール、レイ・ウォルストン、バーナード・ベーレンス、グレイス・ザブリスキー、タフィー・オコンネル、エドワード・アルバート、ロバート・イングランド、ザルマン・キング、エリン・モーラン、ジャック・ブレッシング、シド・ヘイグ。1981、米New World Pictures) ロジャー・コーマン製作、ジェームス・キャメロンがスタッフ(第2班監督とプロダクションデザイン)で参加しているB級SF映画。それだけで十分かな。ライトとしてしか利用価値がなさそうな巨大なバックパックを全員が背負ってるとか、可笑しい要素もいくつか
356 2020/12/2 『勢揃い東海道』 (監督:松田定次。大川橋蔵、美空ひばり、河原崎長一郎、片岡千恵蔵、久保菜穂子、堺駿二、山形勲、月形龍之介、高田浩吉、加賀邦男、里見浩太朗、中村錦之助、松方弘樹、北大路欣也、市川右太衛門、松浦築枝、近衛十四郎、東千代之介。1963、東映) 千恵蔵と歌右衛門の鬱陶しいくらいの対決を期待したが、それは『旗本退屈男』(1958)だったようだ。ほかに千恵蔵右太衛門共演では『維新の曲』(1942)、『任侠清水港』(1957)、『任侠東海道』(1958)を観ていて、それぞれ記録は残してあるが、記憶の表面に上ってこないな。まあ本作も、東映スター総出演のスカッとした映画であった
357 2020/12/4 『薩摩飛脚』 (原作:大佛次郎、監督:内出好吉。嵐寛寿郎、原健作、山田五十鈴、天野刃一、永田光男、藤間勘左衛門、宮城千賀子、有島一郎、小林重四郎、紫富士子、鮎川十糸子、尾上栄五郎、高田浩吉、三島雅夫。1951、松竹) 今年二回め、と思いつつ試しに観てみたら、そんなに丁寧に作られていないところも多い映画なのに、いい映画を観たという手応えはずっしり残る。10/24に観た際の感想も引用しておく「重々しい歴史物と思いきや、途中から軽さも伴った痛快娯楽時代劇の趣に変わるのは、主に宮城千賀子と高田浩吉のおかげ(高田浩吉は歌も歌う)。あとは有島一郎のバカ殿っぷり。そこにアラカンと山田五十鈴のいい塩梅に重厚な藝が加わって、多彩な味わいを味わわせてくれる。話のスケールが大きいようで小さいのもよい。ロードムービー的な楽しさもあり、子役の藤間勘左衛門がまた達者なのも印象に残る」
358 2020/12/5 『ロスト・ラブ あぶら地獄』 (監督:小沼勝。内田あかり、富川徹夫、山本アキ、砂塚秀夫、田島和子、岸田森、扇ひろ子、ぴんから兄弟、丘奈保美。1974、日活) 題名を見て面白そうだと思ったのだが、見てよかったのは、内田あかりという歌手がいて『あぶら地獄』『浮世絵の街』という歌がヒットしたということを知ったことくらいだった。岸田森もぴんから兄弟も、彼らでなければならないという存在ではまったくなかった
359 2020/12/5 『喜劇 女は度胸』 (原案:山田洋次、監督:森崎東。佐藤蛾次郎、河原崎建三、倍賞美津子、渥美清、久里千春、清川虹子、花澤徳衛、沖山秀子、有島一郎、春川ますみ。1969、松竹) 追悼。監督としては第一作か。脚本担当として積んできたからなのか、改めて観ると、この第一作からちゃんと森崎東節みたいなものが確立されていたようにも思える。それにしても「喜劇」と銘打った自信のほどがすっと腑に落ちるような素晴らしい出来栄えの喜劇。渥美清も倍賞美津子も清川虹子も花澤徳衛も活き活きしている
360 2020/12/7 『街の灯』 (監督:森崎東。財津一郎、堺正章、森繁久彌、栗田ひろみ、谺のぶ子、高沢順子、笠智衆、吉田日出子、田中邦衛、フランキー堺、研ナオコ、ガロ、鈴木光枝、三木のり平、山谷初男。1974、松竹) 堺正章の芝居はひたすら鬱陶しく、女子プロレスの場面などやたら冗長なところもあり、笠智衆の銀行強盗など現実味のない場面も少なくないし、赤ん坊と少女を拾うというくだりも終幕まで連れ歩いて家族になってしまうのに説明がほぼない点杜撰とも思えるのに、観ていてなぜか泣かされてしまう。そしてまた観たくなる、不思議な映画と思う。田中邦衛がバラックのようなおでん屋を破壊したり、笠智衆が万引きしたり銀行強盗したりなど妙な味わいがあって、その所為もあるとは思うが、それ以上にこの映画全体を貫く奇妙な魅力があるように思う
361 2020/12/7 『時代屋の女房』 (原作:村松友視、監督:森崎東。渡瀬恒彦、夏目雅子、津川雅彦、大坂志郎、藤田弓子、藤木悠、中山貴美子、初井言栄、朝丘雪路、沖田浩之、名古屋章、趙方豪。1983、松竹) 40年近く経ってようやく夏目雅子にだけ注目せずに観られるようになったと思った。とはいえ夏目雅子の魅力が特別であることやそれがこの映画を成立させていることに変わりはないし、ついでに言えば安さんが渡瀬恒彦ではなくもっとしょぼくれて色気のない男のほうがよいという感想は変わらないが(しかしそれだと夏目雅子とのバランスが取れなくなってしまうか)。原作ものだけに話をなぞったような感じは残るが、しかし市井の人たちを描く視線の暖かさは森崎東ならではないかな、とも思う。一見工夫がないようでいて、森崎マジックは生きている、という感じかな
362 2020/12/10 『雁』 (原作:森鴎外、監督:豊田四郎。高峰秀子、飯田蝶子、東野英治郎、浦辺粂子、姫路リエ子、田中栄三、直木彰、宇野重吉、芥川比呂志、小田切みき、三宅邦子。1953、大映) もうなにもかも完璧な傑作と思った。作り物めいた魅力が隠れていないところだけがやや難点だが、それもまた魅力。恐らく、この作り方のままリアリティを突きつけられても感銘を受けたと思う。役者が素晴らしいのは言うまでもないが、東野英二郎の、ひとりの地べたの人間の中にあるせこいいい人悪い人を観る者にぶつけてくるような芝居は見事だと思った
363 2020/12/12 『野良犬』 (原作:黒澤明/菊島隆三、監督:森崎東。志垣太郎、上原守次、安座間政吉、山城春芳、内田喜郎、粕谷正治、渡哲也、中丸忠雄、山本麟一、森次晃嗣、芦田伸介、殿山泰司、緑魔子、堀内正美、松坂慶子、赤木春恵、財津一郎、千石規子、田中邦衛、佐藤蛾次郎、中島真智子、浦辺粂子。1973、松竹) 今となってはではあるが、オリジナルの黒澤版よりも現在に近い分、心に響いた。差別の問題(ここでは沖縄人に対する“ナイチャー”の差別)を描いた点や若い刑事(渡哲也)の切迫感は、もちろん自分が実際に知っているわけではないが、映画の中では現実感を持って迫ってくる。芦田伸介の息子とさいごに出てくるおばあが重要なようでいてそうでもなかったようなのが気になるが、全体的にはずっしりと心に残る名作と思った。夫(芦田伸介)が死んだあとの妻(赤木春恵)の芝居には泣かされた
364 2020/12/12 『野良犬』 (原作・監督:黒澤明。清水元、三船敏郎、河村黎吉、岸輝子、千石規子、志村喬、山本礼三郎、淡路恵子、東野英治郎、三好栄子、木村功。1949、東宝) 三船敏郎が焼け跡から復興しつつある町中をほっつき歩く場面など、今観ると意外に冗長。それと黒澤作品だからという色眼鏡を通してではなく冷静に観ると、制作時の社会風俗を写し取って映画として表現しようという点にかなり偏って力瘤を作っているような印象を受ける。話も若い刑事(三船敏郎)の純情で一本気なところに専ら焦点を当てているようで、森崎東版と比べると単調に感じた。もちろん制作した時代の違いもあるわけだが、黒澤だから名作、と決めつけず、リメイク版と見比べるといろいろな発見があるなあと思った次第
365 2020/12/13 『スタング 人喰い巨大蜂の襲来』 (原題『Stung』監督:ベニ・ディエズ。ジェシカ・クック、マット・オリアリー、セシリア・ピラド、ダニエル・リッゾ、クリフトン・コリンズJr、イブ・スラトナー、ランス・ヘンリクセン。2015、米IFC Films) クロアナバチが巨大化するという映画だが、「(直翅目キリギリス科の昆虫に)毒針で麻酔をかけ捕獲し、巣に引き込み、これに産卵するという珍しい生態を持つ。孵化後は獲物が幼虫の食料となる」というハチだけに、人間に寄生して巨大化するわけだが、大きさがちょうど嫌な感じなのはよい(最後に牛に寄生してもっと巨大化するのだが)。しかしいいところ(いやあなところ)はそれくらいかな。それなりに怖いのだが、この手の映画なら欲しいおおーブルブルでもゲラゲラという感じはあまりなかった。あと助かったと思って実は、がしつこい。残念。往路で自動車事故を起こし気を失っている間に見た夢だった、という夢落ちのほうがまだ面白かったかもしれない
366 2020/12/14 『セントラル・インテリジェンス』 (原題『Central Intelligence』、監督:ローソン・マーシャル・サーバー。シオーネ・ケレピ、ディラン・ボヤック、ケヴィン・ハート、フィル・リーヴス、ダニエル・ニコレット、ライアン・ハンセン、ロバート・ウー、ドウェイン・ジョンソン、ネイト・リッチマン、スレイン、ミーガン・パーク、エイミー・ライアン、ティム・グリフィン、ティモシー・ジョン・スミス、マイケル・パトリック・ケーン、アーロン・ポール、ジェイソン・ベイトマン、クマイル・ナンジアニ、メリッサ・マッカーシー。2016、米Warner Bros.) 話の展開の意外さとその組み立て方にしても、役者のキャラクター作りがくどくなくてちょうどよくも際立ったものがある点にしても、高校のヒーローが二十年経ってただの人になっているというあるある的なネタにしても、いじめの問題を深いところまで考えつつそれをさらっと伝えるうまさにしても、実によくできたコメディと思った。「ボブ」の怪しさを、たとえば高校のときに借りたままのスタジャンなどでじわじわ強調していくのもうまい。まったく知らなかったが、全米大ヒットだったとか
367 2020/12/15 『ロケーション』 (原作:津田一郎、監督:森崎東。西田敏行、愛川欽也、根岸明美、大楠道代、柄本明、加藤武、竹中直人、アパッチけん、大木正司、神童累、草見潤平、ふとがね金太、麻生隆子、美保純、乙羽信子、イヴ、佐藤B作、和由布子、初井言栄、殿山泰司、角野卓造、矢崎滋。1984、松竹) 行き当たりばったりで映画を撮っていくという話をなんとも面白く撮るものだなと感心。役者が全般的にいい塩梅に腕を見せるが突出した魅力を放つ場面がほとんどない中で、大楠道代の鈍いような輝きに圧倒された。これは何度も繰り返し観たい作品
368 2020/12/16 『キラーソファ』 (原題『Killer Sofa』、監督:バーニー・ラオ。ハーレー・ネヴィル、リック・サハー、ジェイン・ポール、キムレ・ヴィヴィエス、ピイミオ・メイ、ジェド・ブロフィー、ステイシー・キング、ナタリー・モリス、ジム・バルタクセ、ジョーダン・リヴァース、アンジェリカ・トーマス、グラント・ケリアマ、アドリアンヌ・コーラー、ジャイムズ・ケイン、ショーン・フレミング。2019、新) 全体的には笑いの要素のないB級ホラーと思うが、ソファの造形や動き、というかソファが動くこと自体が可笑し過ぎる。しかし全体の味わいからは、笑わせようとしているようでもないのがまた可笑しい。私にとってはそれだけの映画だったが、愛すべき映画ではあった
369 2020/12/18 『世田谷区,39丁目』 (監督:山下征志。下田翔大、須賀貴匡、馬渕英俚可、浜辺美波、 伊嵜充則、谷藤太、佐伯日菜子。2014、ndjc2013事務局(VIPO)) 尺の制限の所為もあるのだろうが、作中世界の謎の解明が早かったりパラレルワールドという設定が陳腐などの印象が少しあったが、それを除けば少年少女が少しだけ大人になる物語としてしっかりとした印象が残った。いくつかある“もうひとつの世界”がそれぞれ、元いた世界より暴力的という描き方についていい悪いの判断がすぐにはできないが、新鮮ではあった。本作を観る限りでは非凡な監督と思えたので、その後の作品を観る機会が訪れるのは楽しみ
370 2020/12/18 『転校生 さよならあなた』 (原作:山中恒『おれがあいつで あいつがおれで』、監督:大林宣彦。森田直幸、清水美砂、厚木拓郎、石田ひかり、蓮佛美沙子、関戸優希、高木古都、金岡翼、原舞歌、入江若葉、犬塚弘、古手川祐子、田口トモロヲ、小林桂樹、内藤忠司、斉藤健一(ヒロシ)、長門裕之、窪塚俊介、寺島咲、宍戸錠、山田辰夫、高橋かおり、勝野雅奈恵。2007、角川映画) 物語の設定が大きく変わった(特に結末)所為もあるだろうが、それ以上に不安定なカメラアングルと映像の美しさ、芝居と編集のテンポのよさ、役者それぞれの思いの深さ、歌などなど、過去の名作をさらに深化させた趣あり。途中から画面に釘付けになった。素晴らしい
371 2020/12/18 『尾道』 (監督:大林宣彦。大林恭子。1963年) 一度観ただけではどこを捕まえていいのかわからず、大した感想は生まれなかった。これは何度も観て自分なりに消化しないとならないな
372 2020/12/18 『ヨコハマBJブルース』 (原案:松田優作、監督:工藤栄一。松田優作、宇崎竜童、クリエイション、安岡力也、財津一郎、田中浩二、蟹江敬三、馬渕晴子、内田裕也、山西道広、辺見マリ、鹿沼えり、吉川遊士、殿山泰司。1981、東映) 松田優作をカッコよく撮ることが目的なら大成功の映画ということになると思う(歌も含めて)。ただ松田優作という個人の個性が強過ぎるのか、それとも本人が一番やりたい芝居がこういう傾向なのか、松田優作は実は芝居の引き出しがそれほど多くないのではないか、と思ってしまうという点も少し感じた。昔の横浜風景が見られるという点の貴重さはまああると思う
373 2020/12/21 『極楽坊主』 (監督:武田一成。藤岡重慶、由利徹、宍戸錠、戸部夕子、相川圭子、大谷淳、岡崎二朗、藤江リカ、芦屋雁之助、榎木兵衛、隅田和世、真山知子、山本修平、真山知子、深江章喜、安倍徹。1971、日活) これは珍品。スカッと明るいエロ映画なのだが、宍戸錠が主演(怪演)することで、そのスカッと明るい要素がさらにバカ映画として際立ったと思う。他の役者もうまいというわけではないが役にぴったりハマっていて、こういう映画を作るんだという演出の覚悟も強く感じられ、観ていて大変気持ちよい。これは掘り出し物だった
374 2020/12/22 『飛びっちょ勘太郎』 (原作:長谷川伸、監督:久松静児。森繁久彌、山茶花究、淡路恵子、藤山寛美、島倉千代子、春川ますみ、峯京子、立原博、曽我廼家明蝶、石田茂樹、二木てるみ、頭師孝雄、丹波哲郎。1959、東宝) 長谷川伸原作、森繁久彌主演で淡路恵子と藤山寛美が脇を固めて、面白くないわけはないのだが、何故かピンと来なかった。起承転結がもやもやした感じなのと、あと森繁は意外にひとりで主役を張ってももたないのではないかと思ったが、果たして(周囲に芸達者が複数いて主役集団の中の頭目、という感じだと映えるが、ひとりだと意外に花がない、という感じが、この作品ではした)
375 2020/12/27 『最も危険な遊戯』 (監督:村川透。榎木兵衛、石橋蓮司、松田優作、入江正徳、草野大悟、内田朝雄、名和宏、田坂圭子、荒木一郎、見明凡太朗、大前均、阿藤海、市地洋子、岡本麗。1978、東映) 今となっては松田優作がカッコいい、それだけを追求して見せるための映画だなあという印象。松田優作にハマってないと、初見時はともかく割と退屈するのではなかろうか。どうだろうか。大野雄二の音楽は、テーマ的な曲はありきたりの印象だが、銃撃戦などでフリーの趣が出ている演奏は(マイルスっぽいが)なかなか素晴らしいと思う
376 2020/12/27 『韋駄天街道』 (監督:萩原遼。長谷川一夫、岸井明、横山運平、榎本健一、澤井三郎、中村是好、小島洋々、山根寿子、鳥羽陽之助、澤井けんじ、清水将夫、森健二、宏川光。1944、東宝) 1944年の映画だし、冒頭に「撃ちして止まむ」という標語が表示され、内容もお国のためにみんな力を合わせて郵便事業に従事しようという道徳臭いものだが(主役の長谷川一夫とエノケンが積極的に郵便事業に取り組む様子で終わる)、国策映画というよりも血の繋がっていない父子とほんとうの親子の葛藤を描いた人情噺である点のほうが印象に残る。それよりも印象に残るのは、唐突に明治維新が起こり(しかも字幕たったふたつで幕府瓦解と新政府樹立が説明される)、長谷川一夫とエノケンが装いも颯爽と新時代に馴染んでいるという終幕だ。唐突すぎて笑う
377 2020/12/28 『ヘイトフル・エイト』